思わぬ参戦

「おや、来たとたん気に入らない顔が見えるね」


 父上だった。


 あくまで今回の調査隊の顧問として情報と魔道具と指揮だけを担当するはずだった父上が、ここにいるはずがないシドと共に現れたのだ。


「どうやって……!?」


 シドは騎士科ではない。今回の調査隊参加は騎士科としての現場実習であるため、シドは来なかった。現存最速の魔道車を使っても一週間はかかる距離にある彼がここに現れるなんて。しかし、ゆっくり話し合う余裕はなかった。


 ピエリはシドの〈筋肉切り〉を剣で防いだ。そして反撃しようとしたけれど、その前にシドが未練なく後退した。彼はあっという間に父上のもとまで退いた。


 ピエリは私の方を警戒する一方で、父上を見て緊張した。


「まさかオステノヴァ公爵閣下が直接訪ねてくるとは。これは予想外ですね」


「その点だけは同感だよ。しかし、他のことは同意できないが」


 父上の眼差しが冷たくなった。


「あの向こうにいる子どもと騎士たちは置いて行け。そうでなければ貴様ら皆ひどい目に合うことになるだろう」


「そんなに簡単に諦めるなら、そもそも来なかったはずです」


「……ひどいほど堕落したね、ピエリ。昔の貴様は立派な騎士だったが。今は本当にがっかりだね」


「フフ。いろいろ経験していると人は変わるものです」


 ピエリは余裕を持って言ったけれど、次の瞬間突然断層越しに思念通信を送る気配が感じられた。そして断層の向こうにいた敵が急速に後退するのが感じられた。ジェリアを連れて。


 同時にピエリは私たちを牽制しようとするかのように剣を振り回した。


 ――蛇形剣流『倍化』専用奥義〈五頭竜牙〉


 五頭の斬撃の竜が放たれた。私はすぐに父上とシドの前に移動した。だけど〈五頭竜牙〉を一人で防御することは不可能だった。


「くっ……!」


 私が〈満月描き〉と〈半月描き〉で〈五頭竜牙〉をできるだけ削っている時、後ろから魔力が動いた。


 ――『転移』専用技〈開門〉


 私の目の前に空間の門が開き、そこから強力な魔力砲が発射された。それが〈五頭竜牙〉の残った力を相殺した。


 けれど、ピエリはすでに次の行動をしている状態だった。瞬間移動を彷彿とさせる速度で移動したのだ。


 私でもシドでもない、父上の目の前に。


 ――蛇形剣流〈蛇巣穴突き〉


 無数の斬撃が父上に殺到した瞬間、父上は鼻を鳴らした。


 父上とピエリの間に〈開門〉の空間の門が無数に開かれた。そこからあらゆる魔道具の力が放たれた。魔力砲、時間鈍化、氷結、空間歪曲……無数の力がピエリの斬撃を相殺し、ピエリを直接攻撃した。ピエリは舌打ちをして退いた。


 父上は苦笑いした。


「僕のことを知っている奴を相手にするのは面倒だね。普通は油断してくれるが」


「あいにく油断するには閣下のことをよく知っていますからね」


「そうだね。――だから全力で行く」


 父上の宣言と共に、空間の門が無数に開いた。


 父は騎士ではない。剣術の素養はあるけど、そのレベルは百夫長級にもギリギリな程度。それだけでも護身用のレベルを超えたけど、ピエリのようなバケモノを相手にするには足りない。


 けれど、父上は戦闘の門外漢ではない。オステノヴァの魔導兵団を率いて戦争を遂行した経験もあるし、何より……こともいるから。


 父上は研究者であり開発者である。強力な魔道具を無数に作り出し、使える。そして父上の能力は空間を自由自在に行き来する『転移』。ピエリのようなバケモノにも有効なほど強力な魔道具を『転移』の力として活用すること、それが父上の戦い方だ。


 いや、父上が使うのは魔道具だけじゃない。


 空間の門から突然魔力砲が噴き出した。私の〈満月描き〉さえも越える強大な一撃だった。ピエリも急きょ〈一頭竜牙〉を放って相殺するほど。


 ピエリは眉をひそめた。


「まさか艦隊まで起動したんですか!?」


「ひょっとしてね」


 オステノヴァ公爵領が誇る軍団、オステノヴァ魔導兵団。そこでも突出した力を誇るもの――飛空船の艦砲を使。公爵だからこそできる反則だ。


 ――蛇形剣流『倍化』専用奥義〈十頭竜牙〉


 十本の頭すべてが父上を狙った。けれど父上は魔力砲でそのすべてを相殺した。それだけでなく、小さくなった魔力砲の数本がピエリを狙った。


 いや、小さくなったんじゃない。いくつかの空間の門で艦砲を分けたのだ。そうやって分けられたものをそれぞれ違う位置と角度の空間の門につなげて、まるで数発の砲のように活用する。それだけでなく、その一部が断層越しの敵にまで飛んでいった。


 ピエリが自分の分け前の魔力砲を防御している間、父上の手に魔力が凝縮された。強力な重力の魔道具がピエリの体を急激に重くした。そして私とシドの目の前に空間の門が開いた。


「テリア、シドくん。ジェリア嬢を追いかけるように。僕もピエリを相手にしながらあちらを同時に処理する余力はないから」


「閣下? 一人でピエリを……」


「ありがとうございます、父上!」


 私はためらうシドを念動力で空間の門に投げ、私自身も空間の門に飛び込んだ。


 父上のことを心配する必要はない。父上は強いから。『バルセイ』でも父上はピエリに直接勝ったことがあり、ピエリより強いテシリタさえも父上に勝てなかったから。あえて『バルセイ』の事件でなくても、父上が過去にだけ考えても大丈夫だということが分かる。


 父上が私とシドを転移させたのは森の中のどこかだった。遠くない所からジェリアの気配が感じられた。ピエリの部下たちも一緒に。速く移動中だけど、追いかけられないほどの速度ではない。


「行こう!」


 私はまだ慌てているシドの手を握り、〈彗星描き〉で森の木と魔物たちをすべて吹き飛ばして前進した。


―――――


読んでくださってありがとうございます!

面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!

一個だけでもいいから、☆とフォローをくだされば嬉しいです! 力になります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る