決着の直前

「……うるさいわ」


 不安なのも、焦っているのも事実だ。ただでさえ奴らはジェリアを拉致してラスボス化させたことがあるから。またもや仲間を拉致されること自体も情けないことだけれど、今回も何か大変なことを犯すかもしれない。特にトリアのことが危ない。


 けれどまだ絶望はしていない。


「目的が何であっても、何を企んでいるとしても。私が勝てば万事解決だから」


 今この場に他者の気配はない。安息領の雑兵たちはまだ活動しているけれど、彼らの力では戦況に介入できない。ミッドレースベータたちは人の拉致みたいなことができる知能じゃないし。いや、たとえそのような知能があったとしても私たちの戦いに割り込めないのは同じだ。


 三人がベルトラムの力に圧倒されても、拉致を終えられるのはベルトラムだけだ。それならベルトラムを叩きのめすだけでいい。


 ――天空流〈月光蔓延〉


 双剣の乱舞が前方のすべてを破壊した。大きく開かれた空間を突進するとベルトラムが私を止めようとするように氷の兵器を展開した。でも〈二つの月〉の双剣を防ぐことはできなかった。『万壊電』と『獄炎』の魔力に殴られて残骸さえ残せないまま消滅していく氷の後ろで、ベルトラムは歯を食いしばって魔力を噴き出した。


 ――『冬天』専用奥義〈冬神の武具〉


 四体の氷人形が現れた。人形はそれぞれ剣か槍を持っていた。


 人形は平凡だったけれど、手に持った武具は違った。いずれも強力極まりない魔剣と魔槍であったし……『バルセイ』で見た記憶があったものだ。それぞれが単純な氷と冷気を超越する強力な能力を持つ兵器であり、ベルトラムの切り札だ。


 でも弱点と対処法も『バルセイ』で全部見たわよ。


 一つ目の人形の魔剣。刃が通った空間そのものを完全に停止させることで空間を乖離させて対象を破ってしまう。けれど側面が弱いため、〈二つの月〉の双剣で側面を突いて破壊した。


 二つ目の人形の魔槍。二つの槍刃がそれぞれ異なる方向に渦巻く魔力を発生させ、それが対象を凍らせてしまうと同時に逆方向にねじって破壊する。けれど二つの槍刃の間、力の空白が発生する小さな点を正確に刺して槍の核心を崩壊させた。


 三つ目の人形の魔槍。魔力を凍らせて攻撃と防御を無力化し、絶対的な貫通力で貫く。でも力を一度大きく放出した後はほんの少しの隙間ができる。〈二つの月〉の剣一本を犠牲にして隙を誘発した後、残り一本で切った。


 最後の人形の魔剣。特別な機能なしに、ただ絶対的な冷気で斬る対象を凍らせて破壊する。極強の出力を誇るけれど力の原理が単純であるため対処法も単純だ。正反対の性質を持った力を極強の出力でぶつけばいい。ついに私の手に残った一本の剣がそれが可能な物であるため、激突で力を相殺してから多数の魔力剣を浴びせて破壊した。


 力尽きた剣を捨てて突進しながら両手に魔力を凝縮した。


 ――天空流奥義〈空に輝くたった一つの星〉


 莫大な魔力が集約された一本を両手で握った。ベルトラムは私に対抗するかのように無数の氷の兵器と盾を召喚したけれど、私はただ魔剣を一度振り下ろした。圧倒的な魔力があふれ、ベルトラムのすべての氷を破壊し消滅させた。


 崩壊の雷電と地獄の熱気が濃く残った空間を走った。ベルトラムは中途半端な力では私の突撃を防ぐことができないことに気づき、魔力を凝縮した。おそらくできる限り最強の一撃で私を迎撃するつもりだろう。


 そのくらいは私も予想した。


 ――天空流奥義〈三十日月〉


 周辺一帯の魔力を完全に掌握し、私の剣に集束した。


 もともと強力な奥義に〈五行陣・水〉の原理を適用してさらに強化した一撃。今まで私が撒いた魔力とベルトラムが放出した魔力、その他戦闘中に爆発して残留したすべての魔力が刃に集まった。相反する性質の魔力は〈三十日月〉の支配力と魔力調律で融和させ、私の魔力に変えた。


「それは……危ないな」


 ベルトラムが作り出したのは一本の氷倉だった。


 見た目は平凡だけど魔力はそうじゃなかった。おそらく今ベルトラムが凝縮できる限界まで魔力を圧縮した逸品だろう。これも『バルセイ』で見たことがある。最後の瞬間に使う最強のボスパターンだった。


 弱点なんてない最強の魔槍だけど――構わない。


「はああああっ!」


 ベルトラムの魔槍に〈三十日月〉の剣を堂々と激突させた。


 あの技に立ち向かう唯一の方法は純粋な力比べで圧倒すること。『バルセイ』のアルカがベルトラムと戦った時はまだアルカが十分に強くなっていない状態であり、仲間たちの力を『万魔掌握』ですべて集束して辛うじて打倒した。


 けれど今の私ならその必要はない。


「くっ!?」


 氷槍が壊れて飛び散った。さすがに強力だったけれど、すでに激戦を繰り広げながら周りに残留した魔力は膨大だった。そのすべてを〈三十日月〉に凝縮し増幅した一撃はベルトラムの最高の槍を圧倒するほど強かった。


 槍を壊しながら進んだ刃がベルトラムの体に向かい――。




「おっと、そこまで」




 刃がベルトラムを斬る寸前。突然現れた手が剣を止めた。


 何の気配も前兆もなかった。手が刃を握っている今この瞬間さえも魔力や力は感じられなかった。にもかかわらず、その手につかまった剣は動きもしなかった。


 安息領の特有のマントと頭巾で姿がほとんど隠された者だったけれど、頭巾の下からちらっと見える口が笑っていることだけは見えた。


「ベルトラムにはまだやることがあるよ。だからこんな所で失うわけにはいかないからね」


「あんたは誰?」


 話しながらも剣を構成する魔力を解体し、新しい魔力剣へ集束した。〈三十日月〉の力までも全部移して。そして返事を待たず斬撃を放った。


 しかし、相手は相変わらず笑っていた。


―――――


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