安息領の意図
……目を覚ます。
どこかはわからなかった。暗くてよく見えないが、ぼんやり見える部分だけを見ても見慣れない場所だということがわかった。その中でボクは手を後ろに縛られたまま寝かされていた。
「あ、起きましたか」
起きた直後は頭が少しぼうっとした状態だった。だがその声を聞いた瞬間、ぼやけていた頭がまるで冷水を浴びせられたようにはっきりと覚醒した。
「ピエリ・ラダス……!!」
すっくと起き上が……ろうとしたが、体に力が入らなかった。
拘束のためではなかった。そもそも拘束と言っても手を縛った平凡なロープだけだった。魔力を使わなくても、魔力に適応して強くなった肉体の力だけでも破れる弱い物に過ぎない。
多分薬や魔力を使ってボクの体の動き自体を封鎖したのだろう。それならこの程度のロープだけでも構わない。あえてロープがなくても同じだったと思うが。
ボクはピエリを睨んだが、その瞬間もう一人の人がいることに気づいた。そして目を見開いた。その者はボクの反応を見て鼻を鳴らした。
「反応が遅い小娘だな。あの御方がどうしてこんな奴に注目されるのか分からない」
テシリタだった。
ボクは拘束されていて、安息八賢人の二人がボクを監視している。この状況にはさすがのボクも少し恐怖を感じるしかなかった。
だが恐怖以外の感情も意外と大きかった。
「八賢人という奴らが二人も集まってボク一人を監視しているとはな。どういうつもりだ?」
それだ。
八賢人は安息領の最高幹部。そして安息領の最強のバケモノたちでもある。テリアでさえ、まだボロス以外の八賢人は一対一で勝てないと言っている。ところでそんな奴らが二人も出るとは。
ピエリがボクのクソ親父に恨みがあることは知っている。しかしその恨みとフィリスノヴァ公爵家の立場を考えても、せいぜい後継者候補の一人に過ぎないボクにあえて八賢人が二人も注目しているというのが理解できない。
テシリタは鼻で笑いながら口を開いた。
「筆頭が指示したことでなければこのオレが貴様なんかを拉致することには関与しなかっただろう」
「お礼はしておくよ。おかげさまで順調だった」
「黙れ。貴様に礼をもらいたいなんか思わないぞ」
……あまり仲がよさそうには見えないな。
それより八賢人が二人もいるということは何か情報を得られるのではないか。特にテシリタは傲慢な言動の割には口が軽いようだ。
「あの筆頭という奴がなぜボクを拉致しろとやらせたのか?」
「生意気な小娘だな。あの御方を呼ぶ時はもっと尊敬を込めて……」
「テシリタ、ちょっと静かにしてくれる?」
「……ピエリ、死にたいのか?」
「お願いだよ。ちょっと二人きりでいてくれ。儀式はボクが進行するから」
ピエリは切なる声で言った。するとテシリタはぎょっと身震いし、気分が悪いという様子を露わにした。
「き、貴様がお願いだなんて……マジでぞっとしたぞ。気持ち悪いから消えてやる。儀式は貴様が勝手にしろ」
言葉まで吃るほどの衝撃だったのか。
どうでもいい落語の後、テシリタは本当に部屋から出た。
ピエリはボクと二人きりになるやいなや微笑んだ。冷たくて気持ち悪い冷笑だった。
「こう話すのは久しぶりですね、ジェリアさん」
「儀式って何だ?」
キャッチしたキーワードを言うとピエリの笑顔が深まった。
「筆頭が何年も注目されていた仕事の仕上げです」
「何に注目した?」
「情報収集にしては質問が露骨すぎですね。テリアさんにそのような教えを受けていないのですか?」
「貴様の知ったことじゃない」
「まぁいいですよ。気分がいいので特別に教えます。王都テロ事件、覚えていますか?」
「貴様が犯したそれのことか? その事件の目的はすでに知っている。テリアを騙すためだったんだな?」
ピエリは少し驚いた様子だったが、すぐに笑顔を取り戻した。
「知っていましたか? 驚きですね。私の個人的な目的はそれです。ですが安息領の……筆頭の目的は別にありました」
「それが何だ?」
ピエリは返事の代わりに怪しがらせる目でボクを見た。まるでボクに何かを期待するような眼差しだった。だが肯定的な感じというよりは……嘲笑に近かった。
ボクがその眼差しからわけの分からない気持ち悪さを感じた瞬間。
「貴方にボロスの黒騎士の魔道具を渡すことでした」
……は?
頭の中が白くなったボクに、ピエリの嘲笑が込められた言葉が相次いで飛んできた。
「なかなか苦労でしたねぇ。ボロスを敗北させて魔道具を落とすようにしなければなりませんでしたが、テリアさんが完璧すぎて一度は失敗してしまいました。テリアさんの仲間たちが合流することを知り、彼らにもう一度負けるように状況を調整し、魔道具を落とすことには成功しましたが……それを貴方が拾うという確証もありませんでしたし。貴方がそれを確保したことに気づいたときは祝杯をあげたい気分でした」
こいつは、今、何を言っているんだ?
「邪毒獣出現事件の時もそうでしたねぇ。あの日私があえて潜入したのは貴方の〈冬結界〉を破壊することこそ本論でした。そうすれば力不足になった貴方が魔道具を使うと思ったからです。別の工作を試したりテリアさんを殺そうとしたりしたのは、すべて目的をごまかすためのおまけでした。……まぁ、テリアさんを殺せなかったのは心から残念でしたが」
他にもピエリが何か言っていたが、まったく耳に入らなかった。
『隠された島の主人』が言った悲劇。テリアはそれを笑い飛ばしたが、そこには蛇足がついていた。
テリアは知らない。ボクが安息領の黒騎士の魔道具を拾ったのも、それをすでに何度か使ったというのも。ボクが言わなかったから。
もしその前提条件というのが魔道具と関係があったのであれば。
テリアが知らなかっただけで、すでに前提条件が満たされていたら。
手足が冷たくなった感覚を感じる中、ピエリはボクを見て冷たく笑った。
「そろそろ始めましょうか。……これからの光景を貴方の父に見せられないのが残念です」
―――――
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