テリアの味方たち
「君の成長もかなり体感できるほどだったぞ。強くなったな」
「ジェリアお姉さんには圧倒されましたけどね」
「ハハ、騎士の道に飛び込んだ年月からが違うぞ。簡単にボクを飛び越えてしまったらボクが困る。それより侵食技については感覚をつかめそうか?」
「よくわかりません。力自体は強くなりましたけれど、感覚的に変わったり、何かがわかるような感じはありませんね」
アルカはがっかりした様子だった。そうする必要はないんだがな。アルカは今も順調に強くなっているし、『万魔掌握』はそれ自体が世界権能だ。いくら今は侵食技が使えない状況だとしても、世界権能ではない能力を進化させるよりは容易だろう。
そうだ、侵食技って言うと思い出したんだが。
「テリアの侵食技が気になるぞ」
「お姉様の侵食技のことですか?」
「ああ、君もわかるはずだが、侵食技を習得するために別途の修練が必要なのは君の『万魔掌握』だけだな。他のすべての世界権能は最初から侵食技を使うことができるぞ。それを上手に扱うか、力に振り回されるかは別問題だが。『浄潔世界』にも侵食技はあるだろうが、テリアがそれを使うのは一度も見たことがないぞ」
「そういえば、邪毒獣と戦う時も侵食技は使っていませんでしたね」
「まぁ、あいつのことだから複雑な事情ではないだろう。邪毒獣を相手に修練のためにわざと力を惜しむ奴ではないだろうが……多分侵食技を使う必要がなかったのかもしれない。侵食技は本来の能力を極大化するだけで新しい能力を追加するのではなく、『浄潔世界』の浄化力と還元能力はもう十分だからな」
ひょっとしたらその他にもあいつだけの事情があるかもしれないが、そこまでは考えても分からない。
「とにかくアルカ。君の能力も期待しているぞ。すぐ見えるようになってほしい」
「私もです。ジェリアお姉さんの『冬天世界』、本当に楽しみにしていますよ」
「ふふ、ありがとな」
どちらが先でも構わない。それでも余裕がある今、できる限り精進するだけだ。成果があればいいし、なくても焦る必要はないだろう。率直に言って焦りが出るのは事実だが、テリアによるとボクたちはすでに『バルセイ』でより強くなった。これからももっと強くなればいいだけだ。テリアの奴もそう思っているだろう。
そういえばあいつは最近何を考えているのか気になるな。
***
「ロベル、少しは休めばどう?」
「僕よりもっと働いている姉貴にそんなこと言われたくないのですが」
トリア姉貴にそう答えると、姉貴はふんと小さく鼻を鳴らし、書類をいっぱい奪った。特に不満はないが、いざ自分は僕よりもっと働いていながら僕にだけ休むように言うことだけは少し不満だ。どうせ姉貴も僕と同じ理由で仕事に邁進しているはずなのに。
「貴方はまだ生徒でしょ。お嬢様と一緒にあれこれやるべき立場でもあるし。だから適当に分配しておきなさい」
今日はなぜか姉貴がおしゃべりだな。しかし僕にも言いたいことはある。
「そのやるべきことのためにも休むことはできません。特に今みたいな時期ならば」
「『バルセイ』の基準では暇だから?」
「そうです」
プロローグに当たる事件は終わった。むしろ『バルセイ』での事件よりもっと深刻なことがあったが、僕たちはそのすべてを損なく阻止した。お嬢様の知識と準備がそれだけ有効だったということだろう。
だが、『バルセイ』とは違うということはすなわち、今後も『バルセイ』をそのまま参考にすることはできないという意味でもある。したがって、事件のないこの時期の余裕を利用して情報を収集し、対応策を講じる必要がある。そのためにずっと人を使ってあらゆる情報を集めて分類し分析している。姉貴と僕がやってることは結局それだ。余裕があると信じられたこの時期に予想外の事件が起きても情報収集で対応できるだろうし。
しばらく書類をかき回す音だけが部屋に響いた。そんな中、突然姉貴が顔を上げた。
「……何か急な報告ができたらしいね。ちょっと行ってくるよ。すぐ来るよ」
直後、姉貴の姿が消えた。
……昔は姉貴の隠密さが理解できなかったが、今は知っている。姉貴の特性である『融合』を利用して土地や器物に融合して姿を消すことだ。特に姉貴が地と融合すれば地の上で起きることを非常に広範囲にサーチでき、その範囲内ならどこでも現れることができる。本当にすごい力だ。
おっと、余裕を持っている場合じゃない。姉貴が来る前に作業を進めておかないと……。
「ロベル」
凛々しく美しい声と共に、突然後ろに現れた人が僕を襲った。
「うおっ!? お、お嬢様?」
テリアお嬢様だった。それに後ろから僕をぎゅっと抱きしめている。お嬢様の柔らかい頬が僕の頬に触れた。
クソ、顔が熱くなってる……!
「お嬢様。こんな奇襲はご遠慮ください」
精一杯平静を装って言うと、お嬢様はニッコリ笑って頬をこすった。
「フフッ、ロベルは相変わらず恥ずかしがり屋なのね。面白いわ。だんだん反応が鈍くなって心配だったけれど」
「だからといってスキンシップを過激にされるのはおやめください。僕の心臓に悪いのです」
「え? なんで?」
ニコニコ笑うお嬢様の問いに、僕は答えられなかった。言葉を見つけられなかったわけではない。お嬢様に仕えて十年が過ぎたから、お嬢様を思う自分の感情を知らないはずがない。だからこそ
お嬢様の知識が、『バルセイ』の設定がどこまでかはわからない。お嬢様がすべてを話してくれたとは思わない。もしかしたら隠した話の中に僕の心と関連したものがあるかもしれない。
……まぁ、今更どちらでもいいが。
だが僕が答えるより先に、突然お嬢様の気配が変わった。お嬢様の顔から笑顔と陽気さが消えた。
「……お嬢様?」
―――――
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