邪毒神の剣

 リディアは燃える海で邪毒神の宝石と共鳴した。その邪毒神が扱う力はリディアの特性と同じ『結火』。そして今、ジェリアもまるで邪毒神の力と共鳴するような感じだ。『凍りついた深淵の暴君』の力は『冬天』。偶然にしてはあまりにもぴったり合う感じだ。


「ジェリア。ベノン百夫長が指示したことあるの?」


「騎士団はこのまま情報収集と内部調査を並行しながら着実に進めるそうだ。ただ、ボクたちは自由に動いてもいいと言ってたな。まぁ、ボクたちというよりも君に期待をかけているのだろう。ベノン百夫長は君の強さと行動力のことをよく知っているからな」


「それはありがたいことだね。じゃあ、私たちは先に中心部に行きましょう。貴方が感じたものがそこにあるの」


 ベノンさんに簡単に報告した後、私たちはまず城の中心部に向かった。城の大きさが巨大なだけに廊下も部屋も巨大で、外壁を守っていた防御の術式が内壁にも充実していた。だけど、安息領の奴らはみんな入口近くに集まっていたようで、私たちに近づく気配が全くなかった。何の邪魔もなく進んだ末、この氷城の中心部に到着した。


 巨大なホールだった。家具のようなものがないのでどんな所を形象化したのかは分からないけれど、大きさだけ見れば舞踏会場のようだ。何もない所がただ大きいだけで、もっとがらんとした感じがした。その広くてがらんとした部屋の真ん中に〝それ〟があった。


 巨大な剣だった。正確には剣の形をした邪毒の塊だった。それ自体も邪毒の塊であるうえ、周辺に陽炎のように邪毒がずっと揺れていてシルエットを見るのは難しかったけれど……なんとなく見慣れた感じがした。


「あれは邪毒神の剣か?」


「多分。イシリンにも聞いてみるわ」


 でも私が質問する前に、私の制服の肩の部分がうごめいた。そこから小さな口のようなものが突然飛び出してきた。その口からイシリンの声が出た。


「剣の本体じゃないはずよ。あの剣は邪毒神の一部みたいだから。おそらく本来の剣の力の一部だけを分離した分身らしいわよ」


「邪毒神自身でもない、たかが剣の分身一つで大陸をこのように作ったのですか。やっぱり神様という肩書きをつけている分はしますね」


 トリアの声に警戒心がこもっていた。邪毒神の剣の分身といえば、やっぱり緊張するのだろう。しかも剣自体が邪毒の塊だ。急にあの剣が暴走してしまったら、今この城にいるみんなが危ない。


 そんな爆発物のような剣に向かってためらうことなく歩いていく人がいた。ジェリアだった。


 こんなに近くまで来てみたら確かにわかった。邪毒神の魔力とジェリアの魔力が共鳴していた。リディアの時と同じだ。いや、リディアの時よりもはっきりしていた。見たところ、似たような能力の魔力が互いに似た波長を持っているため、共鳴するようだ。やっぱり似たような能力を持っているからこそああなるのかしら。


 私とロベルとトリアもジェリアを追いかけた。私たちが剣を手で握れる距離まで近づいても、依然として剣は大人しかった。これも燃える海のようだね。だけど、結晶化した宝石の中に邪毒が閉じ込められているだけだったその時とは異なり、今回は剣自体が邪毒の塊だ。私はともかく、他の三人は下手に触ることができない。


 ところが、ジェリアが予想外の行動をした。


「ジェリア!?」


 しばらくじっと剣を眺めていたジェリアが、突然剣に手を伸ばしたのだ。あまり自然に動いて制止するタイミングを逃してしまった。遅れて止めようと手を伸ばしてみたけれど、ジェリアの指が先に剣に触れた。


「くっ!?」


 強烈なスパークが弾け、ジェリアの手が弾き飛ばされた。


「ジェリア、大丈夫?」


「……ああ。ちょっとちくちくしただけだぞ」


 邪毒がジェリアの手を侵す気配はなかった。直接手を確認してみても平気に見えた。安堵で胸をなで下ろしたけど、そのまま見過ごすわけにはいかない。


「急に何してるの! 邪毒が噴き出していたら危なかったのよ!」


「君が傍にいるからそれは問題じゃないぞ」


「だからといってそんなに不注意に行動してはいけないわよ!」


「ははっ。まぁ、冗談だ。……剣がボクを呼び出す気がしたぞ」


「剣が?」


 さっきのことから続くこと?


 燃える海では宝石を通じて邪毒神が直接話しかけてきた。『凍りついた深淵の暴君』も剣を通じて何かをしようとしたのかしら。


「でも呼び出したくせになんで弾き飛ばすの?」


「それはボクにもわからないな。そういえば、燃える海では邪毒神が直接声をかけてきたと言ったな? 今回はそんな感じはなかったぞ」


 しかし今も剣の魔力がジェリアと共鳴しているのは明白だった。ただ同じ『冬天』の力を持っているから?


 念のため、私も剣を触ってみた。燃える海ではトリアを除いて、その場にいたみんなが邪毒神の意志を感じたから。でも今は何も感じられなかった。邪毒の塊である剣が私の手に触れて少し浄化されたんだけど。


 実はそれよりも剣の形状自体が気になる。


「うーん……なんか見覚えがあるのに……」


「見覚えがあるって? これも『バルセイ』に登場した剣か?」


「さぁね、『バルセイ』には存在しなかった邪毒神の剣が『バルセイ』に出てきたのかしら? そしてシルエットもわかりにくいわよ。それでも見慣れた感じがする理由はわからないけど」


「ふむ……そのことだが」


 ジェリアは何か言いたいことがあるようだった。でも彼女らしくなく何か迷っている感じだった。あえて催促するほどではないようでじっと待つと、ジェリアはついにため息をついた。


「実は一つ考えてみたんだが……」


 そのように話を切り出したジェリアの言葉は……予想外だった。奇想天外なくらい。思わず笑い出すほどだった。


「プッ、アハハハ! 何それ? 飛躍しすぎじゃない?」


「やはりそうだろうな? 君の転生よりもはるかにとんでもない話だからな」


 ジェリアも真剣に信じたのではないように、気持ち悪い様子もなく一緒に笑った。ロベルとトリアも苦笑いした。




 ……その奇想天外な推測に心当たりがあることは、私だけの秘密にしておいた。


―――――


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