『隠された島の主人』の意図

【『太陽』や『暴君』のような奴らのことでしょ?】


「そう、あいつらは黒幕の仲間なの? 何のために地上を占拠したの?」


【全然違うよ。その邪毒神たちは私の大切な仲間だよ。黒幕という奴とはむしろ敵対する関係だね。まぁ、貴方は信じないはずだけど】


『隠された島の主人』が皮肉った。でも私は首を横に振った。


「そういう可能性があるということくらいは認めるわ」


【本気?】


「もちろん。『息づく滅亡の太陽』と『凍りついた深淵の暴君』が地上を占拠したことがどんな影響があるかを考えると」


 燃える海の中心である島には特殊な魔力凝集地がある。それを利用して安息領が最上位の邪毒獣を降臨させる。


 ベルフロスト王国の王城では洗脳された狂信者たちが王家の財宝を利用して邪毒神の軍勢を呼び込む。


 それが『バルセイ』で起こった事件。でも邪毒神たちがその地域を占拠して人の接近を遮断してしまい、それらが起こりにくくなった。燃える海では邪毒神の片鱗の降臨で魔力が消耗して凝集地が力を失い、旧ベルフロスト王城の財宝は邪毒神の力で凍りつき壊れてしまったことを確認した。


 しかも直接確認することはできなかったけれど、『偽りの万物の君主』の力が降臨したのは西帝国の帝都。そこは皇城が結界で封印され、皇帝と一部の皇族がその中に閉じ込められたと聞いた。『バルセイ』では洗脳された皇太子が軍勢を率いてバルメリア王国に侵攻していた。


 一度なら偶然として片付けることもできる。でも三人の邪毒神が皆同じ方向性で事を起こしている。ここまで来たら、明確な意図を疑わざるを得ない。


「わざと事件を防ごうとしたの? それともただの偶然?」


【……さぁね。邪毒神を理解して信じようとするなんて、甘すぎる考えじゃない?】


 あいつがまた皮肉を言ったけれど、私はかえって笑いが出た。


 私を騙すのが目的だったら、適当な言葉でうまく説き落とそうとしただろう。そうしないからむしろ信じる気が少しはした。それさえも私の性格を勘案した演技である可能性もあるけれど……まぁ、それは念頭に置く程度でいいだろう。


 私の表情を見て考えを察したのか、奴はため息をついた。


【信じてくれるのはありがたいけど、だからといって油断はしないで。『バルセイ』の悲劇の一部を遮断したとしても、いくらでも別の方法で補えるはずだから。しかも私たちはバルメリア王国の外のポイントを占拠しただけだよ。どういう意味か分かるよね?】


「そのくらいは私も知っているわ」


『バルセイ』の悲劇は国外のものだけではない。いや、むしろメインは国内。何よりも各ルートのラスボスの存在こそ最大の脅威である。燃える海の休養地で登場したはずの最上位の邪毒獣とは格が違う存在だから。


 その時、イシリンが口を開いた。


「あの黒幕って奴が誰かは知らないの?」


【正確な正体は私も知らないよ。ただ太古から存在してきた強大な神ということしか。……力で対決すれば私も勝利を保証できない奴ってことは確かだよね】


「太古から存在してきた強大な神……太古の十二神ラカイン・ファハール


 イシリンは呟いた。『隠された島の主人』が少し当惑している様子が感じられた。


【ラカイン・ファハール? それは神々にとっても伝説の存在じゃない?】


「あいつらは実在するわよ。そもそも私がいた世界の管理神が彼らの一人だったから」


「ちょっと待って。ラカイン・ファハールって何?」


「さまざまな世界が誕生する以前、最初の世界から始まった十二人の神々なのよ。私やこいつのような神はラカイン・ファハールのただの亜種に過ぎないって言えるほどすごい奴らだわ。こいつの言う通り伝説と思われる奴らだけど、私がいた世界はそのラカイン・ファハールの筆頭が直接管理する世界だったの。だから実際に会ったことがあるの」


【ちょっと待って。それは私にも話してくれなかっ……】


『隠された島の主人』が口を開いたけど、突然ハッと驚いて口をつぐんだ。イシリンが怪しがる顔をした。


「貴方、私と会ったことがあるの?」


【貴方が他の邪毒神に会ったことがあったの?】


「……ないけど」


 イシリンは全く気まずいように見えたけれど、実際に思い当たる部分がないようだ。その代わり、質問を続けた。


「とにかく私が聞きたいのは、アグロキフ……アカデミーの邪毒獣をこの世界に送ったのがその黒幕という奴なの?」


【確かな証拠はないよ。私もあいつの行跡を完全に追跡することはできないの。しかし、邪毒獣に関与した魔力の気配が黒幕のものと同じだと思う】


「……そうだったわね」


【それよりラカイン・ファハールって、これは私も予想外だね。後で詳しく話して。でも今は一応本来の用件を優先する】


『隠された島の主人』が私を見た。


【貴方、最近〈五行陣〉を完成させようとしているようだけど】


「で?」


〈五行陣〉は天空流の最も高い領域。今の私がそこに至るだけでも、百年を超えた大英雄のピエリと対等以上に戦えるほどになる。だけど……。


【このままじゃ遅いよ。絶対に】


 ……そうだろうね。


 天空流自体が最新流派ではあるけれど、〈五行陣〉は本当に難しい領域だ。難しすぎるあまり、この世にその領域に至った者はたった二人しかいないほど。


 実は〝主人公〟であるアルカでさえ『バルセイ』の本編では〈五行陣〉を完成させることができなかった。本編以降のストーリーを扱ったDLCでやっと〈五行陣〉の領域に入ったばかりの程度。それでも後日談でも〈五行陣〉に至ったことを指標にして、急いでその領域に到達することが私の目標だった。難しいということも知っていた。


 ところが、なぜ『隠された島の主人』が突然それを指摘するのか分からないけれど。


【始祖武装の『天上の鍵』を覚醒したのはすごい。でもそれだけでは足りないよ】


「だから諦めろってこと?」


【いや、見本を見せようと思って】


『隠された島の主人』が指パッチンをした。あまりにも自然な流れだったので、それを止める暇もなかった。


 そして異変が起きた。


―――――


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