ベルフロストの王都

 邪毒神の力の片鱗が直接降臨した場所だからかしら。王都の状態は他の場所よりはるかに深刻だった。


 一言で言えば氷の世界だった。力が降臨する時の衝撃のせいか建物と道路がめちゃくちゃに破壊されていて、その残骸の上を厚い氷が完全に覆った。それに松明や火炎系の魔力で溶かそうとしても、氷は全然破壊されなかった。


 それに私だけが感じられる怖さもあった。


「これ……邪毒神の直接の力の影響じゃないわ」


「どういうことだ?」


 私の独り言にジェリアが反問した。ロベルとトリアもこっちに注目し、ベノンさんも私をちらりと振り返った。


「燃える海の宝石はすべてが微弱だけど邪毒神の邪毒を抱いていたわよ。でもこの氷はないわ。純粋な氷なのよ。邪毒が感じられるのは王城の方向だけ……これはただ邪毒神の力の余波だけでこうなったのよ」


「力の余波だけで一国の王都を完全に氷山にしてしまい、小さいとはいえ大陸全域を不毛の極寒に追い込んだということか。恐ろしい奴だな」


 ジェリアは真剣な顔で王都の氷を見つめた。確かに真剣でなきゃならない状況だけど、私は思わず少し笑ってしまった。そりゃジェリアの奴、『バルセイ』ではは自分でできるほどだったから。ほぼエンディング直前くらいの話だけど。もちろん今の彼女は自分がそうなるとは夢にもわからないけど。


 とにかく、王都は路面まで氷で覆われていて危険だった。ベノンさんと騎士団の隊員たちがメリネリアさんたちのために巨大な魔力足場を作った。氷の上を安全に通るためだった。


「あえてここまでしていただく必要はありませんのに……」


「気楽にお考えください。本来私たちの作戦マニュアルには、このような地形で作戦を行う際にこのような措置を取るようになっていますから。そして部隊全体で分担すれば魔力消耗もほとんどありません」


 前進速度は遅かった。王城を占領したという安息領が攻撃してくるかもしれないし、無人の都市になってしまった王都で生きている魔物があるかもしれないから。だけど緊張して警戒したのが面目ないほど、王都は静かなだけだった。結局王城に到着するまで何も起きなかった。


 ついに王城の姿が私たちの目に入った。


「これは……暴君という奴だから、こんなのが好きなようですね」


「フフッ。そう見ることもできますわね」


 ベノンさんの冗談にメリネリアさんは笑った。


 文字通り氷の城だった。本物の王城は降臨の時に完全に破壊されたのか、氷の中に跡だけがやっと見えた。その上にそびえるのは氷でできた巨大な城だった。過去の王城が凍りついたのではなく最初から氷で作られた城なんて、趣味いいわね本当に。


「テリアさん。あの城からは邪毒が感じられますか?」


 ベノンさんが私に質問した。私は答える前に自分の中のイシリンを呼んだ。


[あの城からは邪毒神の気が感じられるの?]


【ええ。堂々と自慢でもしてるみたいわね。他の所の氷からは感じられなかったけど、あの城だけは確かに邪毒神がわざと作り出したものよ】


「はい。王都を覆った氷には邪毒が感じられませんが、あの城では邪毒神の力がはっきり感じられます。どうやら邪毒神がわざと城の形をした構造物で作ったようですの」


「人の城を壊して勝手に新しい城を作ってしまうなんて、無礼な者ですね。邪毒神には当然のことかもしれませんが」


「メリネリア王女殿下。あの城に安息領があるんですの?」


「はい。ただし、彼らは城の中に入らなければ現れません。外では城壁を触っても攻撃しても全然気にしないようですの。……それより王女殿下はつけないでください。今は王女でもないのに恥ずかしいですわ」


 それを聞いて城内の魔力反応を注意深く探知した。確かに城の中に人のものと見られる魔力がいくつかあった。そっちもこっちに気づいたのか、城の入り口の方に集まっていた。でも外に出る気配はなかった。


「メリネリア王女……様、本当に奴らは外で城を攻撃する時は対応しないんですの?」


「はい。おそらく城が固いからだと思いますの。私たちの手段では城壁に傷を一つつけることができなかったんですの」


 ベノンさんが前に出た。美しいほど速くて洗練された抜剣と共に、強力な魔力斬撃が氷城の壁を強打した。しかし壁は壊れるどころか、小さな傷一つさえも許さなかった。


「なるほど。すごく硬いです。いや、とても精巧というか。テリアさん、貴方も感じましたよね?」


「はい」


 やっぱり騎士団の百夫長。氷の城壁を壊すことはできなかったけれど、表面のメカニズムはきちんと把握したようだね。


 氷の城壁はただ固いだけではない。斬撃が激突した瞬間、正確に触れた部分だけに魔力が集中した。その上、単純に魔力の量と密度で斬撃を防いだのではなく、氷の防御力を高める精巧な術式が作用した。


「面倒ですね。我が誇らしいバルメリアの騎士団でも、百人隊のレベルではあの城壁に傷さえつけられないでしょう」


 ベノンさんや百人隊員だけではない。ジェリアも、ロベルも、トリアも、あの壁を破壊するのは不可能だろう。


「それでは結局正門から入らなければなりませんね」


「可能ではありますが、唯一のルートがそこだけなら安息領の奴らも万全の準備をしておいたはずです。正門から入るとかなり困った戦いになるでしょう」


「じゃ、じゃあ何をするべきですの? このまま進入をあきらめるんですの?」


 メリネリアさんは狼狽の表情だったけど、ベノンさんの表情は平穏だった。


「本来ならこちらでも準備を整えてから正門から堂々と攻め込んでいきますが……」


 ベノンさんは私を振り返り、ニッコリと微笑んだ。そして後ろに下がって私に席を譲った。


「テリアさん。お好きなように」


「ありがとうございます、ベノン百夫長」


 地面から足を離さず、ただ元の位置に立ったまま抜剣。同時に鋭く製錬された魔力を刃に込めて撒いた。


 ――天空流〈フレア〉


 閃光が爆発し、氷壁の一面が丸ごと一刀両断された。


―――――


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