ベルトラム

 ――天空流〈流星撃ち〉


 刃先に魔力を高密度に凝縮し、まるで狙撃するかのように正確な狙いで突きを放った。アジトの中にいる気配に向かって。


 ミッドレースアルファを暴走させた個体でも一発で吹き飛ばせる突きだったけれど……。


 ――『冬天』専用技〈恐怖の壁〉


 強力な氷の壁が私の突きを防いだ。


 それだけじゃなかった。氷壁からとげが生えて発射された。双剣の乱舞でそれを全部壊すと今度は破片が変形して私を閉じ込める鉄格子になった。


「ふん!!」


〈雷神化〉の力を爆発させて鉄格子を吹き飛ばした。単に壊すだけでなく、崩壊の力で氷を完全に消滅させた。溢れた雷電はアジトの建物にまで広がった。


「迷惑が並大抵ではないな」


 どこか元気のない男の声が聞こえてきた直後、力強い寒気がアジトから噴き出した。そしてそれを呼び出した男が姿を現した。


 すらりとしたけれど元気なさそうな長髪の男だった。前世の神父の服と似た漆黒の衣服に黒髪まで真っ黒な男だったけれど顔だけは真っ白だった。平凡な状況で会ったなら体調が悪い人だと思ったかもしれない。


 でも私はあの男が誰なのか知っている。


「ベルトラム・ライナス。安息八賢人がこんな所で何をしているの?」


「私のことを知っているのか? なるほど、爾が〝あの御方〟がおっしゃったあの少女か」


 ベルトラムは挨拶のために手を振る程度の感覚で魔力を放出した。非常に冷たくて力強い魔力が私に殺到した。しかし私が〈雷神化〉の雷を放電させただけで相殺された。


 ベルトラム・ライナス。安息八賢人の一員、すなわち安息領の最高位幹部の一人だ。八賢人の中では対外的な活動をほとんどしないタイプで、強いて言えば研究者に近い。


 彼の特性は進化する前のジェリアのと同じ『冬天』。けれど活用方法が全く違う。


「特に爾に恨みはないが、〝あの御方〟と我々の仕事を邪魔するのは座視できない。この場で制圧するようにしよう」


 ――『冬天』専用技〈極北の神殿〉


 ――紫光技特性模写『灼熱』


 ――『灼熱』専用技〈太陽の視線〉


 ベルトラムが極寒の結界を展開した瞬間、私もそれを相殺する魔力で対抗した。完全に無力化することはできなかったけれど結界の力を半分ほど削った。


 ジェリアは剣術に『冬天』の力を加えて振り回すタイプだ。でもベルトラムは徹底的に魔力を運用する技術に特化した男だ。前世の概念で言えば魔法使いタイプといえるだろう。


 純粋な魔力の力は特性を『冬天世界』にまで進化させたジェリアより弱い。けれど魔力を扱う技術自体の精巧さと熟練度はベルトラムの方がはるかに上だ。だから彼の力は十分安息八賢人という地位に相応しく強大だ。


 ベルトラムは私の〈太陽の視線〉が〈極北の神殿〉の出力を半分程度相殺したのを見て興味深いように目を輝かせた。


「面白い。まだ二十歳にもなっていない少女の活躍ぶりだと今まで信じられなかったが、今の実力を見て納得した」


「それは光栄だね」


 適当に答えてアルカに思念通信を送った。私がベルトラムと戦っている間、ミッドレースベータを始末しろって。


 ベルトラムはテシリタやピエリよりは弱い。けれどそれは相対的なことに過ぎず、安息八賢人は決して甘くない。〈五行陣〉に到達した今の私でも一人で彼を相手に勝利できるとは断言できない。


 でもだからといって敗北するわけではない。だから私がベルトラムを担当している間、アルカが火力でミッドレースベータをすべて討伐し、安息領の雑兵を制圧すればいい。その後は私とアルカの挟撃でベルトラムを制圧できるだろう。


 しかもまさか八賢人の一人がいるとは予想していなかったため、潜入したロベルとトリアも危ない。今ここで全力でベルトラムの視線を引かないと。


「行くわよ!」


 わざと力いっぱい叫びながら突進した。ベルトラムも私に立ち向かうように手を伸ばした。


 ――『冬天』専用技〈酷寒のファランクス〉


 無数に密集した氷の槍の部隊が現れた。突進の勢いと数回の剣閃でそのすべてを破壊したけれど、壊れた欠片が小さな槍に変わって再び私を狙った。それをまた壊すと今度は欠片が凝集して氷の鳥の群れになった。鳥の群れはまっすぐ突進してくるのじゃなく、私の周りを飛び回りながら氷の羽を撃ったり、特殊な魔力場を噴き出したりした。


 ――『万壊電』専用技〈天の咆哮〉


 崩壊の雷を大規模に爆発させた。氷の鳥の群れを全滅させる規模で。『万壊電』の力が氷を完全に粉砕し、魔力を霧散させた。


 一度放電した稲妻を再び凝縮して強力な一つの魔槍を作った。ベルトラムは冷気そのものを槍の形に凝縮して対抗した。『万壊電』の槍を停止の力で止めて無力化するつもりだろう。


 けれど私は激突直前に槍を分裂させた。一部は冷気の力に流されて無力化されたけど数多くの稲妻の茎が様々な角度からベルトラムを狙った。


「ふむ。素敵な制御力だな」


 ベルトラムはそれぞれの稲妻に合わせて正確に展開した氷の盾ですべての攻撃を防いだ。


 でもその瞬間私が移動した。〈雷神化〉で雷になった私の体を分裂した雷電の一つに移したのだ。


 ベルトラムは突然現れた私を見て驚いたけれど、私が奇襲的に振り回した剣が到達する直前に氷の盾を展開した。魔力と魔力が衝突して強烈な衝撃波が爆発した。力ずくで押し付けると急造された盾が先に壊れた。


 でもベルトラムはその短い時間で次の技術を完成させた状態だった。


 ――『冬天』専用技〈極寒の静けさ〉


 ベルトラムが伸びた手の前の狭い空間が止まった。私と剣撃を停止させるための範囲に力を集中して停止させたのだ。私が止まったのはほんの少しだけだったけれど、ベルトラムが再び距離を広げるのに十分な時間だった。


 この短い攻防で、私はこの戦いの行方を見た。


―――――


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