信奉者の接触

「ふぅ、疲れたわ」


 現場実習から帰ってくるやいなや寮のベッドに横になった。アルカは私を見て苦笑いした。


「お疲れ様でした、お姉様」


「まぁ、実習自体はそんなに大変じゃなかったけどね」


 北方の大陸、旧ベルフロスト王国派遣。氷城の中心部にあった剣を調べた後はあまり所得がなかった。それでも燃える海と同様に、サンプルとして邪毒神の力が宿った氷の破片を回収した。リディアと『息づく滅亡の太陽』の共鳴やジェリアと『凍りついた深淵の暴君』の共鳴に関する資料も別に記録しておいて。


 確保した資料は父上に研究を依頼すればいいけれど……実はそれより北方の大陸が寒いのが問題だった。寒さ自体は魔力で防寒すればいいけれど、その環境のせいで食事や居住が思ったより過酷だった。特に、物資がない状況を絞ってでも私たちをもてなそうとするメリネリアさんとの意図しない神経戦に本当に疲れた。


「大変でしたか?」


「心的には? 私たちにできることもあまりなかったのに、そっちがしきりにもてなしてあげようとして負担になったわよ」


 氷城で座り込みをしていた安息領……いや、元安息領というべきかしら。彼らを制圧した後、メリネリアさんたちが城を奪還した。『凍りついた深淵の暴君』はメリネリアさんたちが城に進入しても特に何の反応も見せなかった。ただ、念のため城を封鎖して周辺で過ごすことにした。


「実質的に私たちは大きな助けになれなかったわよ。邪毒神の力の片鱗を除去したわけでもないし、環境改善の糸口を見つけたわけでもないしね。それでもそっちは城で座り込みをしていた元安息領の奴らを追い出したことだけでも感謝していたわよね」


 私の目的は邪毒神調査だったけれど、ベルフロストの人々に大きな助けを与えられなかったのは残念だった。


 それにもかかわらず、メリネリアさんは非常に大きな進歩だって喜び、私たちに恩返しをしたがった。ベノンさんは非常に困惑していた。私もそうだったし。


「結局補償という名目で研究協力体を構成することにしたわ。『凍りついた深淵の暴君』の剣のことについてね。そっちも調査チームを構成し、我がオステノヴァ公爵家から派遣する予定の研究チームと協業する形式だよ。……まぁ、その協力体系さえもありがたいことだって、また恩返しの話が出たものの」


「良い関係を築いたのは幸いではありませんか?」


「結局、実質的にそっちで必要なものはあまり提供できなかったから。気が咎めるじゃない」


「それでも研究が進めば結局役に立つでしょうねっ。今は大きな成果がなくても、今後状況を好転させる糸口を見つけることができるでしょう?」


「……そうなることを願わないと。そっちの方が私にも得だし」


 それよりアルカの方はどうなったのかしら。


 バカンス以降、アルカは現場実習に参加せずアカデミーでの調査を担当した。特にこっちにもキャサリン教授のような権威者がいるし、資料なら結構多いからね。私が直接調査してみた二人の邪毒神以外には、それさえも去就が明確なのは『偽りの万物の君主』程度。残りの三人はまだ具体的なことが不明確だ。


 それでも信奉者を増やしている『隠された島の主人』のようなケースもあるけれど……。


「あ、そういえば『隠された島の主人』の信奉者の方から接触してきました」


「うん? 本当?」


「はい。アカデミーの先輩だったんですけど……セリカ・アリエンス、という名前だったと思います」


 セリカ・アリエンス。以前『隠された島の主人』のことを調査する時に接触した信奉者勢力の女子生徒だ。あの人が訪ねてきたって?


「用件は何だったの?」


「そっちの大幹部という人がお姉様に会いたがっているそうです。マルコ・アレクシスと言えばわかるはずですって」


「マルコ・アレクシスなら会ったことあるの。『隠された島の主人』の信奉者勢力ではかなり偉い人よ」


「そんな人がなんでお姉様に会いたがるのでしょうか?」


「……ふむ。『隠された島の主人』は前から私に関心を示していたの。アルカ、貴方に干渉したのもそうだし、ジェフィスの夢でも私に伝言を残したから。具体的な目的はわからないけど、今回も同じだと思うわよ」


 どうしよう。


 断る理由は特にない。『隠された島の主人』を信じるわけではないけど、あいつが直接降臨して私を殺そうとしない以上は特に私に害を及ぼすことはなさそうだし。それに情報を少しでも集めたい私としては、あいつに何か一つでも聞いてみたい。


 しかし、信奉者たちに一方的な啓示を下すだけの奴に何かを聞いてみることは不可能だけど。


「アルカ、何か他の伝言はなかったの?」


「伝言ですか? うーん……あ、一つありました。『主人』は貴方が望むものを与えようとなさる……と言っていました」


「それはまた露骨な誘惑だね」


 すでに私が何を望んでいるのか見当がついたということかしら。


 まぁ、十分あり得る話だよ。『隠された島の主人』は『バルセイ』のことを知っているようだったから。私が今回邪毒神たちを調査する理由も推察できるだろう。それなら、私が望むことがどんな情報なのかも自然に思い浮かぶはず。


「お姉様、会ってみますよね?」


「何よ、読心術でも習ったの?」


「あえてそんなことなくても明らかに見えますからねっ」


 残念ながら『偽りの万物の君主』については調べることができなかった。そっちは外交的に敏感な場所だから。その代わり『隠された島の主人』から情報を得られれば、それなりに代替はできるだろう。


 あいつが信じられるかという問題があるけど……まぁ、そっちは私が情報を勝手に聞き取ればいいんじゃない。


「いいよ。ロベル、セリカ先輩に連絡してね。そしてアルカ、調査をもう少ししてくれる? 西の帝国の方にある『偽りの万物の君主』について」


「私はセリカ先輩の方に行かないんですか?」


「わざわざどっと押し寄せる必要はなさそうだからね。それより帝国の方の情報を少しでも確認したい」


 どうせロベルを通じても調査人員は編成し続けているけど、アカデミーの生徒としてアカデミーの資料や教授たちの情報を収集するのもいいだろう。


 まず私は『隠された島の主人』の信奉者たちに集中しよう。


―――――


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