消えた悲劇の片鱗

「ところでお姉様。それは……本当ですか?」


 アルカは口を開いた。表情がとても悲しそうに見えた。


「何が?」


「そのゲームということで私がお姉様を……殺したということです」


「……ええ。そうよ」


 アルカとしては傷つく話だろう。でもそれは事実だ。


 いや、正確に言えば、アルカが私を殺さない選択肢もある。その場合は他の人が代わりに殺すので、私が生き残るという選択肢はないけれど……その選択肢を選ぶと。ルートをきちんと仕上げて悲劇を終わらせるためには、必ずアルカが直接私を殺さなければならない。


「ゲームでは必ず私がお姉様を殺さなければならないと言いましたよね? 一体どうしてですか?」


「今はその必要がなくなったわ。だから気にしないで」


「いいえ、知りたいです。隠すことなく全部話してください」


 ……こうなるとわかったら、それは話さなければよかった。それは本当に知らなくてもいいのに……。


 今さら後悔しても手遅れだ。アルカの表情は頑固で、他の人たちも気になっている様子だった。


「私の能力を得るためよ」


「能力を得るって……私の『万魔掌握』は他人の魔力に長く触れながら、それを体得するものじゃないですか?」


「もう一つあるわよ。それよりずっと早くて確実に力を吸収できるのがね」


 利己的な者が知ったら、ややもすると殺人鬼になるかもしれない危険な力。アルカがそうなるはずがないということは知っているけど、その能力を知る視点ができるだけ後であることを望んだ。


「対象を殺して、その魂の力を吸収すること。そうすれば魔力に接した時間と関係なく特性と能力を完璧に持つことができるわよ」


『バルセイ』のストーリー終盤、私の『浄潔世界』がなければ決して防げない悲劇が起きる。けれども、その時点は中ボスである私がすでに死んだ後。アルカが私を殺して私の力を吸収したとすれば、アルカは最後の悲劇を打破して世界を救う〝聖女〟になる。それが『バルメリア聖女伝記』という名前の由来。けれども、他の人が私を殺すことになれば『浄潔世界』の所有者が消えるので、バッドエンドが確定してしまう。


 アルカは目を丸くして絶句した。みんなの反応も同じだった。そんな衝撃的なことをあえて言う状況を作ってしまったのが申し訳なくて、私は急いで収拾しようと再び口を開いた。


「大丈夫よ。『バルセイ』では私の特性が必ず必要だったけれど、私が堕落して中ボスになってしまったから貴方が私の力を吸収しなきゃならなかったの。今は私が直接やればいいから、そうする必要はないわよ」


「本当に……本当に大丈夫ですよね? 私がまたお姉様を……」


「本当に大丈夫よ。私も愛する妹にそんな悲しいことを経験させたくはないの」


「……わかりました。そもそもそういうストーリーだったのがお姉様のせいでもないし、結果的にお姉様はもっと良い未来のために努力するだけですからね。それなら、私がすべきことはお姉様を全力で支持することなんですっ」


 アルカはまるで自分の健康な体を強調するかのように胸を叩いた。


 あれ? そういえば、一緒に戦ったトリアも重傷を負って療養する立場だったのに、アルカはどうしてこんなに元気なの? アルカもかなり怪我をしたようだけど。


「そういえばアルカ。トリアもあんな状態なのに、どうしてそんなに早く治ったの?」


「私はお姉様の指示通り後方で火力支援中心に戦ったからです。お姉様やトリアほどたくさん攻撃されたわけではありませんよ」


 ということは、私なりにある程度はアルカを守ったということだね。そんな思いで胸がいっぱいになってしまった。いざ私を大切に思ってくれるアルカはそれを悲しんでいるのに。


 とにかく、一つの部分が終わった。それを感じたケイン王子はイシリンをちらりと見て口を開いた。


「それで、邪毒竜はなぜ……」


 私はすぐに彼の言葉を遮った。


「イシリン。彼女の名前ですわよ。彼女の名前は邪毒竜ではありません」


「……イシリン……さん? はなぜここにあるのですか? 浄化神剣に宿る経緯はともかく……何の目的で彼女を連れてきたんですか?」


「ボクも一つ質問するぞ。なぜアルカが君を殺して君の能力を得なければならなかったんだ? 君の力は上位浄化能力ではあるが、それがなければ悲劇を防ぐことができなくなるほどの希少能力ではないはずだが?」


 二人の言葉に私は思わず笑ってしまった。偶然重なっただけの質問がちょうど同じことについての質問だったから。


 アルカとロベルとトリアは少し戸惑いながら私の顔色を伺った。この三人は私の特性が『浄潔世界』ということを知っているので、ジェリアの質問が私の特性の正体と関連があるということも推察しているだろう。まぁ、転生と『バルセイ』についての話までしたところで、いまさら私の特性に関する話なんて大したことでもない。


「ごめんね。私の特性は上位浄化能力じゃないの」


「しかし浄化系でそれほどの浄化力があるのは……」


「私の力はそんな上位能力と格が違う『浄潔世界』だからね」


 アルカの『万魔掌握』と一緒に、始祖オステノヴァの能力だった絶対的な浄化能力。


 アルカがこの世界の〝主人公〟であるのは、彼女が『万魔掌握』の能力者だからだ。『万魔掌握』こそこの世界が選んだ〝主人公〟の象徴だから。


 この世界は、大きな危機に直面してこそ、特別な存在を選択する。そしてその存在に世界を救う役割を任せる。その特別な存在は〝主人公〟の他にも〝聖女〟というものがある。その〝聖女〟の象徴が……『浄潔世界』だ。


 本来なら〝聖女〟として〝主人公〟と一緒に世界を救うのが私の役目。だけど『バルセイ』の私は自分の真価さえ知らず、結局は堕落して〝聖女〟の義務を果たせなかった。その〝聖女〟の力を回収して正しく世界を救うのが今代の〝主人公〟であるアルカの偉業だった。


 には……その悲しくて険しい道をアルカに任せてばかりはいないわよ。


―――――


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