完成

 破壊の暴風の中で剣と魔力で絶えず抵抗する。皮膚が裂かられ、肉が削られ、骨がすり減った。そのすべてを『再生』の魔力で耐えながら、『看破』の魔眼の出力を維持し続けた。


「うぐッ……!」


【テリア! 無理しないで!】


 イシリンが叫びながら魔法を発動した。彼女の魔法のおかげで少し耐えられた。けれども依然として〈神竜の猛進〉の暴風は強かった。


 その暴風をいきなり突き破って、ジェリアは私の方へと突進した。


 ――ジェリア式狂竜剣流『冬天世界』専用技〈神竜の爪〉


 ――第七世界魔法〈赤天竜波〉


 ジェリアが斬撃を放ち、イシリンが強力な熱砲を放った。元邪毒神のおかげか〈暴君の座〉の権能にある程度抵抗した。けれど結局完全に防ぐことはできなかった。


 それでも『天上の鍵』を犠牲にしてやっと相殺し、『赤月の影』でジェリアを牽制した。でもジェリアは止まらなかった。左手で斬撃を握り潰したのだ。


 それでもおかげで〈神竜の猛進〉の暴風が消えた。


「はあああっ!」


 右腕を再生しながらジェリアの胸に飛び込み、彼女の腹部に拳を放った。ジェリアは氷の盾で拳を防いだ。しかしその瞬間、私は拳から『浄潔世界』の魔力を精一杯放出した。


【!?】


 魔力の大部分はジェリアの魔力に希釈された。体内に浸透したのはごく一部だけ。けれどその一部がジェリアの体内の邪毒を浄化し、その魔力で再び体を膨らませた。


 このまま続けば全部……。


【……ふむ】


 ジェリアの体内から魔力がうごめく直後、『冬天世界』の魔力が体内に浸透した『浄潔世界』の魔力を消滅させた。


 その間、私は『天上の鍵』を再び召喚して魔力集束を終えた。


 ――テリア式天空流奥義〈夜空の満月〉


 至近距離で奥義を放った。これなら――。


「が、はぁ……ッ!?」


 ジェリアの膝が私のお腹に放たれた。『冬天世界』の魔力が内臓を乱した。直後ジェリアの左手が私の頭をつかんで投げた。私は百メートルほど飛ばされてしまった。


 ジェリアが振り上げた剣に魔力が集束され――。


「そんなことはダメですよっ!」


 突然アルカがジェリアの傍に現れた。


 ジェリアの剣がアルカを斬った。でもそれはロベルが作った幻影であり、本物のアルカが反対側から〈三日月描き〉を放った。ジェリアの拳が斬撃を粉砕したけれど、その拳がアルカに届く前にロベルが現れた。彼の〈頂点正拳突き〉がジェリアの拳の軌道をそらした。


「B案! 今だ!」


 護衛隊の指揮官としてついてきた千夫長が号令した。いつの間にか騎士たちがジェリアを広く包囲していた。


 騎士たちもアルカたちもボロボロだったけれど、必死に動けるレベルまで回復したようだった。少なくとも動きに不備はなく、鋭く磨かれた魔力がジェリアに向かった。


 ――バルメリア制式術式〈戦術共鳴陣〉


 五十人の騎士が魔力を共鳴させた。


 バルメリアの騎士たちは個々人が強いだけでなく、集団戦にも長けている。特に集団の魔力を共鳴させて能力と連携を大幅に増幅することこそが彼らの真価だ。


〈戦術共鳴陣〉で強化された騎士たちが先鋒に立ち、オステノヴァ魔導兵団の兵士百人が火力を支援した。そしてアルカたちが騎士たちの傍で、あるいは騎士たちよりも先頭に立ってジェリアを攻撃し、彼女の攻撃を防御した。すでに私さえも乗り越えられないほどの集団陣形だった。


 けれどジェリアはそのすべてを粉砕した。拳で、足で、剣で。彼女の魔力が爆発するたびに誰かが重傷を負った。それでも魔導兵団の回復魔道具が引き続きみんなを回復させた。時々ジェリアが放つ巨大な斬撃が数十人を無力化しても、騎士たちの連携と各自の火力が時間を引き延ばして回復を成功させた。


 それくらいになると、ジェリアの顔にイライラが浮かんだ。


 ――『冬天世界』専用技〈暴君の独裁〉


 ジェリアの魔力場が巨大な領域を作った瞬間、みんなの動きが止まった。


 極限に達した酷寒の力で時空間まで止まる秘術。厳密に言うと完全停止じゃなくものすごく遅くなったのだけれど、減速倍率が圧倒的すぎてまるで止まったように見えた。


 ジェリアはたった二度の斬撃で全員を無力化した。


「きゃあ……!」


「ぐあっ」


 死者はいなかった。でもそれはジェリアの力が足りなかったためではなかった。ただ彼ら全員を敵としてすら見ていなかっただけ。二度の斬撃もハエを追い出す程度の感覚に過ぎなかった。


 ジェリアの鋭い視線は私へだけ向けられていた。そのすべての過程を『看破』の魔眼でずっと見守っていた私へ。


「……感じたようだね。私が何をしているのかを」


 ジェリアの返事はなかった。


 返事の代わりに彼女の体に変異が起こった。ところどころ邪毒の黒い色が残っている程度だった氷服は完全に真っ黒に染まり、額から二つの角が生えた。さっきから膨大だった魔力はさらに膨らみ、邪毒が彼女を中心に渦巻いた。


 ラスボスジェリアの第三フェーズ。ただでさえ手に余る敵である彼女がさらに強くなったという信号だ。


 ……でも私は笑った。


「でも遅いわ」


 体はボロボロだ。バックアップしてくれたみんなも今は無力化され、ジェリアはもう第三フェーズ。今までの私だったらもう希望がなかっただろう。


〝今までの〟私だったら。


「知ってるのジェリア? 侵食技は本当に一つの世界よ。どんなに小さくても、自分だけの法則と構造を持った世界。でも本当の世界よりはよく見えるし分かりやすいわ。だから世界を研究するのに良い見本でもあるの」


 ジェリアは答えなかった。そもそも理性が飛んでしまったから私の言葉を理解することもできないだろう。


 私は話しながら両腕を振った。空気を切った剣閃が魔力の線を残した。その線が私を包み込む特殊な陣を形成した。


『看破』の魔眼で〈暴君の座〉の力を観察し続けた結果、私は〈冬天世界〉を世界としてほぼすべて分析した。構造と法則のすべてを。


 それが天空流の継承者にどんな意味なのか悟らせてあげる、ジェリア。この世界の暴君を倒すことで。




 ――天空流奥義〈万象世界五行陣〉


―――――


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