後のための話

 すべてが終わった後、私はロベルを連れて一旦アカデミーに復帰した。


 結局、筆頭はベルトラムが完全にその場から離脱するまで時間だけを稼ぎ、その後は何もせず悠々と去った。アルカとトリアはベルトラムに連れ去られ……帰ってきたのは私とロベルとイシリンだけだった。


 それでも私たちが戦っている間、イシリンがエリネさんを帰宅させてくれたことだけは幸いだけど。


「ごめんね。私がもっと早く合流していたら防げたのに」


 イシリンがそう言ってくれたけれど私は首を横に振った。そもそも私がもっと確実に対処してたら防げたはずだから。魔力の暴走で自分自身を傷つけるほどの無理をしてでもベルトラムを早く倒したらよかったはずだから。


 忙しいケイン殿下を除くみんなを集めて経過を報告すると、真っ先にジェリアが口を開いた。


「アルカとトリアを拉致したと? いきなりなぜあの二人なんだ? 考えられる理由はいくつかあるが、確信できることはないんだな」


「私も同じよ」


 二人がロベルを脱出させた時、ベルトラムはそれを止めなかった。筆頭が現れた時点でロベルをまた連れて行ったり、私まで制圧して一度に始末できたのにそうしなかった。


 しかもあえてその場で殺さずに拉致したということは何か利用する余地があると思ったからだろう。


「テリア、今すぐ二人を助けに行かなくても大丈夫?」


 リディアはそう言った。


「ジェリアの時は無理してでも早く行こうとしてたじゃない。それはジェリアのラスボス化のためだったし。トリアも同じ可能性があるでしょ?」


 当然の指摘だった。私もあんな意見が出るとは予想してたし。


 そのため、答えはすぐに出た。


「ジェリアの時とは事情がちょっと違うわ。ジェリアのラスボス化がゲームより弱いとしても、その時の私はジェリアを取り戻すことができるとは確信できなかったの。〈五行陣〉を習得したのは賭博に近かったし、それが失敗したら私たちは全滅したはずよ」


「今は対応できるから大丈夫ってこと?」


「それよりはそもそも相手がその手段を使えないと思うわ。今のトリアが安息領に協力するはずがないから。強制的に特性を発動させる方法はあるけれど、それでは力を百パーセント引き出すことはできない。その程度ではトリアがラスボス化するとしても、ジェリアみたいにゲームより弱くなるわよ」


 そこまで聞いたジェリアが嘆声を発した。


「なるほど。結果的にボクはラスボス化の影響で強くなった。トリアを中途半端にラスボス化させてボクのようにまた戻ってくると、結果的にこちらの戦力だけ強化してくれる格好になる。テリアが〈五行陣〉をすでに習得しており、ボクも『冬天世界』に到達した今ならその可能性は大きいぞ」


「そうよ。しかもトリアをラスボス化させること自体も簡単じゃないわ。中途半端な量だけ融合させるとむしろトリアが強くなるだけだから。そうなると『融合』に耐えられる限度だけが強くなるの」


 トリアのラスボス化の核心は、耐えられないほど巨大な力と物質を一度に受け入れて精神が崩れたことだ。けれど耐えられるだけの力が与えられればトリアが強くなるだけで、耐えられる限度自体が大きくなることになる。それこそジェリアの言う通り、こっちの戦力だけがさらに強くなる結果になるだろう。


「でも危険がそれだけではないじゃん? 敵陣に彼女たちが捕まっていること自体が危急な事案だと思うよ」


 これはシドの指摘だった。隣からジェフィスも頷いた。


 もちろん今の私の外見だけ見ればそう言えるだろうけど……。


「……今私が焦っていないと思う?」


 言葉を口にした瞬間、思わず魔力が漏れた。『万壊電』のスパークが鋭く飛んだ。


「気持ちだけはジェリアの時みたいに今にも飛び出したいわよ。行って安息領のクズを全部切って二人を取り戻したい。けれどどこにあるのか分からないのよ。ロベルが付けておいた探索の幻影の気配が曖昧に広がっているの。まるで絵の具を水に溶かしたようにね。これじゃあ私が行ってもできることがないわ」


 対象が異空間の中にあれば、このような現象が起こりうる。つまり二人は現実のどこかにいるのではない。それでも異空間自体が現実の空間と連結された次元であり、気配が感じられる範囲内のどこかに異空間に通じる通路がある。


 でも正確にどこなのかを特定することはできない。一ヶ所かもしれないし、色んな所かもしれない。通路を探すためには結局、気配が感じられる範囲全体を隅々まで捜索する方法だけだ。


 それ自体は不可能ではない。何よりも私はオステノヴァ公爵家の娘で、今この場にいる攻略対象者や周りの人たちもみんな地位の高い貴族の子どもたちだから。人を動かして好きな範囲を捜索するのは簡単なことだ。ただ時間が少し必要なだけ。


 でもそれを相手が知らないわけがない。目的は多分……。


「一応はできるだけ人を解放して二人のいる所を見つけるわ。相手が狙うのはその時間を稼ぐことでしょ」


「時間を稼ぐ、か。トリアのラスボス化はミッドレースオメガの研究結果と関連があったと言ったな。ボクたちが到着する前にトリアの魔力を抽出して研究を進めるのが目的かもしれないんだな」


 ジェリアの言葉に私は頷いた。


「確信することはできないけれど、少なくともトリアの魔力を利用することは確定だと思うわ。それが一番重要な目的なのか、それとも拉致したついでに利益を得ようとするオマケなのかは分からないけどね」


 ……そして一つ、気になることがある。


 安息八賢人の筆頭は二人に〝別に〟危害を加えることはないと言った。その言葉を信じるつもりは当然ないけれど、〝別に〟という言葉がついたのが妙に気になる。


 もしかしたら……。


―――――


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