進化のために
テリアに励まされて数日後、ボクは一人で呪われた森の基地に来ていた。正確には基地内にある拡張結界の修練場に。
〝貴方のパフェが今の貴方で、未来の貴方は私のパフェ以上の存在だとしたら信じてくれるの?〟
……正直、力をパフェに例えるセンスには呆れた。だがこのように記憶に残ったことを見れば、それなりに印象的な比喩だったということだろう。そう考えるといい選択だったというか。
テリアがボクに憧れていたのは本当に予想外だった。驚きすぎて気絶してもおかしくないくらい。でも一方では嬉しかった。だんだん遠くなっていくと思っていた存在がボクのことをそう思ってくれたのだから。
それにボクの未来に対しても驚きを禁じえなかった。単純に強くなるだろうという慰めは心に響かなかっただろう。しかし、世界権能なら意味が変わる。ボクが本当に世界権能に……『冬天世界』に至れば、テリアと並ぶのも現実になり得る。世界権能はそれだけ圧倒的な力だ。たとえ彼女が天空流の〈五行陣〉に至ったとしても。
しかし、今のところ世界権能に進化する気配はない。しかも『バルセイ』でボクが世界権能に至った時期はストーリーの終盤。今のボクが『バルセイ』での同時期のボクより強いとはいえ、せいぜいその程度に世界権能への道が短くなったとは言えない。
だからこそ、一人でここに来た。
「ふうーー……」
息を長く吐き出し、すべての感覚を内面に集中する。
『バルセイ』の前半は大きな事件がほとんどない。プロローグの事件が最大のものだったほど。前半は攻略対象者を攻略するパートが主で、後半は戦闘が主。つまり本格的な事件が始まるまではまだ時間がある。もちろんこの現実はすでに『バルセイ』とは多くのことが変わっており、なかった事件が新たに起きる可能性もあるが……それは今考える必要はない。
それでボクは余裕のある今だから、特性の進化のための研究をするべきだと判断した。
テリアやアルカのように先天的に世界権能に恵まれている者とは異なり、後天的に世界権能に進化するためには必要なものがいくつかある。その一つ、一番早い方法は自分の力が規格外に巨大になったことを感じること。そのためには誰もいない広い空間が必要だ。今ここは申し分のない場所だ。
だが……力の暴走や全力を尽くした死闘のようなことはすでにたくさん経験してみた。その程度では世界権能まで届かない。
……仕方がないのか。
左ポケットに手を当てた。安息領の黒騎士魔道具がある方だ。魔道具に魔力を注入すると、ボクの体に邪毒が流れ込んでくるのが感じられた。
「っ……」
邪毒の違和感をこらえながら魔道具を調節した。本来、黒騎士魔道具には安全のためにリミッターがあるが、安息領の奴らはそれを不法改造したのかリミッターがなかった。しかし、制式装備のスペックと限界値はすでに調査した。リミッターがない以外は制式装備とほとんど変わらないので、制式装備のスペックを参照して調節することにした。
「っ……はぁ……!」
邪毒が魔力を変質させ増幅させた。この魔道具自体の妙な快感と、力に酔いそうな気持ちが湧き出た。それに必死に耐えた。幸い、それは耐えられた。
そこにだけすべてを集中したから。
「はああああ!」
沸き立つ力をただ増幅して暴走させた。
力を制御する必要はない。ただできる限り力を大きく大きくさせて発散するだけ。そのため、魔道具の副作用を我慢して耐えることだけに全力を集中することができた。
「うぐっ……!」
制御されず暴走する力がボクの体を傷つけた。体のあちこちの皮膚が裂けて血が流れ、食いしばった歯の隙間から血が漏れた。それでも魔力をただ高めた。『冬天』の魔力が周辺一帯を氷の原野にした。ボクの体も凍り始めた。
ひとしきり力を発散した後、ボクは疲れてひざまずいた。魔力の暴走も止まった。
「はぁ、はぁ……はあぁ」
正直無我夢中だったので、正確にどれだけ魔力を発散したかはよく分からない。しかし、周りを見回して息を呑んだ。広い荒野が具現された拡張結界の目に見える範囲の全てが凍りついていた。まるで雪原のような光景だった。
〝気候を勝手に変え、雪山を作り、その雪山を勝手に壊すこともできたから〟
テリアの言葉がまだ頭に浮かんだ。
気候を変える、か。世界権能ならそのくらいは当然できるだろう。もちろん今はただ広範囲な領域を凍りつかせただけで、気候を変えたわけではない。しかし、この力が発展すればその領域に本当に到達できるだろう――と確信した。
単に景色を見て考えたのではない。魔力を暴走させた時の感覚がまだ鮮明だった。その中でいつもと少し違う何かが感じられた。
それが何なのかはまだ分からない。それでも分かるのは、周りのすべてがもう少しよく感じられたということくらい。しかし、世界権能が世界権能と呼ばれる理由は
まだ確実なことは何もないのに、これを繰り返せば進化の糸口をつかむことができそうだという確信があった。でも無理することはできないだろう。魔力の暴走でかなり負傷した上に、力の快感がおさまったらまた邪毒の違和感と吐き気が戻ってしまった。しかも増幅された魔力がまだ残っている。残りの時間はこれを制御することに集中しなければならないだろう。
そう思っていたボクの後方から、突然人の気配が感じられた。
「ジェリアお姉さん?」
話しかけてくる声に振り返った。拡張結界の出入り口、内部から見ると荒野の空間の真ん中が突然ぽっかりと開いたように見える結界の出入り口に人が立っていた。
アルカだった。
―――――
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