冬天世界

 たかがこれでジェリアを慰めてあげられるだろうか。私はとても不安だった。


 少なくとも気分が悪くは見えない。しかし、ジェリアは無愛想な奴でもないのに感情を大きく表さないわよ。今も妙に本音が読みにくい表情で。それでもありがとうって言ったので肯定的な状態だと信じたい。


 私が言ったことはすべて事実だ。ジェリアは前世の私の一番の憧れだったし、今もその気持ちは続いている。その真心が届いたらジェリアも理解してくれると信じているけれど……果たしてちゃんと届いたかどうか。


 その時ちょうど注文したパフェがきた。


「……何だそれ?」


 私が注文したパフェを見て呆れたように、ジェリアの声が漏れた。


 ジェリアのは普通のイチゴパフェだ。でも私が注文したのはこのお店の名物である『特製雪山パフェ』。簡単に言えばバニラアイスクリームとホワイトチョコレートを巨大な器に山のように積み上げた暴食品だ。誇張して言えばこれ一つで糖尿病にかかるような奴というか。


 これを選んだ理由は特別だ。私が大好きなものだから! ……っては冗談で、実は別に理由がある。いや、もちろん好きだというのは嘘じゃないけど。


「ジェリア。貴方のパフェとこれ、どれくらい差があると思う? 量ね」


「三倍にはなりそうだが」


「貴方のパフェが今の貴方で、未来の貴方は私のパフェ以上の存在だとしたら信じてくれるの?」


「……は?」


 ジェリアの目は二つのパフェを交互に見た。


 ジェリアの言葉通り、両パフェの量の差は約三倍。ものすごい差だ。でもゲームのプロローグの時点よりも強い今のジェリアでさえ、ゲーム終盤のジェリアに比べると未熟な子どもにすぎない。


『特製雪山パフェ』を初めて見た瞬間、私はジェリアルートのラスボス戦を思い出した。その時ジェリアは灼熱の砂漠を一瞬にして雪原にし、砂丘を雪山にし、氷の要塞で君臨した。気候まで歪む規格外の力の象徴のようで、ジェリアに話を聞かせる時にこのパフェを見せたかった。


 まぁ、三倍と言っても感興がないかもしれない。力を数値化できれば、今の私とジェリアの差は三倍をはるかに超越するから。だから重要なのは正直な大きさの差ではない。


「人間の特性は進化できるわ。貴方も知ってるでしょ?」


 突然の言葉だと思ったのかしら。ジェリアは少し当惑した様子だった。でもすぐに頷いた。


「もちろん知っているぞ。特性を上位のものに向上させることで格の違う力を手に入れることができるんだな」


「貴方も、他のみんなも例外じゃないわよ」


「理論上はそうだな。……いや待って。どういう意味だ?」


 私は答える前にパフェを一口すくって口に入れた。気持ちいい冷たさと柔らかくて強い甘みが口の中に広がった。ジェリアは眉をひそめながら私の言葉を待った。


 この行動に特に意味はない。ただ甘さを楽しむだけ。しかし、雪山のようなパフェの一部が削られた姿を見ると言いたいことが思い浮かんだ。


「大げさな意味付けかもしれないけれど、『バルセイ』の貴方は本当にすごい力にたどり着いたわよ。気候を勝手に変え、雪山を作り、その雪山を勝手に壊すこともできたから。どうしてそうなったのか分かる?」


「まさか……ボクの特性も進化したということか?」


「そうよ」


 ジェリアの特性である『冬天』は氷雪系の最上位特性。その〝最上位〟の正確な位置は世界権能の真下だ。つまり『冬天』が進化すれば


 氷雪系の世界権能、『冬天世界』。それが後にジェリアが到達する境地。私の『浄潔世界』やアルカの『万魔掌握』と同じく、一系統の名実共にトップ。どんな場所でも極限の気候に変えてしまい、世界を真っ白に染める冬の王。それがジェリアの未来だ。


 彼女だけでなく、攻略対象者全員が自分の特性を世界権能に進化させる。アルカも世界権能である『万魔掌握』の熟練度を極限まで高める。それが『バルセイ』の主人公と攻略対象者が持つ超越的な力の根源だ。そしてジェリアはその中でも自分の特性を最も上手で老練に扱う最強の攻略対象者だった。


 ……あったけど、今は気にする必要はないはずわよ。


「特性の格で言えば貴方も後に私とアルカと同じ領域に立つことになるわよ。私の『浄潔世界』は直接破壊能力が全くない力だから、貴方の特性が『冬天世界』になれば私たちの差は急激に縮まるはずよ。世界権能はそれ自体が超越者の証拠に他ならない力だからね」


 ちょっと特殊で熟練度が低いと世界権能らしい力が使えない『万魔掌握』と直接破壊能力のない『浄潔世界』は例外に過ぎない。他の世界権能は覚醒するだけでもチートの力を発揮する。ジェリアもそれは知っているから、これくらい話してくれればこれ以上劣等感は感じないだろう。


「見本を見せたいけど、紫光技でも世界権能は模写できないから仕方ないわね」


「世界権能を模写してしまえばすっかり気がくじけてしまうぞ。できても自制しろバカ」


 ジェリアはそう言ったけれど、顔は挑戦的に笑っていた。以前はよく見せてくれた好戦的な笑みだった。自信を少しは回復したようだね。本当によかった。


「……まぁ、ボクが世界権能を持つようになるなんて正直信じられないぞ。しかし、君がそう言うなら信じるべきだ。それならボクがすべきことはその力を手に入れるために全身全霊で努力することだけだ。なるべく『バルセイ』より早く」


「できると思うの?」


「今のボクも『バルセイ』のボクより強いんだと君が言っただろ? 必死に努力すれば『冬天世界』の時期も早めることができるだろう。むしろやる気が出ていいぞ」


「フフッ。それはいいけど、一つ忘れたことがあるみたいだね」


「何だ? 修練法? そんなことはなんとかなる……」


 私はジェリアのパフェを指差した。


「パフェ。溶けてるんだけど?」


「……君は時々人の気勢をそぐ才能があるようだな」


 ジェリアは膨れた顔でパフェを食べ始めた。それでも一口目を食べるやいなや微笑んだ。今のいい気分が味につながったように。


 いろんな意味で意味のある時間だった。本当に。


―――――


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