冬天世界
意識が、ぼやけている。
ボクはどこにいるのか。何をしていたのか。そんなことがよく思い出せなかった。まるで頭の中のすべてに真っ黒な墨が塗られているようだった。考えようとしても頭がよく回らなかった。
そんな中でも頭の中を支配するのはしつこい後悔と罪悪感だった。
覚えてはいない。ただ大きなミスを犯したという考えだけがいっぱいで、ボク自身も意味を知らない謝罪の言葉だけが何度もこだました。
すまない、テリア。
ボクが〝それ〟を使わなかったら。
そこに同行しなかったら。
ボクの死は……怖い。それは生き物として当然のことだろう。だが死そのものよりも、それがボク一人だけのものではなくなるのがもっと怖い。
そんな考えの途中、何も見えなかった視界が少し明るくなった。ほとんどすべてがぼやけていてよく見えなかったが、その中で眩しい光彩一筋だけは鮮明に見えた。
紫色の閃光をまとった純白の輝きは……ああ。
重い申し訳ない気持ちと恥知らずの安堵を同時に感じた。
ボクのせいで危険にさらしたという申し訳なさ。ボクを防いでくれるという安堵。彼女なら間違いなくボクを止められるという信頼。そんな気持ちが入り混じって一つの期待になった。
テリア。君ならきっと……。
***
ジェリアのラスボス化。
それは『バルセイ』の六つのルートの中でもジェリアルートを最も印象的なものにする要素だった。
RPGゲームでもあった『バルセイ』はルート選択条件が二つだった。一つ目は平凡な乙女ゲームのように攻略対象者の好感度。そして二つ目は攻略対象者のレベルと戦闘力だった。
すなわち、ジェリアルートに入るためには攻略対象者の中でジェリアのレベルと戦闘力が最も高くなきゃならなかった。
ところがジェリアルートのラスボスは邪毒に浸食されたジェリア。そして厄介なことに、ラスボスジェリアの戦闘力は
すなわちジェリアを最も強く育成しなきゃならないルートであるくせに、いざラスボス戦に突入すれば最も強いパーティーメンバーが敵に急変する凶悪な仕様なのだ。
前もって知っていれば便法を使うことができる。けれど初心者なら間違いなく騙されてしまう。ひどい場合は涙を浮かべてジェリアルートを最初からやり直すほど。
ということで……今のジェリアは
――天空流〈彗星描き〉
全力の突進で一撃を放つ。ジェリアは巨大な重剣を片手で軽く振り上げて〈彗星描き〉を防いだ。圧倒的な冷気の魔力が剣ごとに私を凍りつかせようとした。
でもその魔力の強大さよりも、ジェリアが握った剣自体が私を緊張させた。
【あれがジェリアの固有武装である『冬天覇剣』なの?】
イシリンの質問に答える暇がなかった。ジェリアの剣から爆発した魔力が私を吹き飛ばしたから。
着地はきちんとした。でも約二十メートルは飛ばされた。その上、強力な魔力場と覇気が私の突進を遮断した。
『冬天覇剣』。『バルセイ』の終盤に至り、ジェリアが到達した固有武装である。
王家と四大公爵家の始祖武装には二つの段階がある。一つ目は魔力で始祖武装そのものを具現すること。そして二つ目は自分の魔道具に始祖武装を融合させ、自分だけの固有武装として新しい存在を確立させること。
『冬天覇剣』はフィリスノヴァの始祖武装の一つである『爆竜剣』がジェリアの愛剣である冬氷剣と融合した固有武装だ。
まだ始祖武装を覚醒することもできなかったジェリアが『爆竜剣』を飛ばして『冬天覇剣』を覚醒するなんて。これもラスボス化の影響か……!
しかもあれを覚醒したということはつまり……。
【来るわ!】
ジェリアは剣を空に向けて振り上げた。剣から莫大な魔力が湧いた。阻止しようと全力を尽くして魔力を放出したけれど、少しも影響を及ぼさなかった。
魔力量から押されたのではない。ただ
――『冬天世界』侵食技〈冬天世界〉
世界が一変した。
砂が雪に変わり、砂丘は雪山の山脈になった。晴れていた空は激しい吹雪を絶えず吐き出した。たった一瞬で風景が、世界が変わった。
これが世界権能が世界権能と呼ばれる理由。世界の一部を切って自分の世界に塗り重ねる究極の力。
歯を食いしばった。『冬天覇剣』を見て予想はしたけど、本当に特性さえ世界権能に進化しちゃったなんて。
けれど、ゆったりと驚愕している余裕はない。
「はあああああ!」
――天空流〈三日月描き〉
ジェリアの魔力場を切り裂いた。そして突進して一閃を走らせた。でもジェリアは私の剣を弾き、すぐに再び『冬天覇剣』を振り下ろした。私は防御したけど力に押されて片膝をついた。
ジェリアの体から『冬天世界』の魔力と邪毒が爆発するように噴き出した。その瞬間、私も立ち向かうように魔力を噴き出した。
――『浄潔世界』専用技〈浄純領域〉
――『天上の鍵』権能発現〈記憶降臨〉
浄化の力でジェリアの邪毒を無力化し、『天上の鍵』に浄化神剣の力を召喚した。
浄化神剣の破壊的な浄化の力がジェリアの魔力と氷を破壊した。けれどジェリアは強大な力だけで浄化神剣を乗り越えた。私はまた吹き飛ばされた。
ジェリアは私を追いかける代わりに、その場で剣を振り下ろした。
全力で横に跳躍し避けた。ついさっきまで私のいた所を魔力の怒涛が襲った。あまりにも巨大で破壊的な力だった。
振り返ってみた私は言葉を失った。
……山脈が、消滅した。
ジェリアが『冬天世界』を操縦したわけじゃない。純粋な破壊力だけで山脈を消滅させたのだ。
さらに感覚をたどってみた結果、〈冬天世界〉がカラオーネ砂漠全体を飲み込んだことが分かった。広い砂漠全体を一人の力が侵食したのだ。
その事実を感じた私は、突進しながら一つの感情を感じた。
希望だった。
―――――
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