意外な存在
「隙を与えないというその姿勢は立派だけど」
あの者の手から邪毒が噴き出した。
邪毒の魔道具とか、邪毒で強化された魔力のようなものじゃなかった。文字通り自分自身の魔力として邪毒を吐き出していた。まるで邪毒の剣状態のイシリンがそうであるように。
〈三十日月〉の斬撃が邪毒に防がれ消滅したことよりも、その事実自体が私にはショックだった。
「その力は……!!」
「やっぱり分かるんだね。あいつが傍にいるからかな?」
信じられないほどゆったりとした態度だった。まるで私の敵対感など何でもないと言うように。
あの者が私が思ったそいつであれば、そう考えるのも無理はないだろう。
――『天上の鍵』権能発現〈記憶降臨〉
すぐ『天上の鍵』を召喚し、浄化神剣の力を発現した。オリジナルの浄化神剣の光ならどんな邪毒といっても打ち破ることができる。その力を凌駕したのは今まで全盛期のイシリンだけだった。
一言で
――神法〈神具創造〉・『逆化神剣』
漆黒の神剣が浄化神剣の一閃を防いだ。
まるでオリジナルの浄化神剣の色と力を正反対のものに反転させたような剣だった。なめらかな剣身が放つ漆黒の閃光はそれ自体も邪毒である上に、その光を浴びるすべてを邪毒そのものに変えてしまった。『天上の鍵』に憑依された浄化神剣と全く同じ出力と威力で浄化神剣の力を正確に相殺した。
「その剣は何!?」
「浄化神剣を参考にして作ってみたよ。思ったより性能がいいね。たまに使ってもいいかな」
あの者は軽い態度で私の剣を防ぎながら、空の手でベルトラムに合図した。
「あそこにいる三人を連れて引き下がるように。その間この子はワタシが預かってあげる」
「ご恩に感謝します。そして申し訳ありません、お手数をおかけして……」
「無駄な言葉で時間を稼ぐ方がもっとワタシを煩わすことだよ?」
ベルトラムがあんな態度をとるなんて、やっぱり……!
それよりベルトラムを逃してはいけない!
「行かせると思わないで!」
――天空流奥義〈五行陣・火〉
空間を完全に支配する斬撃の暴風を放った。目の前の者も、向こうにあるベルトラムもまとめて攻撃するため。同時にあの者の行動を封じ込め、ベルトラムに突撃する余裕を作ろうという目的もあった。
けれどあの者は余裕を持って対処した。浄化神剣の力が込められた〈五行陣・火〉をただ漆黒の神剣を一度振り回しただけで完全に相殺してしまったのだ。それだけでなく、溢れる邪毒が私を襲った。
「ふん!」
どんなに強くても、どれだけ多くても邪毒は邪毒。『浄潔世界』の加護を受ける私には通じない。
漆黒の神剣の力をくぐり抜けて前進した。あふれる邪毒が強すぎて魔力を放つことはできなかったけれど、本気の最高速度で突進して剣を振るだけでもよほどの敵は斬れるだろう。
でも相手は平気で剣で防いだ。
「困ったよ。こっちも力を乱用してはいけない立場だからね。あいつが割り込むことになるんだ」
「あいつって誰?」
「ワタシに聞く必要はないはずよ」
――神法〈神具創造〉・『神縛の鎖』
相手が展開した魔法陣から黄金色の鎖が飛び出した。剣で打ち下ろしても、魔力をぶつけても鎖は全く傷ついていなかった。鎖があっという間に私を縛り付けた。私の魔力を抑えられずきしむことはあったけれど、これを壊すのは私にも時間がかかる作業のようだった。
この技から感じられる力は……。
「あんたが安息八賢人の筆頭なの?」
「一応そう呼ばれているよ」
……やっぱり。
安息八賢人の一員であるベルトラムが丁寧に接する相手。しかもベルトラムより遥かに強力で、何よりテシリタの神法と同じ気配が感じられる術法。筆頭がテシリタの師匠でもあるから、これらすべての要素を組み合わせると相手が筆頭以外の誰かである可能性はほとんどない。
「お?」
筆頭はふと身をかがめた。突然飛んできた物体が筆頭の横をかすめて私の後方に落ちた。
いや、物じゃなくてアレは……。
「ロベル!?」
「お嬢様……!」
飛んできたのはロベルだった。ボロボロの体と大きく消耗した魔力があそこでの激戦がどうだったかを如実に見せてくれた。
彼の表情を見ると一人だけ飛んできたのが不本意であったことは明らかだった。ということは……まさか。
「チッ……!」
魔力を爆発させて鎖を破壊した。ずっと私の力と魔力を抑え続けながら鎖が弱くなったおかげで壊すことができた。
――天空流終結奥義〈月食〉
次元を超えて空間を切り裂く魔技を放った。
こんな至近距離で油断しているならピエリやテシリタにも脅威的な奥義だけれど……。
――神法〈神具創造〉・『■■■■』
筆頭は妙な感じの剣を作り出した。その剣が光を放出した直後、〈月食〉で次元の隙間に隠れたいた刃がまた現れた。平凡な斬撃となってしまった剣が筆頭の剣に力なくぶつかった。
ベルトラムがアルカとトリアを連れてここから抜け出しているのに、このままじゃ……!
「心配する必要はないよ、別に危害を加えることはないから」
「それを私が信じると思う?」
「信じないからって他に方法がある? どうせ救出しに追いかけてくるつもりじゃん。そこの少年の力を利用して」
筆頭がロベルを指した。
二人がよりによってロベルを脱出させた理由。それは恐らく拉致そのものを防ぐことができないと判断し、私が二人を見つけるための手がかりを残すことだったのだろう。
ロベルの探索用幻影は特殊だ。植えておいてよく維持すればこの惑星のどこにいても見つけることができる。あっちの状況は分からなかったけれど、ロベルに幻影を植えさせて脱出させたなら二人が拉致されてもロベルの能力で見つけることができる。
アルカはこの世の〝主人公〟で、トリアはラスボスの運命を持つ者。二人に比べるとロベルは重要度が低い。それを意識した選択でもあったのだろう。
「キミには期待しているんだよ。頑張ってね」
筆頭は楽しそうに話した。
―――――
実は家の問題が起こってしまったせいでたまに執筆作業が難しくなる日があります。
それでも本作の更新に大きな問題はなかったのですが、たまに今日のように更新を休むことが発生するかもしれません。
基準がなく無期限にお待ちいただきたいとは言えませんので、決められた日時の19時5分までに更新されない場合はその日の更新をお休みと考えていただければ結構です。
今の家の問題は原因も解決も私次第ではありませんので、いつ解決するかは断言できませんが、できるだけ正常に更新できるよう頑張ります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます