リディアの理由
「くっ、はあ……」
崩れかけた足に力を入れて必死に支えた。
魔力を使いすぎて強烈な脱力感が感じられた。他の結界術はそれほど負担にならないが、やはり結界魔獣を解放するのはかなりの消耗だ。強さを考えても燃費が悪い奴だから。何とか消耗を減らそうと研究してはいるが、まだ大きな成果がない。テリアさんも『バルセイ』で結界魔獣関連技は消耗が大きかったと言っていた。
しかし、まだ解除できない。事実上勝利したとはいえ、まだ暴走体は死んでいない。奴の再生を抑制して確実に殺すためには結界魔獣を維持しなければならない。
「すごいですね。なかなか楽勝されたようですの」
いつの間にか近づいてきたリディアさんが声をかけてきた。誉めているようだが、その声からブーイングが感じられたのは錯覚ではないだろう。
「皮肉を言うんですか?」
「まさか。すごいなって思ったのは本気ですよ」
「見栄を張っているとお思いになったのでしょう」
「それは今もお考えしますよ」
リディアさんの目は私の足を見た。疲れを無理に堪えようとぶるぶる震えていた。それより目が露骨に私をあざ笑っているが。
「……まぁ、リディアさんならもっと楽に勝ったでしょうね」
「そうだったかもしれませんけれど、それはただリディアの能力があんな暴主体を相手にするのにもっと有利なだけです。固さと再生力が長所の奴は『結火』の火力に弱いですからね」
多分あれは本気だろう。本気でなければあえて私を慰めるようなことを言わなかったはずだから。そしてリディアさんはあんなことを隠せないほど率直だ。嫌いな私を慰める言葉でもストレートに言うほどに。
私の表情から本音を察したかのように、リディアさんが鼻で笑った。
「リディアに嫌われているって自覚はあるようですよね?」
「リディアさんは相変わらずストレートですね。公爵令嬢らしくはありませんが、個人的にはそういう態度が好きです」
「リディアは殿下みたいな人は大嫌いですけれども」
「テリアさんの悪い噂を利用したからでしょうか?」
「もちろん一次的な原因はそれです。けれど、もっと腹が立つのはそれがうやむやになってしまったということですよ。過ちは誰でも犯すことができます。けれど殿下はテリアに謝罪もしなかったし、何か補償をしたわけでもないでしょう」
そういえばそうだったのか。
基本的に私は相手を調べるために多少無礼なことをする。その過程で起こったことについて謝罪したことはない。私が考えても本当に悪い性格だとは思うが、直そうとしたことはない。リディアさんはそれが気に入らないんだろう。
まぁ、今さらあんな言葉で自分自身を変えるつもりはない。そんな人間だったらとっくにそうしたのだろう。……ジェリアの奴はだから友達がいないんだと私をからかうだろうが、その通りなので反論できない。
だから私が言いたいことは別のことだった。
「そんなに私のことを嫌がるのになぜ手伝いに来たのですか?」
「さっきも言われたと思いますけれども。しつこいですね」
「リディアさんこそ私に用事があるようだったんですよ」
リディアさんは眉をひそめた。本音を察知されたのが不愉快なようだ。幼稚だと自覚しながらも、私は一発食わせたと思って微笑んだ。
「なんとなくそういう感じがしたんですが、それ以前にあえてこちらに来た理由が別にあるのかなと思いました」
「……ただこっちに強い奴が現れたと聞いて手伝いに来ただけです」
「ありがとうございます。確かに助かりました。しかし、このまま言い逃れを続ければリディアさんの用事が結局解決しないでしょう」
リディアさんは眉をひそめ、グヌヌとうめき声を上げた。自ら訪ねてきたのにいざここでああしているとは。可愛いけど、そろそろ本論を進めてくれないと私も困る。
「……ちょうど暴走体もすっかり絶命したようですね」
暴走体の息の根が止まったことを確認し、結界魔獣の具現化を解除した。〈ケインの刑場〉も解除した。魔力をたくさん使って疲れてたし、残りのオメガ部隊くらいは警備隊が十分に相手できる。だから今はリディアさんとのやり取りに集中してもいいだろう。
「残った奴らは警備隊に任せて安全な場所に行きましょう。話はそこで聞きます」
リディアさんは大人しくついてきた。しかし、いざ安全な場所に来てもリディアさんは依然としてためらった。ここまで来たら私も何のためにああしているのか気になる。
彼女自身の個人的な悩みではないだろう。そんなことだったら私よりテリアさんのところに先に行ったはずだ。テリアさんじゃなくても他の友達のところに行っただろうし、私は優先順位がとても低いだろう。
それなら王子という立場が必要なのか。しかし、リディアさんが王子にどんな用件があるのかは見当がつかない。権力と関連したお願いをする人ではないだろうし。
それなら残ったのは……。
「……ジェリアについて、聞いてみたいです」
……やはり。
私はテリアさんやリディアさんと会う前からジェリアとジェフィスの親友だった。正直、最近はその二人も私よりテリアさんともっと近くにいるような気がするが、長年の親友なのでお互いによく知っている。もしジェリアに関する相談をしようとするのなら、私ほどの適任者はいない。ジェリアと一緒に過ごす時間はテリアさんとリディアさんが同じだから。
しかし、なぜリディアさんがそのような相談を必要とするのか分からない。私を訪ねてきたということは、ジェリアに話すほどのことではないということだろう。でもそんな相談がリディアさんにありそうもなかったのだが。
まぁ、一人で考える必要はない。当事者に直接聞けばいいから。
「私がお答えできることなら答えて差し上げます。何が気になるのですか?」
リディアはまたしばらくためらった。しかし、すぐに決心を固めた顔でまた口を開いた。
「最近、ジェリアに何か悩みがあるようですけど……殿下はそれが何かご存知ですの?」
―――――
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