邪毒神たちの話

 暗い空間だった。


 正確に言えば〝無〟だった。でも本来闇とは光がないこと。それなら何もない虚無も闇だと言えるだろう。


 そんな虚無の内部……というのもおかしいけど、とにかくその中に小さな空間があった。少し大きな円卓と六つの椅子があるだけの簡素な空間だった。そして椅子は満席だった。私と私の仲間たちだ。


 まるで会議室のような空間だけど、長い間誰も口を開かなかった。


【もうすぐ時になる】


 長い沈黙を破ったのは『暴君』だった。長い間微動だにしなかったみんながその一言に頭を上げた。


【時になるのが意味がある?】


 今回は悲観的な言葉だった。『太陽』だ。しかもその一言で終わらなかった。


【『主人』が努力した年月は? 回数は? 今まで数えることさえ無意味なほどたくさんの試みがあったよ。ところで効果があったことが一度でもあったの?】


【今回は前とは違います。始まりから】


『君主』が反論を切り出した。一見無感情に見える表情だったけれど、その眼差しは様々な感情を抱いていた。


【『主人』が以前数多くの試みをしていたのは事実です。しかし、それらはいつも同じ条件下の出発に過ぎませんでした。同じ条件で同じ記憶だけを持ったまま挑戦したので、成功の可能性があまりにも希薄だったのです。しかし今回は違います】


【さぁね。その違いがどれほど意味があるのだろうか、よくわからないよ】


 今度は『心臓』の言葉だった。


【あの女がどんな奴なのかは我ら全員が飽きるほど経験してみたじゃない? それが今回の違いくらいに変わると思うのかよ?】


【もう目に見えるほど差が出ているよ】


『軍団長』が冷静な眼差しを『心臓』に向けた。


【すでに『主人』の最初の努力は実を結んだ。その差はすでにはっきり表れているよ。『心臓』、君は君の目で見たことまで否定するつもりかい?】


【かなり肩を持つよね、『軍団長』? あんたももともとこの計画に反対しなかったのかよ? 心境の変化でもあった?】


【自分の目で見たものを冷静に分析しただけだよ。とにかく今もあれくらいなら、これからのあの世界の未来は期待できるだろう】


【同感だ。疑いは我ら皆がしたが、すでに結果として少しずつ証明されている。ずっと見守る価値はあると思うぞ】


『軍団長』に『暴君』までそう言うと、『心臓』は気に入らないように低くうめき声を上げた。その姿を眺めていた『君主』が口を開いた。


【今回は違います。違うと思います。……そうでなければなりません。そして『暴君』のおっしゃる通り、すでに少しずつ結果が出ています。今回は楽しみにしています】


【あんたはいつも『主人』の意志に友好的だったじゃない】


【貴方もそうだったと思いますが、『太陽』】


【……ほとんどの事案ではそうよ。でも今回だけは違うわよ。いつも言ってるじゃない。このような試みは無意味だって】


 うんざりする。聞いていた私はため息をつきたい気持ちを必死にこらえた。


 いつもこうだ。私のことが好きだと、私の傍を守ってくれると言いながらも、私の願いについての話が出ると互いに対立する。本当に私と志を共にする者は『君主』だけ。残りの四人は話すことは違っても、本音は事実似ている。


 一方、『君主』と『太陽』のやり取りに『暴君』が割り込んだ。


【甘えてばかりいるのは相変わらずだな、『太陽』】


【何だって?】


【いつも文句を言うだけで、何一つ前に出てやらない。今回の計画のこともただ『主人』の頼みだから無理やり行動しただけで、何一つ自ら判断し実践しなかった。そんなくせにいつも悲観的だな】


【は! それであんたは話す機会をつかんでも何もしなかったの? 弱虫みたい。『暴君』という名前が泣いちゃうわよ】


【そう言う君こそむやみに感情と言語を漏らしたんだな。君の不注意のせいで計画が台無しになるところだったぞ。自覚もない愚かな者め。激情に身を委ねるのなら計画から抜けろ】


【この……!】


 まったく、あの二人は所構わず喧嘩するね。


 そろそろ仲裁してみようかと思ったけど、私より先に『君主』と『軍団長』が口を開いた。


【おやめください。今さら『主人』の計画を全部台無しにするということですか?」


【協力することに決めたら文句は言うな。いっそ計画をやめるよう真剣に説得するのなら構わないが、ただ文句を言うばかりでは何の役にも立たないよ。むしろ心を乱すバカなことに過ぎないよ】


『君主』と『軍団長』まで加わり、『太陽』はぬっとうめいた。このままじゃ負けそうね。


 しかし、その時『心臓』が口を開いた。


【何のバカげた芝居かわからないね。そもそもここであの女を友好的に考えるのは『主人』と『君主』だけじゃん。我ら四人はもともと同じ考えだったじゃん。『暴君』と『軍団長』、お前たちもただ今の姿を見て一歩退いただけで、本質的には同じじゃん?】


『心臓』の言葉はもっともだった。


 彼らの態度は気に入らない。でも計画に反対しながらも、ただ私のためにここまでついてきてくれたこと自体はありがたく思っている。だからなおさら、時遅れの不満などで葛藤が起きるのは嫌だけど。


 でも状況は私の望み通りにはいかなかった。


【考え方とは変わり得るものだぞ。『太陽』と『心臓』が憎悪を考えるのは理解できる。そもそも『主人』以外のみんなが……しかも計画に友好的な『君主』さえ憎悪を忘れてはいないからだ。しかし憎悪に埋没し、今の変化まで無視するなってことだぞ】


【ふん、なんでそうすべきなの? そもそもその変化が信じられないよ。この計画を初めて実行する時も言ったじゃない。本当にこの世界のためにそこまでする価値があるのかって。この世界がどんな悲劇を浴びせたのか忘れたの?】


【その世界がなかったら『主人』との出会いもなかったぞ。断片的な考えで甘えるな】


【このバカが……!】


『太陽』と『暴君』はまた喧嘩しようとした。こいつらは本当に発展だということを知らないの?


【静かに】


 私が口を開いた瞬間、みんなが口をつぐんだ。


―――――


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