世界外の決意

【何度も言ったはずですが。計画を止めるつもりは全くありません。そもそも私が、皆知っているでしょ?】


 感情が込められたせいで思わず厳しい声が出た。でも特に優しく話す気にはならなかった。……たとえこの話がもう何度もした話で、しても何の意味もないとしても。


【皆さんが私についてきてくれたのは心からありがたく思っています。しかし、計画に不満がある者の協力は必要ありません。一人でもやるから】


 彼らがここに集まったのは純粋に私のためだ。でも私を大切にしてくれるからといって、私の目標まで同じように考えてくれるわけではない。


『太陽』と『心臓』は露わにして敵対的。『暴君』と『軍団長』はひとまず中立に近いが、計画を始める時までは『太陽』とあまり変わらない立場だった。最初から計画に肯定的だったのは『君主』だけ。それにもかかわらず、皆が全面的に協力してくれているのは良いけれど、良くない感情が残っていれば計画を台無しにするかもしれない。


【一つだけ聞くぞ】


『暴君』が口を開いた。乱暴そうな名前と違って理性的な『暴君』なら、とんでもない質問はしないだろう。


【本当に変わると思うのか? その無数の失敗の記録を最もよく知っている者は自分自身だろう。それでも今回は成功できると確信しているのか?】


【確信なんてありません】


 ためらうことなく即答した。


 そう、確信などない。確信を持つだけの能力があったなら、そもそも無数の失敗などしてもいなかっただろう。でも失敗して初めて知ったことがある。


【ただなぜ失敗したのかずっと考えていたし、私一人でもがくだけでは何もできないことに気づきました】


【それで変化を与えたということか?】


は失敗しました。でも二つ目はまだいいです。少なくとも意味のある変化が続いています。そして私たちの介入もこれまでは肯定的ですよ。確信のようなものがなくても、ただ成功のために努力し続けるだけです】


 失敗はもう数えることさえ忘れるほど経験した。今さら恐怖なんかない。ただ成功するまで努力するだけ。


『暴君』は満足そうに頷いた。


【それでいいぞ。意志を失わず追求し続ける限り、この『凍りついた深淵の暴君』は君を支持するぞ。最初からそのためにここまで来たんだからな】


【……それはいいけどね】


『心臓』が眉をひそめた。彼の視線が私に向けられた。


【その意志のせいで数多くの世界線が作られたよ。その世界線はすべて失敗の結果を抱え込まなければならなかった。そして『主人』の時間の権能でも、その失敗を覆すのは不可能じゃない。いくら時間を戻しても、結局新しい世界線が作られるだけだから。これまでに作って放置した悲劇がどれだけ多いか、自覚はある?】


【呆れるね。今さらそれを指摘するのもそうだけど、よりによってその指摘を『心臓』がするの? 今までそんなことには関心もなかったくせに?】


【今さらという点は認めるけど、それと俺の言うことが正しいか間違っているかは別問題だよ。『太陽』お前はその問題と矛盾について答えを見つけたのかよ? ないじゃないか】


【そう言うあんたは対策もなしにただ非難ばかりしているじゃない。無責任なのは相変わらずだね。だからあの時もそんな大事故を……】


 はぁ、今度は『太陽』と『心臓』か。こんな稚拙な感情争いをしようとここにきたの?


 まぁ……争いの内容は無意味でも、争いそのものは必ずしもそうでもない。の感性と感情を忘れないための必死の闘いだろう。理解はするけれど、よりによってそんなやり方でなくてもいいのにといつも思っちゃう。


 結局、そのような不満が魔力として出た。放出された力が彼らを強く圧迫した。彼らを恐怖に震え上がらせるほどの力ではないけれど、私の意志を示すにはこれで十分だろう。実際、彼ら全員が口をつぐんだ。


【もちろん『心臓』が指摘した矛盾のことは知っていますよ。数多くの平行世界が生まれ、数多くの悲劇が起きたのは私の責任でしょう。しかし――そんなことなんか構いません。私はどんな代価を払ってでも望むことを成し遂げると決心しました。今さら放置された世界の悲劇などを言ったところで感情が少しも動かないですよ】


【変わったね。昔のお前ならそんなことはしてはいけないと泣いたはずなのに】


【長年、ありとあらゆることを経験していると、そんな弱さなんて跡形もなく消えるものですよ。そう言う『心臓』貴方も多く変わったじゃないですか。いや、私たちみんなそうですよね】


 太初の神々を除いた全ての神格は必滅の存在から進化した存在。それは私たちも例外ではない。そのため、私達には必滅の存在の特性が残っている。最も代表的なのが心と感情だろう。それを失わないように努力することが多くの神々の宿願でもある。


 でも私はそんなことなどには興味がない。


 神になる前から、私は弱さを捨てた。まして神様になっている今なら、目的のために必要なもの以外は全部捨てることができる。数多くの世界線に対する同情心など真っ先に捨てた。


【狂気だな】


【はい、狂気です。私の願いを叶えるために必要なものなら、これくらいの狂気ぐらいは発揮しないと】


 私が簒奪したのは時間の権能。それで私は時間を戻してやり直した。しかし、時間を戻す以前の世界線は消えるわけではない。ただ平行世界として依然存在するだけ。あんなに数多くの〝失敗した世界〟を、ただ私の目的のために量産しちゃった。その世界に憐憫は感じてもやめるつもりはない時点で、もう私は狂気にとらわれている。


 そして、それはこの場の誰もがすでに知っている。


【しょうがないぞ。たった一度の成功のために失敗を甘受する、それに同意したからボクたちもここにいるのだ】


【……まぁ、私も今さら足を抜かないわよ】


 ……こうだからこの友達と決別できない。


 苦笑いしながら、私は今になって彼らを呼び集めた本論を切り出した。


―――――


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