第七章 新しいスタートライン

プロローグ 言えなかった話

 緊張する。


 別に戦うわけでもなく、重要な会合をするわけでもない。ただ見慣れた人たちと話をするだけ。しかし、話す内容を考えると、私にとっては何よりも重要な戦闘に他ならない。


「連れてきました」


 ロベルは病室に入った。助けられるトリアと一緒に。


 もともとトリアは別の部屋で療養していた。でも今から話すことは本当に重要なこと。トリアも同席することを望み、彼女の意思を聞いた結果、承諾してくれたので連れてくるようにした。


 ……それよりトリアが助けられて歩かなきゃならないほどだったなんて。少し申し訳なくなるね。


「みんな集まったんですね。また話を始めましょう」


 ケイン王子が口を開いた。


「転生、と言いましたか。よく耳にした言葉ではないのですが……そのような概念を扱った小説があることは知っています。人が死んだ後に別の存在に生まれ変わることを意味する単語ですよね?」


「急にそんな荒唐無稽なのはなぜ? まさか君が転生でもしたというのか?」


 ジェリアは笑いながら冗談を言った。でも私とイシリンはただ真剣な顔で彼女を見つめるだけだった。するとジェリアも笑えなくなった。


「……まさか?」


「私も実際に経験するまでは荒唐無稽だと思ってたわよ」


 前世は転生を題材にした作品は多かったけれど、それはあくまで空想の物語だから。まさか私自身が当事者になるとは想像もしなかったしね。


 それよりこの世界にも転生の概念くらいはあったわね。現世では小説のようなものをほとんど読んでないから知らなかった。


 一方、ジェリアはイシリンを振り返った。まさかあいつも、と彼女の目が尋ねていた。思わず苦笑いしてしまった。


「イシリンはこの世界の存在よ。……いや、この世界の存在ではないけど、少なくとも転生をしたのではないわ。肉体自体は変わったけど」


「どういう意味だ?」


「彼女は邪毒神なのよ」


 室内の空気が凍り付いた。


 まぁ、当然の反応だろう。邪毒神は絶対悪……とまではいかないけど、善悪で言えば明らかに悪というのが一般的な認識だ。それにここにいるみんなが、邪毒のせいで命がけで戦ったのがわずか数日前のことだから。いきなり邪毒獣の上位存在である邪毒神が目の前にいるとしたら、絶対に平気でいられない。


 ジェリアはすでに背中に背負った重剣に手をかけた。アルカとリディアは手に魔力を合わせた。他のみんなも……甚だしくは重傷者のトリアまで戦闘態勢を取った。でもイシリンは依然として足を組んで座っているだけで、彼女の視線も私に固定されていた。


 仕方ないね。


「みんな落ち着いて」


「……テリア。これはどういうことだ?」


「正確に言えば、イシリンは邪毒神わよ。今は力をほとんど失ったけど。イシリン、元の姿に戻ってくれる?」


 イシリンはため息をついたけど、私の頼みを聞き入れてくれた。彼女の体が一瞬光った後、形が急激に減って変化した。今の彼女の本体――邪毒の剣で。


「あの剣は……!」


「お嬢様、あれがなんでここに?」


 ロベルとトリアはそれを見知っていた。私と一緒に始まりの洞窟に行ったメンバーの二人は、八年前に邪毒の剣を見たことがあるから。


「気づいたみたいわね。そう、八年前にその洞窟にいた魔剣よ」


「浄化神剣が堕ちた魔剣……いや、まさか……」


 トリアはすでに状況を察知したようだ。ロベルも何か気づいたような表情で。しかし他のみんなのためにも、ここでは私が説明しなければならない。


「五人の勇者の最後の冒険談、邪毒竜討伐戦。その時、始祖オステノヴァ様の聖剣、浄化神剣が邪毒竜の心臓を貫きました。そして焼失したけれど……実は神剣さえも邪毒竜の息の根を絶って力尽き、そのまま強大な邪毒に荒らされて魔剣になりました。それがあの剣ですの」


「……なるほど」


 ケイン王子が真っ先に口を開いた。


「浄化神剣は邪毒だけを受け入れたのではなく、邪毒竜の魂までも受け入れた。すなわちあの剣の少女は邪毒竜……この世界に唯一降臨した邪毒神の末路だ。これで正しいですか?」


「正確ですわ」


 さすがケイン王子。判断が早い。おかげさまで説明の手間が減った。イシリンも再び竜人少女の姿に戻ったし。でも皆の疑惑は依然として消えていない。


「お姉様、あの剣がなんでここにあるんですか? お姉様がその洞窟から持ってきたんですか?」


「そうよ」


「どうしてそんな……もしかして、先ほどおっしゃった転生ということと関連がありますか?」


「うん。正確に言えば、転生する前の世界で情報を得たの」


 転生する前の世界。その言葉だけでも、みんなこことは違う異世界の存在を察したような表情だった。まぁ、そもそも邪毒神自体が異世界の神だから、異世界の概念自体は慣れている。


「お姉様はもともと別の世界からいらっしゃったんですか?」


「そうよ。……信じてくれるの?」


「こんな状況で冗談を言う御方ではないですからね」


 アルカの言葉にみんなが頷いた。いや、シドは頷かなかったけど、顔を合わせた時間が浅い彼を除くみんなが同じ表情だった。私に対する信頼と、元邪毒神のイシリンの存在さえも何か事情があると信じる表情。その信頼があまりにもありがたくて……胸が痛かった。


 信じてくれるか分からないという不安は捨てた。しかし……この話をするには必ず明らかにしなきゃならない事実がある。私の話がこの人たちを傷つけるかもしれないということが辛かった。


 しかし、すでに決心している。私の秘密を話すことに。そしてこの人たちが……私の大切な人たちが傷つくと思うこと自体が、私の勝手にみんなの心を断定する傲慢かもしれないという気もした。


 私が誰かにとって大切な人になれるとは思わなかった。どうして私が大切にされるのか、正直今も理解できない。しかし、すでに結ばれた縁なら。その縁を信じることが、今私のすべきことだ。


 どうか私の心を……本心を誤解しないでほしい。


―――――


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