不明な意図

「トリア・ルベンティス。……確かに面白い能力だよ」


 私の名前を呼ぶ者を睨んだが、相手はただのんびりと楽しそうに笑うだけだった。


 自分を安息八賢人の筆頭と紹介した者だった。しかし筆頭という存在へ持っていたイメージとは言動が少し違った。まるで軽薄でいたずら好きな子どものようだというか。でもそのような姿の中からなんとも言えない分からない不気味を感じた。


「『融合』は唯一無二ではないけど珍しい能力だよね。しかも無限の可能性を持っている。キミはその価値を理解しながらも自由に広げることを拒否しているね。面白い選択だよ」


「勝手に私を知っているように言うな」


 私が反論すると、筆頭の隣に立っていた女性が私を睨んだ。幼い少女の外見の中に数百年の歳月を圧縮した魔女、テシリタだった。私がすでに彼女の顔を知っているためか、安息領特有のマントと頭巾なしに自分の姿を完全に表わしていた。自分の姿を徹底的に隠した筆頭とは違って。


「生意気なものめ。むやみに口を開くな」


「ああ、大丈夫だよテシリタ。あのままにしてもいい。あの格好では行動で反抗もできないからね」


 ……それはそうだね。


 今の私は手足を縛られたままひざまずかせられている。しかも手足を拘束した綱はどうやら特殊な処理が施された魔道具らしく、私の魔力を全く発動できなかった。綱自体も魔力が使えない体では破壊できないほど堅固だった。


 テシリタはそんな私の姿を見て頭を下げた。


「……筆頭のお望みであれば」


 筆頭は私に近づき、身をかがめた。手袋をはめた指が私のあごを持ち上げた。


「でも……自分でかけておいた金製を主のために壊すことにしたんだね」


「何を言っているのかわか……」


「キミ。ワタシたちの成果を『融合』で吸収するために来たんだよね? 一次元高い存在に進化してキミの主の役に立つために」


「!」


 ……見破られたのか。


 確かに悩んでいたのは事実だ。私にもラスボス化の可能性があれば、ジェリア様のようにもっと強くなる手がかりになると思っていたから。


 もちろん元に戻れるという確証はない。ジェリア様も少しでも肉体の変質が残った。それに私は『融合』で他の存在を物質的に受け入れる形になるので、さらに変質した形が残るだろう。後で融合した一部を吐き出すとしてもどんな後遺症が残るか分からない。


 しらを切っても通じなさそうだね。


「……そういうことを考えたのは事実だけど、まだ決めてないんだよ。悩んでいたところにこんな格好になったんだからね」


「こうなったついでにその可能性を真剣に活用してみようという考えくらいはしているじゃない?」


「それが本当かどうかはともかく。で? 私がそんなことを考えていたらどうするつもり?」


 私がテリアお嬢様の力になることを警戒してラスボス化をさせないのならば……まぁいい。テリアお嬢様が最も警戒しているのは残りの五人のラスボスたち。そのうちの一人が排除されるだけでも負担が大きく減るから。


 筆頭は何だか楽しそうに笑った。


「まぁ、キミが望むことをしてあげることはできるよ。そっちの方がワタシにも都合がいいんだね」


「私がお嬢様を殺すと思ってる?」


「別にどっちでもいいよ。キミが化け物になってあの子を殺すことも、また気を引き締めてあの子の力になることも」


「……どういう意味?」


 思わず心から尋ねてしまった。


 私のラスボス化がテリアお嬢様の力になっても構わないって? それは安息領の計画の邪魔になるものじゃない? まさかお嬢様の知らない罠でも……。


「安息領が成功するかどうかはワタシには関係ないんだよ」


「……え?」


「安息領はあくまでもワタシの目的を達成するための道具に過ぎず、ワタシの目的そのものじゃないんだ。目的を達成できる手段が他にあるなら、あえて安息領にこだわる必要はないよ」


「お嬢様があんたたちを助けてくれると思う? 幻想が大きすぎるね。何があってもお嬢様があんたたちの力になってくれることは絶対にない」


 テシリタがまた私を睨んだけどさっきの制止があったせいか、今度は何も言わなかった。


 いや、何よりも……筆頭が相変わらず笑っていた。


「特に構わない。ワタシが期待しているのはあの子が今のように私を敵対することだから」


「それはまた何の……」


「敵対者がワタシの相手になるほど成長するのも私にはいいことだよ。詳しいことは言えないけどね」


 沈黙していたテシリタが口元を上げた。明白な嘲笑だった。


「貴様らが何を何としても、筆頭はそのすべてを超越される。貴様らのもがきさえも筆頭の力になるだろう」


「ふん。本当にそうならどうして私に言う? そんな話を聞いて私たちが諦めることを願うんじゃない?」


 これは無理ではなく本気だった。


 お嬢様の歩みは結局安息領の敵であり、お嬢様が諦めたら安息領の得になるから。あんな風にお嬢様の行動が自分たちの利益になるとごまかすことでお嬢様の歩みを萎縮させようとしてもおかしくない。


 しかし筆頭はまた笑い声を上げた。


「フフ、特に構わないからね。キミたちが諦めるならワタシは予定通り安息領を利用するだけよ。だからキミたちに諦めるという選択肢はない」


「……じゃあ、なんであえて言った? 言う必要が最初からなかったんじゃない?」


「面白いから。しかも……キミたちは知らないはずだけど、ワタシにはそれ自体が意味のあることなんだ」


 筆頭はそれ以上言わなかった。私をしばらく黙って見つめ、一度くすっと笑っただけだった。


「まぁ、話はもういいよ。どうか無事に帰ってあの子にワタシの言葉を伝えてほしいね」


「それはまた何の……」


「テシリタ、始めるように」


 筆頭は急に背を向けて部屋から出た。テシリタと私だけが残された。


 テシリタは私を見て微笑んだ。


「痛くはないだろう。……しばらくはな」


―――――


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