合流

 勢いよく言ったものの、実は状況はそれほど良くはない。


 奴らの戦闘持続力がどの程度かはわからない。多分私の結界の中で無理に動くために魔力消耗がかなり激しいだろう。しかし消耗が激しいのはこちらも同じだ。それでもオメガ部隊だけを相手にするのなら構わないが、暴走体の方が問題だ。私はそちらに視線を向けた。


「グオオ!」


 暴走体が魔力砲を放った。結界魔獣は翼から赤い結界の糸を吐き出した。結界の力が魔力砲を霧散させ、暴主体にも強い圧力を加えた。単純に押さえつけるだけでなく、触れただけで物質を分解し破壊する特殊な圧力だった。


 暴走体は力で圧力を粉砕した。奴の全身から血が流れたがすぐ再生してしまい、振り回される拳の勢いは十分強かった。だが結界魔獣は自分を殴った拳をむしろ傷つけ、再び赤い結界の糸を展開して圧力を加えた。今度は暴走体の左肩に集中した力場が奴の腕をひねって粉砕した。暴走体は悲鳴を上げながらもあっという間に腕を再生した。


 あちらは大体こんな感じだった。全体的な状況は私の結界魔獣が優位にあったが、暴走体は膨大な魔力量で強力な再生力を維持していた。私と結界魔獣には再生力を抑える技がなく、奴の肉体が丈夫すぎて一撃で討伐する火力もない。結局片方の魔力が枯渇するまでの持久戦になるだろう。


「……チッ」


 思わず舌打ちをしてしまった。


 持久戦にはあまり自信がないんだが。私もかなり魔力に恵まれているという自覚はあり、実際に私の魔力量は膨大だ。しかし結界魔獣の魔力消耗は大きすぎる。それにローレースオメガたちを同時に相手にしているから、長期戦になるとどちらの魔力が先に枯渇するかの勝負になるのだろう。私の推算では私の方が不利だ。


 そう思いながら歯を食いしばった瞬間、突然状況に変化が起きた。


 ドカンと爆発が起き、私に飛びかかろうとしたオメガの一端が飛ばされた。その後も爆発は連続して起き、そのたびにオメガが飛ばされて気絶した。魔物化して強力な肉体を持つオメガがちょうど死なない程度の絶妙な威力だった。


 誤爆? いや、奴らはあんな爆発を起こすような道具を使わなかった。しかも爆発寸前にが飛んでくるのが見えた。上空から。


 上を見上げると同時に、上空から赤い魔弾の雨が降り注いだ。


 ――『結火』専用技〈彗星の雨〉


 彗星の尻尾のように、弾丸の背面から火が噴き出していた。それが推進力となって高速の魔弾を実現し、その魔弾が着弾するたびに大きさに似合わない強力な爆発が起きた。攻撃が収まった時はすでに私の周りが完全に焦土と化していた。オメガはまだ相当数残っていたが。


 上空から飛んできた小さな少女が私の傍に着地した。


「手伝いに来ました」


「リディアさん。東門は大丈夫ですか?」


 小さな女の子――リディアさんが鼻で笑った。


「そっちのミッドレースアルファはもう討伐しました。今さらその程度の奴に苦労したらテリアについていけないじゃないですか」


「敵はミッドレースアルファだけではなかったと思いますが」


「それ以外の奴らはリディアがいなくても警備隊だけでも十分対処できますからね。こっちにはもっと強い奴が来たと聞いて助けに来たんですよ」


 リディアさんは話しながらも〈彗星の雨〉をもう一度放った。手にした拳銃を中心に魔力の銃口が大量に現れ、そこから推進力の火を吐く魔弾が連射された。


 弾幕の密度も勢いも相当だったが、先の奇襲とは異なり、今回はローレースオメガも各自避けたり阻止したりするなど対処をこなした。それでも残った奴らの二割程度は耐えられず無力化されたが、リディアさんはイライラするように舌打ちした。


 いや、彼女が不快に思うのはそのためだけではないだろう。


「あえてなぜ助けに来たのですか?」


「リディアが来たのが気に入らないんですの?」


「私は大丈夫です。しかし、リディアさんは大丈夫ではないでしょう。リディアさんは私のことがあまり好きじゃないですか」


 リディアさんは口をつぐんだ。


 彼女は私のことが好きではない。嫌悪する……ほどではないはずだが、少なくとも嫌がるレベルにはなるだろう。理由は知っている。私が編入したばかりの頃にテリアさんの悪い噂を利用したことを今でも心に留めているのだ。実際、一度はそれを直接問い詰めたこともあった。その後も彼女は私と深く交流しなかったし、互いに用事もあまりなかったので距離を縮めるきっかけもなかった。


 彼女の言う通り、ミッドレースアルファがいなければ彼女が離脱しても東門の防御に問題はないだろう。しかし、あえてそうしてまで私を助けに来たのが不思議だった。


 結局、彼女は不機嫌そうに口を開いた。


「一応それは終わって話しましょう。まだ戦いは終わっていませんよ」


 リディアさんは反論を聞かないと言うように振り返った。確かにのんびり雑談を交わす場合ではないね。


 しかし、もう一つ気になることがある。


「大丈夫ですか? この結界はまだ味方を識別できませんが」


「……暴主体は殿下が勝手にしてください」


 そう言いながら銃を持つ動作はいつもより遅かった。やはりリディアさんも結界の力に押さえつけられて普段の力が出ないようだ。それでも彼女の主な武器は銃だから、オメガたちを制圧するには問題ないだろう。


「では、こちらはお任せします」


 斧を持って走る。オメガたちが私の前を遮ろうとしたが、リディアさんのよどみない射撃が奴らを吹き飛ばし、道を開いてくれた。おかげさまで問題なく暴走体に到達した。奴が私に注目するより先に、結界魔獣の力をバトルアックスに込めて振り回した。暴走族の足に大きな傷が刻まれた。同時に上半身に突撃した結界魔獣がくちばしで奴の肩を切り取った。


 傷はすぐに再生されたが、奴の注意が私に注がれたことを確認して微笑んだ。


「そう、警戒しろ。私が貴様を殺す者だ」


―――――


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