フィードバック

 意図がよくわからない質問だった。推測してみようとしても、その言葉が暗示できることが多すぎてむしろ範囲を狭めることができない。


「どういう意味?」


 結局、直接聞いてしまった。


【言葉通りの意味だよ。貴方は『バルセイ』のストーリーを知っていて、実際にその内容をもとに今までアドバンテージを取ってきたじゃない】


「私が優越感みたいなものでも感じるか心配してるの?」


【いや、そのアドバンテージが自分だけのものだと勘違いしているのじゃないかなって心配になって】


 それはつまり、そんなアドバンテージを持った者が私一人だけではないということだろう。


 しかし、そもそも私のアドバンテージは転生を基盤としている。前世でプレーしたゲームの記憶があったからこそ可能だったのだから。ところが、そんなアドバンテージを持っているのが私だけでなければ、他の転生者がいるということなのかしら。


 考えただけでも分からないことだから、直接聞いてみることにした。


「私以外にも転生者がいるってこと?」


【いや、そういう意味じゃないよ。少なくとも私が知る限り、異世界からここに来た存在は貴方以外にはいない。その点は安心していいよ】


「でも転生者でなきゃどうやって『バルセイ』のことを知るの?」


【私が転生者に見える?】


 そういえば、こいつも『バルセイ』のことを知っている奴だった。こいつも転生者なら話が違うだろうけど、一応本人は転生者ではないと言いたいらしい。


【あれこれ知りたいことは多いはずでしょ。でもとりあえず先に話したいことからやってみようか。結論から言えば、『バルセイ』や未来のことそのものを知っている人が他にいるわけではないよ】


「じゃあどうしてアドバンテージを?」


【貴方が知っているのは結果じゃない。でも結果があるとしたら、当然原因があるじゃない?】


 はっと気づいた。イシリンの方を振り向くと、彼女も私を見て頷いた。


『バルセイ』には黒幕があった。その正体さえまともに出てこない曖昧な存在だったけれど、邪毒神ということだけは確実に提示された。あいつがすべての悲劇の元凶だったわけではないけれど、主な悲劇はすべて奴が直接的にも間接的にも関わっていた。その上、あいつは安息領を利用して世界に干渉することを楽しんだ。


『隠された島の主人』が微笑んだ気配が感じられた。


【貴方が黒幕と呼ぶ奴の計画なんだけど、本来なら何の邪魔もされなかったはずよ。でも貴方がそれを変えてしまった。当然計画が狂ったら、それに合った対処をしようとしない?】


「ゲームになかった事件が私の行動に対するフィードバックだということ?」


【そういうことだよ。まぁ、全部はないけどね。特に王都テロはピエリという奴の独断だったよ。でもその独断も結局貴方の行動に対するフィードバックということは同じよ】


「ピエリはなぜそんなことをしたの? 貴方は知ってる?」


 邪毒神はこの世界に干渉するのは容易ではないけれど、世界を覗くのは比較的自由な場合がある。特にこいつは積極的に世界に関与する奴だからなおさらだ。


【端的に言えば、貴方を騙すためだよ】


「私を? なんで?」


【一年生の時に邪毒陣を撤去してしまった時点で、ピエリは貴方に注目していた。しかし封印装置のことを気づかなかったじゃない。それでピエリは思ったよ。何かをして貴方の目をそらすのではなく、を植えつけようって】


「なっ……それだけのために王都テロを!?」


【貴方とロベルの監視は隙がなかった。力で勝つのならともかく、監視を避けて何かをするのは容易じゃなかったね。でも封印装置のことだけバレなきゃ、ピエリは何かをする必要自体がなかった。その状況を利用したのよ。監視に勝てず直接的なテロを試み、それが失敗して結局アカデミーから退いた。そういうイメージを与えるために】


 言葉が詰まった。


 まさかたかがそれだけのために、危うく王都全体を吹き飛ばすかもしれないテロを犯そうとしたなんて。もちろん実際にピエリの意図通りになったとしても、騎士団の結界が王都の消滅を防いだはずだ。でも被害が完全に無効になるわけではない。


【貴方が安心すればベスト。そうでなくても、ピエリが初めてアカデミーに来た時の過去まで見つける確率は低いでしょ。そう思ったのよ】


「……呆れたわ。でも納得はできたね」


『バルセイ』のピエリは人を守る大英雄だったことが信じられないほどの狂気に突き進んだ。今の彼なら、邪毒災害を成功させるために私を騙すという理由だけで王都テロくらいは十分する奴だ。


「でもピエリの独断じゃないのもあるってことでしょ? 黒幕の奴は安息八賢人にまで影響を及ぼすことができるの?」


『バルセイ』では黒幕が具体的に安息領にどれだけ関与するかは出てこなかった。でもこれまでのことは最高幹部の安息八賢人の権限がなければ不可能なこともあった。


【そこまでは私も知らない。私の観測を防ぐ力があるもの。でも多分その考えが正しいと思う。個人的な意見を言うと……私は八賢人の一人がその黒幕という奴だと思っているよ】


「えっ!?」


【多分私のように分身体を活用しているはずよ。最初から私が安息領に干渉するのをずっと防いでいる奴がいた。もともと私の計画は私だけのための信奉者を作るのじゃなく、安息領を内部で変えることだったから。……おまけに言えば、今もずっとこの会談を覗き見ようとする不埒な奴の魔力を私の力で遮断しているよ】


 そういえば、こいつも邪毒神なのになぜ安息領と敵対するのか気になった。安息領の奴らは一応邪毒神というカテゴリーに入っているなら、無条件に仕える奴らだから。その中で自分の派閥を作って、それを拡張するのが今の信奉者システムよりは簡単なのに――と思ったけれど、まさかそんな理由があったとは。


 とにかく黒幕が安息八賢人の一員かもしれないということはかなり大きな成果だ。でも私が気になることはそれ以外にも多い。


「また質問をするわよ」


―――――


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