不潔な覚醒
父上は本当にいろいろな処理を三時間で終えた。そして私に同行させる護衛隊編成まで終えた。
今回の調査隊である千人隊から騎士を五十人。オステノヴァ魔導兵団から派遣された魔道兵が百人。ほとんど管理されていない場所とはいえ他国の領土に入ることであるため、兵力の規模を抑えた。そして私が人員を小規模に編成してくださいって頼んだためでもある。
準備が終わった後、父上は私とアルカと友人たちを兵力と共に転移させてくれた。
カラオーネ砂漠は典型的な砂漠だった。あまりにも典型的なので描写することも特になかった。何も知らないまま来たなら、ここがカラオーネ砂漠だということに気づいてもいないほど。
「みんな、言いたいことがありますの」
私が口を開くとみんなが私を振り返った。私はその視線に微笑みを返して……頭を深く下げた。
「先に行きます。ついてくるなら魔力を見て慎重に決定してください」
「は?」
「お姉様、それは!?」
一方的に宣言し、返事をきちんと聞かずに突進した。今の私にできるだけ全速力で。
今回は一人で犠牲にしようとしているのじゃない。ただ時間がないだけ。できれば事態が起こる前に到着しなきゃならない。もしそうでなければ、できるだけ早く到着しないと解決の時間を稼げない。
……どうしてこんなことになったんだろう。
突進しながら自問してみたけれど、答えはすでに分かっていた。
すべては私のせいだ。『バルセイ』の
ジェリアは力をつけるのが好きだけれど、それ以上にその力を人のために使うのが好きだ。自分が親友だと思う人のためなら申し分ない。攻略対象者である彼女が主人公のアルカに攻略されたジェリアルートなら、当然彼女は主人公のために全力を尽くした。
でもゲームが進むにつれて、アルカは強くなった。ジェリアも強くなったけれど世界の〝主人公〟であるアルカの速度は異常だった。
それがジェリアを焦らせた。アルカの役に立ちたいのに、だんだん役に立たなくなってしまったから。その上、ルートが進むほどますます個人には手に余る事件が起きることになる。その状況で、ジェリアは親友を助けるために力を切望し……間違った手段に手を出してしまった。
安息領の黒騎士の魔道具に。
その魔道具は一般的なものとは違っていた。本来の黒騎士の魔道具は安全のためにリミッターがある。でも安息領は不法改造でリミッターをなくしてしまった。その上、邪毒が特殊な方法で体に沈着して体をこっそり変質させる。
その変質の目的はハイレースと同等の力を別の方法で作ること。
安息領は邪毒獣以上の力を人為的に作り出すために多くのことを研究した。キメラの最高等級であるハイレースも、不法改造された黒騎士の魔道具もすべて同じ脈絡で誕生したものだ。
しかし主力はあくまでハイレースであり、黒騎士の魔道具はサブプランに過ぎなかった。不安定すぎるという短所があったから。
力を獲得するのは黒騎士の魔道具の方が簡単だ。けれどそれは邪毒に浸食されて変質する現象を利用すること。一般的な魔物化とは異なり、身体がほとんど変わらず力だけを得るという長所があるけれど……その長所を得るための副作用として、対象は必ず自我を失って暴走する。
けれど、私はそれが起こらないと信じてきた。
『バルセイ』でジェリアが魔道具を得るのがもっと後のことだったという点、そしてその暴走がゲームの
ジェリアが魔道具を使ったのはアルカをそれほど大切に思っていたから。けれど今のジェリアはアルカにそれほどの心を持っていない。むしろ私ともっと親しいし、実際にそのことで悩んでいたことを相談してあげたりもしたから。
でも私は信じてしまった。
私を大切に思ってくれるのはありがたいけれど、『バルセイ』でアルカに接していたほどではないと信じた。論理的な理由などない。ただ以前からうんざりしてきた自己卑下にすぎない。
もちろん確定ではない。でも安息領が彼女を拉致してここに私を呼び出した理由はそれしかないだろう。カラオーネ砂漠は『バルセイ』でジェリアが暴走した場所だから。
ごめんね。貴方の心をちゃんと思わなくて。
ごめんね。貴方のことをまともに振り返らなくて。
ごめんね。『バルセイ』のすべてを知っていながら、ちゃんと予防できなくて。
後悔と自責の念が湧き上がって心が落ち着かなかった。でも一つだけは明らかだった。
そのことが結局起こるなら、必ず自分の手で解決しなきゃならないということ。
出発前に合流したイシリンを邪毒の剣として顕現させ左手で握った。そして始祖武装である『天上の鍵』を召喚して右手で握った。今の私の全力態勢だ。
砂丘を越えた。目的地である南部研究所の建物が見えた。まだ魔力の特異点は見つかっていない……けれど、かすかに感じられる魔力と邪毒の流れを見てすぐに気づいた。
間に合わなかったけれど、間に合った。
そう思った瞬間――研究所が爆発した。
溢れたのはあまりにも莫大な量の邪毒と魔力。邪毒獣さえも凌駕する圧倒的な力。あれが解放されれば大きな災いになると確信せざるを得ない巨大な力だった。
その中心にジェリアがいた。変わってしまった姿で。
今の私は初めて見る姿。けれど前世の私の記憶では慣れた姿であり……本来なら今存在してはいけない姿でもあった。
目鼻立ちはそのまま。けれども、白目が黒く染まっていて、逆に瞳は雪のように真っ白だ。両目の下に伸びた邪毒の線がまるで血の涙のように見えた。身に纏ったのは美しい氷の衣服だったけれど、邪毒に浸食され所々が黒く染まっていた。
認めざるを得なかった。今のジェリアがどんな存在になったのかを。
ジェリアルートのラスボス。
邪毒に浸食されたジェリア・フュリアス・フィリスノヴァ。
この世界の最初のラスボスが、私を見て咆哮した。
―――――
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