性急さと提案
結局ジェリアを奪還できず、悲惨な気分で戻った私を思いがけない知らせが迎えた。
テシリタの魔法が消える前に父上が来た。ピエリが結局父上の攻勢を突破して逃げたということをおっしゃった後、父上が私たちを調査隊の本営に転移させた。私とシドだけでなく、森に進入していた調査隊全員を。実習生でフィリスノヴァ公爵家の令嬢であるジェリアが拉致されたという非常事態が起きた以上、ゆっくり森を調べている場合じゃないから。
そうして到着した本営に、テシリタのメモが届いていた。
到着というよりは伝送なのかしら。おそらくテシリタが自分の魔法に転移させたんだろう。そのメモに書かれた内容はこうだった。
『ジェリア公女を取り戻したいなら、西大陸のカラオーネ砂漠南部の研究所に来い』
実に分かりやすく、あまりにも陳腐で典型的なので、こんなものを受けるとは夢にも思わなかった。一瞬テシリタがすごく老けて、フレーズもこんな陳腐なものを選んだのかと心から思ってしまった。
……おっと、のんびりこんなことばかり考えている場合じゃない。
西大陸のカラオーネ砂漠。その中でも南部にある研究所。そのキーワードはとてもなじみがあった。そして今この瞬間、一番聞きたくない名前でもあった。
「カラオーネ砂漠? そこに特別なことなんか何もなかったはずなのに」
父上が呟いた。他の人たちはほとんどその名前を知らなかった。名前でも知っているのは、今回の調査隊の責任者である千夫長ぐらい。それさえもそのような地名があるということ程度だけをやっと分かっているレベルだった。カラオーネ砂漠は重要な所でもなく地理的にも非常に遠いので、常識で知っているほどの場所じゃないんだから。それさえも父上がそこを知っているのは、そこの研究所建設に関与したためだけだ。
そして、私がそこを知っているのは……もちろん『バルセイ』に登場した場所だったからだ。それも非常に重要な役割で。
「行きます」
立ち上がって宣言した。そしてその言葉を実行するかのように、最大出力の〈選別者〉で自分を強化した。次に西大陸に飛ぶための特性を紫光技で選別した。
そんな私をアルカとリディアが慌てて止めた。
「ちょっと待ってください、お姉様! そこに行かれるということですか!?」
「危ないよ! 罠に決まってるじゃない!」
「構わないわ。今すぐ行かなきゃ」
そう、必ず行かなきゃ。それもできるだけ早く。
ここからカラオーネ砂漠まで全速力で飛んでいくなら、おそらく二日ほどかかるだろう。それでは遅い。けれど、他の移動手段を選びに行く時間がもったいない。他に何か手段を選んだとしても、手続きと移動時間を考えるとここからすぐ飛ぶより遅い。
『隠された島の主人』が警告した悲劇。その悲劇が起こるには前提条件が必要であり、私の知る限りでは条件は満たされていない。けれど、私の知らない所ですでに条件が満たされていたら……!
「やめなさい、テリア」
慎重な声が私を遮った。父上だった。
「ジェリア嬢を助けに行かなければならないということには同意するんだ。しかし、このような決まりきった罠に娘が飛び込むのを見守るわけにはいかない。むしろ君を遠くに行かせるつもりかもしれないんだよ」
「いいえ、奴らはカラオーネにジェリアを連れて行きます。きっと」
騎士たちの耳目があって言葉を慎んだけど、父上は理解したように沈吟した。『バルセイ』関連だということをすぐ気づいたんだろう。他の人たちも難色を示しながらも理解した様子だった。
けれども、父上は首を振った。
「いくらそうでも性急な行動は許可できないよ。しかもカラオーネはほとんど管理されていない砂漠ではあるけど、厳然と他国の領土なんだ。そんな所に華麗に雷電をばらまきながら攻め込むつもりなのかい?」
「すみません、父上。公爵令嬢としてあり得ない暴挙だということは知っています。でも必ず行かなきゃなりません」
このように論争する時間さえもったいない。そう思った私は足に魔力を集中した。引き止めを振り切ってそのままカラオーネに向かうつもりだった。
そんな私の肩を父上がつかんだ。
「三時間だけ待ちなさい」
「待てません。今ももう遅い……」
「三時間だけ待つなら、僕の『転移』ですぐ君をそこに行かせてやる。君が直接飛んで行ったら二日くらいはかかるんだよ」
私は驚いて父上を振り返った。
もちろん父上の『転移』なら移動時間はゼロだ。その力を借りることさえできれば、三時間くらいは何でもない。私が直接飛んで行ったらどうせ二日かかるから。けれど、父上が急にそのような提案をしてくださる理由が分からない。
表情に疑問と驚愕が表れたんだろう。父上が苦笑いした。
「カラオーネ砂漠はベルグロード王国の領土なんだ。三時間以内にベルグロード王国との交渉を終え、君を護衛する戦力を選別するようにする。緊急軍事作戦という言い訳でいいだろう」
三時間で軍事作戦の許可を得る。常識的に話にならない暴挙だけど、父上なら……オステノヴァ公爵なら可能だ。世界中のすべての王国の弱点と重要な情報なんて数千個くらい知っていて……カラオーネ砂漠の研究所建設に父上が関与したように、もともとその国は我が家と縁があるから。
「……わかりました。父上の指示通りにします。ただ、具体的な転移場所は私がお願いする所にしてくださいませ」
私が受け入れると、父上は微笑んだ。
千夫長さんが父上に近づいた。
「公爵閣下。令嬢の護衛は我々に任せてください」
「そなたが? 大丈夫かい?」
「私たちの部隊が引き受けた実習生が拉致されました。致命的な間違いであり不名誉です。せめて我々の手で挽回したいです」
「それならいい」
その言葉を最後に、父上はあれこれ工作のために席を外した。父上を待っている間、私はしきりにイライラしようとする気持ちを落ち着かせた。そしてこれからのことを考えた。
カラオーネ砂漠に到着してからの計画と……最悪の事態になるかもしれないという、覚悟を。
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