第十一章 激動のバルメリア 上

プロローグ 二人の神の観点

「まったく。困らせる奴だね」


 すべてが終わった後。そう言いながら嘆いていたら、テシリタが面目ないような顔で近づいてきた。


「申し訳ありません、筆頭。オレの力が足りなくて筆頭にお手数をおかけしました」


「いいや。誰が来ても今のあいつを止めることはできなかったね。ワタシがミスしたから」


 力を使いすぎてバランスが逆転し、『隠された島の主人』が力を発揮する機会を与えてしまった。


 テシリタは人間の中では最強の仲間入りを果たす子。しかし、それはあくまで人間の中でそうだということであって、神の力に対抗することはできない。さっきの『隠された島の主人』の力は人間の最強者と呼ばれるパロムが来ても止められない程度だったから。


 後ろを振り返った。建物はそのまま。でもこの場所を隠していた異空間と結界は消えた。ワタシと『隠された島の主人』の戦いに耐えられなかったのだ。そして場所が現世に戻ってしまった以上、ここの位置を曖昧に隠すことが不可能になった。


 最初からあいつの目的はそれだった。だから今回の戦いはこちらの明白な敗北だろう。


「あの子の前に出て力を使ったのがやっぱりミスだったかな? まぁ、望むことを成し遂げたから関係ないけどね」


「ですが異空間が壊れて現世に戻ってしまいました。予定より早くあの小娘がやってくるでしょう」


「プランBに行こう。あの子が予想より早く来た時のために備えたそれでね」


 もともとは異空間のことがすぐバレた時のための保険格計画だったけど、まさか『隠された島の主人』の介入でそのプランを使うことになるとは。


「ですが……どうしてその神は直接訪ねてきたのですか? ここを早く明らかにすることがその神に何の利益があるのですか?」


「大きな違いがあるんだよ。まぁ……そっちの方はキミが知る必要はないけどね」


 今回の対決は事実上ワタシの敗北。もちろんこの敗北は局所のことに過ぎず、ワタシの計画は依然として回っている。でもこれからの有利さが多少減ったのは仕方ないだろうね。


 あの子はすでに安息八賢人のベルトラムを相手に勝機をつかむほど成長した。先日、ワタシがあの子を止めたのは『隠された島の主人』が力を乱用したおかげでワタシが力をある程度使える隙間ができたためだ。しかし、あの子を相手にして予想以上に力を入れてしまい、結局バランスが崩れてしまった。


 今回の対決でバランスはほぼ平行になった。あいつも力をむやみに使うことはできないけど、ワタシももう積極的に介入できない。


「オレが直接その小娘を止めます」


「いや、キミには他にやることがあるんだよ。ピエリの奴にもね。残念だけどあの子を止めるほどの戦力は集められないだろう」


 安息八賢人だとしても強さが下位圏の奴はもうあの子を防ぐことが難しい。それにジェリアという子もあの子に次ぐほど強くなってしまった。


 そして何よりも――しばらくの去就が萎縮するワタシとは異なり、『隠された島の主人』にはがある。


「もう迂回を始めたらしいしね」


 建物を眺めていたワタシはため息をついた。


 愉快だが微妙に足りないこの状況に失笑しながら。




 ***




【あいつらが隠れていた異空間を壊した。貴方ももう感じただろうけどね】


 テリアは私の突然の発言に眉をひそめた。


「貴方が直接乗り出したってこと?」


【そう。貴方のおかげでね】


「私のおかげで……? どういう意味?」


【神は世界に簡単に関与できない。無理に力を使おうとすると世界のバランスが崩れるんだから。そして崩れたバランスが神を追い出そうと動くよ。世界の免疫力というか。でもその免疫力が一人の神に集中すれば、それだけ他の神が介入する暇ができるんだ】


「筆頭が私を相手にした分、貴方が介入する暇ができたってこと?」


【そう。もともとバランスはあいつに有利だった。私があれこれ無理をしたから。でも貴方が予想より強くて、あいつも必要以上の力を使ったね。おかげでバランスが逆転して私が力を使えるようになったんだよ】


 その時の戦いでバランスは完全に平行になった。それでもあいつは建物自体を守るだけで限界だった。どうせバランスを諦めてもっと力を使ったとしても、異空間の中での戦いの余波だけでもテリアにバレたはずだから意味がなかったしね。


 テリアは不審そうな眼差しで私の方へ向かった。


「確かにロベルの幻影の位置が特定されたけれど……急にどうしてそんなに積極的に介入したの?」


【あいつの計画を崩すために。とにかく今回の戦いで奴らの筆頭はしばらく力をまともに使えなくなったよ。その隙に仲間を救い出しなさい。……そして、私がこれからも助けられるとは期待しないで】


「そんなことは望んでもいなかったわ。私の力ですべて解決するから。今度筆頭とまた戦っても、その時は勝てるのよ」


 自尊心で虚言を吐く子ではない。眼差しを見ても、何か勝つ手段をすでに講じていることはわかる。


【まぁ、自分でうまく努力するようにしなさい】


 伝えるべきことはすべて伝えた。残りは自分でやるだろう。


 今は私もあいつも当分直接出られない。テリアと安息領の直接対決になるだろう。


 ……いや、純粋な直接対決ではないと思うけど。


 アルカを思い浮かべる。相変わらず未熟で愚かで役に立たない子を。けれど私にとって最も利用しやすい子でもある。


 まだ多くのものを吸収することはできなかったが、すでにきっかけを作った。その次は少しずつ進めればいい。役に立たないなら役に立つようにしてあげればいいだけ。


 私が望むこと。しようとすること。それの多くはすでにテリアに話しており、そこに嘘はない。しかし目的を達成するために何をするかまでは言わなかった。


 まぁ、関係ないよ。どうせ私が警戒しなければならないのは安息領のあいつの計画だけ。もうあいつの計画の〝結果〟を知っているけど……だからこそあいつも明らかになったことを二度としないだろう。


 頑張って、テリア。自分自身のためにね。


 そしてそれが私の願いを叶えてくれるだろう。


―――――


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