今のジェリアとアルカ

「じぇ、ジェリアお姉さん! 大丈夫ですか!?」


 アルカはボクを見てびっくりして走ってきた。氷のせいで滑らないように足を魔力でコーティングしたまま、ボクに向かって一直線に。全身に傷を負ったまま座り込んでいるから心配だったんだろう。足に力を入れて立ち上がった。全身がひりひりしたが、問題はなかった。


「何かあったんですか?」


「一人で魔力を暴走させただけだぞ」


「え? 魔力をどうして?」


 テリアから聞いたことを話すと、アルカの心配そうな表情が瞬く間に煌めく笑みに変わった。


「世界権能ですか!? すごいです! やっぱりジェリアお姉さんはすごいです!」


「すでに世界権能の保持者である奴が何を言っている」


「でも『万魔掌握』は特異ケースですよ。それに私はまだ侵食技を使うこともできないんですよ」


 侵食技は世界権能の象徴、世界を侵食して変化を起こす能力の名称だ。そういえば他の世界権能とは異なり、『万魔掌握』は侵食技を習得するためにはかなり苦労するんだと聞いた。そもそも『万魔掌握』の基本能力自体が一種の侵食技ではあるが、まともな侵食技は厳然と別にあるし。


 アルカはしばらくボクを褒める言葉を連呼したが、すぐに眉をひそめて説教を始めた。


「でも自分を傷つけてはいけないじゃないですか。危険なことをしてはいけません。わかりますか?」


「本当に危ないことはしないから安心しろ。修練のためにしばらく魔力を暴走させただけだぞ」


「でもそんなに怪我をされたんじゃないですか」


「見た目が騒がしいだけだぞ」


「まったく、ジェリアお姉さんは無謀ですからね」


「君たち姉妹からはそんなこと言われたくないぞ」


 誰が誰を叱るのかよまったく。テリアの奴は言うまでもなく、アルカの奴もテリアの妹らしく、たまに無謀なことをする。特に邪毒獣の出現時もテリアと共に戦うと意地を張ったと聞いた。テリアが心配になる気持ちは理解できるが、邪毒獣の力を考えると一緒に戦うのではなくテリアを連れて逃げるのがより合理的だったはずだから。


 ……逃げる、か。いざボクがアルカのような立場だったら、そうできたかはよく分からない。


 一方、アルカは今度はボクの体をじっと見つめ、感嘆の声を流した。感情変化が本当に多様で速い奴だな。


「わぁ、すごいです。いつもより魔力がはるかに強く高まったようですよ。どうされたんですか?」


「……まぁ、魔力を極端に高めてから一生懸命爆発させたんだ。最近、特性を進化させるためにはどうすればいいのかずっと悩んで修練していたぞ」


 黒騎士魔道具を使ったという部分は隠してしまった。ボク自身も内心、堂々としていないという自覚があるからか。しかし、それ以外は嘘ではない。アルカは特に疑わず信じてくれた。


 それよりボクも気になることがあるんだが。


「そう言う君はどうしたのか? 見たところ一人で来たようだが」


「え、えっと……ジェリアお姉さんと同じ理由です」


「一人で修練しに来たのか?」


「はい。ジェリアお姉さんの言う通り、私も今が何かを研究するのに一番いい時期だと思ったんですよ。私も侵食技を早く習得したいです」


「ふむ。考えておいた方法はあるのか?」


「……よくわかりません」


『万魔掌握』の侵食技については不確かな部分が多い。。そもそも始祖オステノヴァ以後はアルカが初めての保有者でもあり、始祖オステノヴァ本人やその以前の保有者の関連記録はほとんどない。『バルセイ』のアルカは結局侵食技を習得したが、レベルを上げていくうちに自然に習得するスキルに過ぎなかったという。侵食技の習得についての説明はどこにもなかった。


 ……ふむ。


「とりあえず模擬戦をやってみよう」


「へ? 模擬戦ですか?」


「そう。君の『万魔掌握』は世界の魔力を扱う力だな。周りの魔力の濃度が高かったり、いろんな魔力が入り混じっているともっと力を感じやすいって言ってただろ? 今ここに来たのもここの魔力濃度が高いからだな?」


「はい」


「一度模擬戦で激しく魔力の応酬を交わしてみるのもいいだろ。ボクも今は魔力を大量に運用する形の修練が必要だ。お互いに役に立つだろ」


 アルカは頭を上げた。さっきボクが魔力を暴走させたせいで、まだ『冬天』の魔力が濃く残っていた。魔力に耐性があまりなければ凍え死ぬかもしれないほどの濃度だが、アルカには力を強く感じられる環境に過ぎないだろう。


 彼女の決定は早かった。


「そうですね。じゃあよろしくお願いします!」


 意欲たっぷりのアルカを相手に、ボクもせっかくの模擬戦に意欲的に飛び込んだ。


 その結果がどうなったかというと。


「うっ、はぁ……。本当に、すごいですね……!」


 苦しそうに座り込んだアルカの前で、ボクは平然と立って彼女を見下ろしていた。


 手加減は全然しなかった。ボクもアルカも。ややもすると片方が重傷を負ったり死ぬかもしれない勢いで戦い、お互いのすべてをぶつけた。


 その結果はボクの圧勝だった。


「しばらく模擬戦ができなかったうちに……すごく強くなりましたね」


 アルカは疲れた中でも感嘆し続けた。だがボクは曖昧な笑みで答えるだけで、その感嘆に素直に応じることができなかった。


 ……何かすごい違和感が。


 アルカを圧倒したのが黒騎士魔道具のおかげであることは明らかだ。魔道具を起動した時の力はすでに暴走しながら全部発散したので、残っていたのは厳密に言えば魔道具の力の残滓程度。もともとボクはアルカより強かっただけに、魔道具の力の残滓だけが残った程度でも彼女を圧倒することができた。そしてその力を振り回している間、何かわかるような気がした。遅いが確実に前進していることが感じられた。


 だが……それとは別に、胸の真ん中に何か違和感が感じられる。


 それが何なのかは分からないが、魔道具を起動した時に感じた邪毒の気分の悪さと似ていた。決していい傾向ではない。ただ魔道具の力の残滓が残ったからであればいいが……。


「ジェリアお姉さん?」


 そろそろアルカもボクの気配がおかしいんだと思ったようだ。しまった、これはダメだ。


 まずはこの場を先に収拾しないと。


―――――


読んでくださってありがとうございます!

面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!

一個だけでもいいから、☆とフォローをくだされば嬉しいです! 力になります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る