発見と準備

 振り返ってみるとすでに安息領の男性たちも制圧された状態だった。


 アジト側はまだ私たちの存在に気づいていないようだった。けれどミッドレースベータが死んだのは明白な異常状況だし、このような巨大な魔力の塊の死を逃すわけがない。すぐ理想に気づくだろう。


 ……いや、アジトの中から他のミッドレースの失敗作が暴れるような気配がかすかに感じられた。もともとそうなのか、それとも今の戦闘を感知したのかは分からない。でもとにかくあっちは忙しないようだね。


 強く突くべきタイミングだ――すぐにそう判断した。


「プランCに行こう。アルカ、こっちおいで」


「はい!」


 アルカは嬉しそうに私の傍に来た。ロベルとトリアは短く目礼してから姿を消した。


 プランC――私とアルカが華麗に暴れながら視線を引く間、ロベルとトリアがアジトに潜入して資料を奪取する。公爵家の令嬢である私たちに相応しい作戦じゃないけれど、持つ力の特徴と私たちの特技を考えるとやっぱりこっちが一番楽な作戦だ。


 ――紫光技〈選別者〉


 私とアルカは同時に〈選別者〉を発動した。身体の機能が爆発的に増幅され、圧倒的な威圧感があっという間に周りを支配した。当然安息領のアジトでも私たちの気配を感じただろう。


 対応する時間なんてくれない。


「行こう!」


「はい!」


 ――天空流〈彗星描き〉


 私たちは紫と純白の彗星となってアジトへと突進した。アジトの姿はすぐ見えた。


 全体的な形は非常に広い一階建てだった。高さは低いけれど敷地自体はかなり広かった。おそらく森の木より高くならないように調節したんだろう。どんな形でも魔力で隠蔽することはできるけれど、周辺の木より低い方がもっと隠しやすい。ゲームに出たのと同じ姿だった。


 私たちはアジトを囲む塀の正門を突き破った。大きな金属製の扉だったけれど轟音と共に吹き飛ばされた。


「来たぞ!」


「よりによってこんな時に!」


 宣戦布告するように〈選別者〉の気配をまき散らしながら来ただけに、安息領の雑兵たちも私たちの出現に驚かなかった。けれどそれにしてはまともに備えた様子じゃなかった。


 備える時間を与えないように早く来たけれど、それよりもこれは……。


「どうやら忙しそうだね。手伝ってあげるから、みんなひざまずいて降伏してくれる?」


 雑兵たちは私の挑発に答えなかった。いや、そんな余裕もないというか。


 まるで私を迎えるようにアジトの壁が爆発した。そこから飛び出したのは大きさと形がそれぞれ違うバケモノたちだった。今すぐ目に見えるだけでも十頭だったし、建物の内部から感じられる魔力を見れば実際の頭数はそれ以上だろう。


 ……この嫌な実験場を今襲撃できるだけでもやりがいのあることだね。


 アルカは私との共同作戦で興奮していたけれど、今は顔色が真っ青になっていた。怖いわけじゃないだろうけど、この子もアレらがどんな存在なのか知っているから当然の反応だろう。安息領の人体実験が多くの犠牲者を生んでいるって言葉だけで聞いたのと、このように実際に見ることには大違いがある。


「アルカ。あの人たちを解放させてね。精一杯」


 アルカが決然とした顔で魔力の弓を作り出すのと同時に、私は自分自身を魔力で変質させ前に走った。


 ――『万壊電』専用技〈雷神化〉


 体が紫色の稲妻に変わった。踏み出す一歩一歩ごとに巨大な放電が爆発し、鋭い刃となった雷電が周りを襲った。文字通り瞬きを一度する時間も与えず、前方の安息領の雑兵たちがすべて制圧された。


「はああっ!」


 紫の一閃があたりを染めた。鋭い斬撃と爆発する雷電が三匹のミッドレースベータを絶命させた。直後アルカが発射した強力な矢が二体の上半身を爆発させた。残りの五匹は私の雷電の斬撃とアルカの砲撃のような矢が同時に殺した。


 でも初めて出た十匹をすべて殺した時はすでにもっと多くのベータが現れた後だった。最初と同じくらいじゃなかった。二倍……いや、三倍かしら。しかもまだアジトの中にたくさんの数があった。


「こんなにたくさん……!」


「集中してアルカ」


 ――『万壊電』専用技〈万壊の雷壁〉


 私が物質を崩壊させる雷の壁を展開した直後、無数の魔弾が壁を襲った。ミッドレースベータたちの攻撃だった。一発だけでも強力な射撃が大量に殺到していた。


 いや、魔弾の本当の問題は単なる強さじゃなかった。


「お姉様!」


 雷壁が貫かれた。魔弾そのものの威力じゃなかった。魔弾に込められた特性が『万壊電』の威力に耐え突破したのだ。


 魔弾自体は剣で迎撃した。けれどその間に数多くの魔力が私を襲った。


 土が隆起した。氷ができた。大きな水流が私に押し寄せたり、目に見えない圧力があらゆる方向から襲ってきたりもした。


 明確な意図や目的がある連携じゃなかった。理性のない魔力の乱闘は水と火が互いを相殺するように、むしろお互いの邪魔になったりもした。けれど数が多すぎるし、多様な力が一度に発動したせいで〈万壊の雷壁〉を維持する集中力も土台も崩れてしまった。


 でもその無分別な魔力の乱立は奴らの戦力を把握する手がかりになってくれた。


「アルカ。心配しないで全力で撃て。全部ぶっ飛ばしちゃえ」


 ――紫光技特性模写『看破』


 すべてを見抜く魔力で目を輝かせ、一瞬にしてすべての戦力を把握した。今目に見える奴らだけでなく、アジトの内側の実験体と安息領の奴らまで全部。


 おかげさまで〝あいつ〟を発見した。


 ――天空流〈ホシアメ〉


 数々の魔力剣をミッドレースベータの群れに浴びせた。紫光技の特性模写で多様な力を与えられた魔剣の雨だった。比較的弱い個体はそれで絶命し、強い個体も大きな傷を負ったり魔力の力に押さえつけられて麻痺した。


〝あいつ〟を引き出して戦闘を妨害されないためにはミッドレースベータの妨害を最低限に抑えなきゃならないから。


 そっちを睨みながら剣に魔力を装填した瞬間、〝あいつ〟も魔力を凝縮する気配が感じられた。


―――――


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