反撃の日

 ロベルを送った後、私はすぐにみんなを集めて安息領を襲撃する準備をした。


 発見された座標はバルメリア王国の外だった。正確には国境の外に隣接した山の中だった。資源もあまりなく、山の向こうの国との関係があまり良くないため、一種の緩衝地帯の感じで放置された所だ。


 そのような所を武力で襲撃すれば、向こうの国と紛争が起きる危険がある。でもそちらは父上が何とかしてくれることにした。その代わり、こっちも騎士団を本格的に帯同することはできないけれど……戦力には問題ない。


「では作戦をもう一度確認してみよう」


 ジェリアは山を見上げながら言った。


 今この場にいるのはケイン王子を除いて私と攻略対象者全員。その他の重要人物はジェフィス程度で、残りは我が家から派遣された魔道兵団の兵力約百人だ。公爵家の息子娘たちがこれくらいの人数で集まっているので護衛は必要だから。


「ところでテリア。本当にただ暴れてもいいのか?」


「ええ。その部分は父上が何とかしてくださるの」


 どんな方法を使うかは大体予想しているけど、実はあまりいい方法じゃないから堂々と言うのはちょっとアレだ。


 ジェリアは疑いそうな視線をしばらく向けたけれど、すぐやめてまた山を見つめた。


「多分あそこにいる者は安息八賢人が一人か二人ぐらい。そして八賢人には及ばないが幹部が多数。奴らにもそれなりに重要な支部であるだけに、駐留戦力も相当な水準だ。……と言ってたな?」


「ええ。いつ誰がいるかは少しずつ違うけど、多分今なら八賢人が二人ぐらいいると思うの。あいつらも私たちがもうすぐ襲撃することは知っているはずだから」


 あの支部は安息八賢人の一人であるタールマメインの本拠地だ。以前襲撃してたテシリタの工場などは研究を指揮するための仮住まい程度に過ぎなかったけれど、八賢人の本拠地になると規模が格段に違う。


 しかもタールマメインは能力の特性上、大規模任務だけに乗り出す。それ以外の時間は本拠地に閉じこもって過ごす。今はタールマメインが他の場所に出没していないから、本拠地にいるのは確かだ。


 普通ならタールマメインの本拠地に他の八賢人が来ることはあまりないけど、すでに私はベルトラムを相手に優位に立つ姿を見せた。タールマメインは安息八賢人でも上位の実力者ではあるけど、彼一人では部下まで含めても私たちを相手に本拠地を守ることはできない。そのため、他の八賢人が追加で駐留している可能性は高い。


「この時期ならテシリタには別の任務があるはずだからあそこにいないはずよ。もちろん元の計画を取り消してテシリタをあそこに配置した可能性もあるけど、テシリタの仕事も大事だからそうはしなかったと思う。他の八賢人も同じだし……多分あそこにいる可能性がある人はボロスやピエリくらいかしら」


「最悪、三人くらいいるということね?」


 リディアの言葉だった。


 最悪を仮定する割には特に恐れない表情だった。彼女はまだ一人で八賢人に勝つほどじゃないけど、強くなった私たちの共闘なら十分に相手にできると思うのだろう。その自信はいい。


「ええ。でもピエリは多分いないと思うわ。この時期のピエリの行跡は不明だけど、この時から他のことをしていたような情況があったから」


「それで二人いると言ったんだね?」


「まぁ、これはあくまで『バルセイ』の内容をもとに判断しただけ。予想しなかった事態が起こることもあるから油断は……」


 私は話を最後まで続けられなかった。


「あれ? なんで急に雨が……」


 何の前兆もなく、急に雨が降り出した。


 雲一つない澄んだ空から雨粒だけが落ちた。そうするうちにまるで一歩遅れて思い出したかのように雲が急激に押し寄せ、それを待っていたかのように大雨が降った。わずか数メートル先すら見分けがつかないほど猛烈な雨だった。


「急に何か……クッ!?」


 私とジェリア以外のみんながふらついた。魔道兵団の兵士の中には耐えられずひざまずいた者もいた。


 全身が重かった。単に服が濡れて重くなったレベルじゃなかった。まるで大きな鉄の塊が私の体を押さえつけるような感覚と体に力が入りにくい感じが同時に感じられた。


 ジェリアは私と同じように毅然として立っていたけれど、突然変貌した空を見上げながら眉をひそめた。


「平凡な雨じゃないな」


「私たちが来たことにもう気づいたらしいわね」


 ――紫光技特性模写『活気』


 ――『活気』専用技〈傲慢な活力〉


 私の魔力が私たち全員を包んだ。体の重さが減り、力が戻ってきた。完全に元に戻ったわけじゃなかったけど、この程度なら当面の戦闘遂行に支障はないだろう。


「テリア。やはりこれはアレか?」


「ええ。タールマメインの力よ」


 味方の力を増幅し、敵対者の力を削る広域支配技。この雨自体がタールマメインの力であり、彼が大規模任務だけに乗り出す理由でもある。


 この雨の中で戦えば安息領の平凡な雑兵や下位幹部さえも脅威的な存在に変わる。対応できる魔道具を事前にみんなに持参させたけれど、やっぱり完全に防ぐことはできないらしい。


「予定通りタールマメインは私が相手にするわ。ジェリア、貴方は他の安息八賢人を引き受けてね」


「ふむ。ボクがタールマメインを相手にしなくてもいいか?」


「相性が悪いの。だから私に任せてね」


 正確に言えば、ジェリアとタールマメインはお互いに大きなダメージを与えにくい。そのため、二人が戦ったら時間がかなりかかるだろうし……雨を通じて戦況を支配するタールマメインを早く制圧できなければ、みんなの戦いが難しくなる。


 突撃する前に最後に作戦を確認してみようか。


「まず私とジェリアが正面から大暴れするわ。奴らは最初は雑兵と下位幹部だけを前面に出すはず。まず私たちが八賢人を引き出すまで、残りの人数は待ち伏せしたまま待機。そして八賢人を引き出した後、私がタールマメインの注意を引いてから残りの人員が一斉に戦闘を開始すればいいの」


 私は奴らが隠れている山を睨みながら強く断言した。


「行くわよ。バカなテロリストたちをやっつける時間よ」


―――――


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