悩み相談

 事件が終わって数日が過ぎた。


 事件の影響はさほどなかった。『バルセイ』ではプロローグの事件で生徒たちが死亡したり拉致されたりしたと聞いたが、この現実では何の被害もなく解決された。率直につまらないほどだった。むしろローレースオメガを生け捕りしたり、ミッドレースアルファの暴走体の標本を確保したおかげで安息領の戦力を研究する機会になった。


 そのためか、テリアはかなり機嫌そうな顔でボクを王都の繁華街に連れてきた。


「ジェリア、貴方は遊びに出たことがあまりないわよね?」


「まぁ、あまり興味がなかったからな。出てみたのもほとんど君やリディアの紹介だったから」


 テリアと一緒に遊びに来たことは何度かあったが、実は二人で来たのは初めてだ。


 今ボクの傍にいる人はテリアだけ。護衛のためにトリアはどこかでボクたちを見守っているが、他に誰もいない。初めてのことなので不思議な気分だ。


「今日はパフェのお店を紹介すると言ってたな?」


「そうよ。最近すごく美味しい所が新しくできたの。ぜひ味わわせてあげたくてね」


「なるほど。楽しみにしておくぞ」


 ……まぁ、そちらは本命ではないだろう。


 ボクもそんなことを楽しまない人ではないが、優先順位で言えば後順位だ。それはテリアも知っているし、そもそもテリアもそんなものをよく探し回る奴ではない。そしてそのような理由ならリディアとアルカが反応をよくしてくれる。特にアルカは見た目より食べることに夢中で、甘いものは特に好きな奴だからな。それでもよりによってボクだけ連れてきたということは、他の目的があるということだろう。


「ここよ」


 考えているうちに到着したようだ。


 店自体は平凡だった。入った時に印象的だったのは鼻先に漂う甘い匂いくらい。その匂いも不快なほど濃くはなく、ほのかに漂いながら食欲を刺激する程度だった。ボクは甘いものを積極的に探し回ってはいないが、与えられたらそれなりに楽しむ方だから気に入った。


 ボクたちは外がよく見える席に案内された。メニューは種類が多くなかったのですぐに決めた。注文が終わった後、テリアは頬杖をついた。


「ジェリア。最近悩みがあるんじゃない?」


「……いきなり本論か」


 他の目的があるとは思ったが、まさか最初からそれを取り出すとは。


「特に悩みなんかないぞ。あったってささいなことぐらいだぞ。明日何を食べようかなとか」


 そう言ってみたがテリアは肯定も否定もせず、じっとボクを見つめた。何も言わずに眺める眼差しがまるでボクを束縛するようだった。まるでその程度の言い訳で抜け出せると思ったかと言うように。


 結局ボクはため息をついた。


「……そんなにバレだったのか?」


「直接見て感じたのは少しだけなのよ。ちょっとした違和感ぐらいだったわ」


「たかがそれだけで……いや待って」


 テリアは曖昧な推測や不確実な要素だけで言い出す奴ではない。本当に心配だったり不安な様子があったら話は違うだろうが、ボクはそこまで不安定な姿を見せなかった。ならば……。


「もし『バルセイ』のボクも同じ悩みだったのか?」


「大事な悩みがあったわ。でもそれが今の貴方の悩みと同じかどうかは、これから貴方が話してあげないと」


 なるほど。ボクの何か悩んでいる様子を見て、それが『バルセイ』でのものと同じなのか確認したかったということか。勝手に本音が暴かれたようで少し不愉快だな。テリアには罪がないから彼女に問い詰めるつもりはないが。


 ただ、不快感とは別に気分が良くはない。よりによってボクが羨ましさと劣等感を感じる相手にバレてしまったから。恥ずかしいぞこれ。


「ボクの口で詳しく言うにはちょっと恥ずかしいぞ。力の悩みと言えばわかると思うのだが」


「案の定予想通りのようね。その対象は私なの?」


 テリアは苦笑いしながらそう尋ねた。


 なぜ対象を聞くのかと思ったが、直接聞く前に先に気づいた。『バルセイ』の主人公はアルカで、テリアは戦う相手である敵だった。しかも『バルセイ』のテリアは今のテリアよりはるかに弱かった。だから『バルセイ』のボクがこんな感情を覚えたなら、その相手はテリアではなかっただろう。多分アルカだったんだろうな。


「今はそうだな」


「そうだったわね。……これからずっと強くなるから心配する必要はないわ。貴方も、他のみんなも。だからあまり気にしないでほしいわ」


「だが誰にでも限界はあるものだ。ボクがどこまで強くなるか確信がないぞ」


「少なくとも貴方の限界は今の私よりは高いところにあるわよ」


「どうやってそんなに断言するのか?」


「ゲームの終盤の貴方は今の私より強かったから。実は主人公も攻略対象者もみんな同じだったわ。その中でも貴方は主人公に次ぐ実力者だったし」


 その言葉にボクは一瞬絶句した。


 今のテリアがどのくらいの位置にあるかはわからない。多分テリア自身も正確なことは知らないだろう。しかし、ボクは騎士団長の力を直接見たことがある。だから断言するが、テリアの力は少なくとも万夫長に近いレベルにはなるだろう。万夫長さえ乗り越えるほどとは思わないが、年齢を考えれば騎士団長のレベルになるのもそう遠くない未来だろう。


 ところで、そんなテリアより強くなるとは。それも主人公と攻略対象者全員なら計六人だ。強くなるという事実自体よりも、今のテリアよりひどいバケモノが六人もいるということ自体に呆れる。ボクがその一人だということもそうだし。


「呆れたぞ。『バルセイ』はDLCか何かという追加ストーリーを除く本編の時間帯が来年までだと言っていなかったか? そして序盤のボクたちは今のボクたちよりずっと弱かったんだって? いったい二年前後の時間に何があって皆がバケモノになってしまったのかよ」


「そうね。それは私もすごく同感なのよ」


 テリアも呆れたように虚しく笑った。しかし、それはすぐに自嘲的な苦笑いに変わった。


「とにかく、私が〝聖女〟の才能と能力に加え、イシリンまで抱き込めたのもその主人公と攻略対象者の異常な才能を乗り越えるためだったわよ。正直、私から見るには貴方たちの才能こそすごく変だと思うわよ」


―――――


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