追撃
シドの戸惑いはしばらく続いたけれど、すぐに彼も落ち着きを取り戻した。私はそれを確認し、彼の手を離した。彼は速い足で私と並んで走り始めた。〈彗星描き〉の衝撃波をさりげなく流すなんて、器用だね。
敵の姿はすぐ見えた。かなりの数の雑兵が一糸乱れず動いていた。私が発散している『万壊電』の魔力の雷鳴が奴らの注意を引いた。
彼らの先頭に立った者がジェリアを担げているのを、私はすぐに確認した。
――天空流〈三日月描き〉
奴に向かって問答無用で斬撃を放った。
周りの雑兵たちが私の斬撃を止めようとしたけれど、彼らは何の役にも立たなかった。雑兵たちを容赦なく切り裂いて進んだ斬撃が奴に到達した。
「ふむ」
奴はすばやく避けた。けれども、『万壊電』の魔力が動きを制約した。奴が舌打ちして魔力場を展開する瞬間、私は奴の前まで到達した。〈彗星描き〉の衝撃波と満開する雷電が森を破壊し燃やしたけれど、奴は何ともなかった。
「こちらは貴様の友達を連れているが。なかなかよどみない一撃だな」
「それほどコントロールもできない未熟者に見えた?」
――天空流奥義〈満月描き〉
問答無用で奥義を放つと、奴は心から当惑して拳に魔力を集めた。強力な正拳が〈満月描き〉を相殺したけど、奴の手が大きな傷を負った。
もちろん、奴が担げでいるジェリアには魔力の欠片も届かなかった。奴が止めたのじゃなく、私が魔力がジェリアの方に行かないように調節したのだ。
「前もって言っておくわよ。人質なんて私には通じないわ」
〈選別者〉を最大出力で解放した。
濃密な威圧が安息領雑兵を制圧した。奴は眉をひそめるだけで大きな影響を受けなかったけれど、部下たちを全員無力化しただけでも大きく役に立つ。
「……いや、ちょっと待って。シド、貴方はどうして苦しんでいるの?」
「うぐっ……お前の威圧が強すぎるからなんだよ……」
シドの足がぶる震えていた。やっと立ってはいたけれど。状態を見ると、それでも戦えそうだね。
「そこのあんた。今からでもジェリアを解放してくれるなら、特別に四肢健康な状態で監獄に入れてあげるわよ」
「傲慢な宣言だな」
「勘違いしないでくれる?」
言葉を終わった瞬間、私は相手の目の前にいた。奴がそれに気づいて目を丸くした時は、すでに私の剣が奴の腕を脇から切断していた。
「くあっ!?」
「あんたなんかが私を相手で逃げられると思うことこそ傲慢なのよ」
――天空流〈ホシアメ〉
無数の魔力剣で奴の全身を貫き、地面に固定させた。ジェリアを担げている腕以外で。しかし、そのような状況になってもジェリアを手放さなかった。しつこい奴だね、本当に。
奴は急ににニヤリと笑った。
「貴様はミスしたんだ!」
切られていた腕が予告もなく爆発した。全く強力でない爆発だった。けれど、それによって腕の細胞が四方に広がり、倒れていた雑兵が細胞の雨にさらされた。
その瞬間異変が発生した。
「グアアアア……!」
雑兵たちの体が急激に膨らんで変異した。あっという間に巨大な触手や腕のようなものが無数に生まれた。まるで肉の津波のようだった。
単なる津波と違う点は、その津波が明確な敵意を持って私を狙っていること。
「テリア!」
地面を通って私の傍に移動したシドが、私の背中の触手と肉塊を引き裂いた。その間に私は『万壊電』の一閃で前方の津波をすべて燃やした。けれど、その時はすでに奴が魔力剣の拘束から抜け出した状態だった。
「逃さないわ!」
――天空流〈彗星描き〉
念動力でシドをピックアップして突進した。ローレースオメガたちが暴走した魔物の津波はかなり硬くて煩わしく、私の突進の速度を遅くするほどだった。けれど突破できないほどではなかった。
それでも相手も甘くなかった。さっき魔力剣に貫かれた数多くの傷はすでに完治しており、全力を尽くして逃走する速度は私さえも簡単に追いかけることができないほどだった。
「テリア、俺を投げて!」
シドの提案だった。私はすぐに彼を全力で投げた。
投げられたシドは空中で加速する技でさらに速くなった。奴は魔力を放出してシドを牽制しようとしたけど、その瞬間シドが突然地中に消えた。
次に彼が現れたのは――奴の目の前だった。
「ふぅっ!」
シドの短剣の一撃と奴の蹴りが交差した。奴の力が明らかに優位だった。でもシドが力に圧倒されて押し出された瞬間、私は奴に完全に追いついた。
――天空流〈三日月描き〉
斬撃を放つ瞬間、奴は蹴りの風圧を放った。濃密な魔力が混じった風圧が〈三日月描き〉の威力を大きく削った。でも弱くなった斬撃も、奴のわき腹を深く切るには十分だった。ローレースオメガの彼を無力化するほどじゃなかったけれど、奴が歯を食いしばった。
けれど、私は他のことのため眉をひそめた。
……この状況になってもジェリアを離さないって?
奴はまだジェリアを担げたまま逃げようとしていた。しかも、ジェリアを盾にして私の攻撃を防御しようとする試みさえしなかった。安息領が人質の安全など気にするはずがないのに。
その事実が指すことは一つ。ジェリアを無事に連れて行くのが奴らの目的だ。
「これ以上行かせないわよ」
私は雷電を発散して奴の前に立ちはだかった。そして制御に失敗したふりをしてジェリアの方にほんの少しの雷電を吐いた。すると、奴は歯を食いしばって体を回して自分の体で雷電を防いだ。
「とても露骨にジェリアを守るわね。彼女に何をするつもりなの?」
「知る必要はない」
「そう、必要はないわよ。ここでキサマを切っちゃってジェリアを回収すればいいから」
これ以上逃げられない。
私が姿勢を取ると、奴も舌打ちして戦闘態勢に入った。
―――――
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