見慣れない光景と見慣れる少女

 久しぶりに見る前世の光景だった。


 きれいだけど殺風景な病室。私が世界と疎通する数少ない窓口だった病室のテレビと私のノートパソコン。そしてお見舞いに来た家族からのプレゼントと、私がプレーするために買っておいたゲームソフトのいくつか。


 この光景を夢で見るのは……今回が二回目だ。


「……なさい……ごめん……ご……」


 ああ……まただ。またカリンお姉ちゃんが泣いてる。


 夢の私は……前世の私は寝ているようだ。寝ている顔だけ見れば不治の病で死んでいく人だということが信じられないほど平穏だった。でも成長の様子を見ると多分死が目前だろう。


 その時期は病気のせいで意識を失っている時間がほとんどだった。だからアレも寝ているんじゃなくて昏睡状態に陥っているのだろう。


 以前一度見たのとほぼ同じ光景だったけれど、一つ違う点があった。


「次は……がもっと……ていけるように……」


 カリンお姉ちゃんの声がもう少しはっきりと聞こえた。


 それにしても依然として重要な内容は聞き取れなかった。でも〝ごめんなさい〟の一言さえもまともに聞き取れなかった最初の夢に比べればマシなのだろう。


 カリンお姉ちゃんとは血のつながりなど全然ないけれど、お姉ちゃんはまるで真の家族のように私と接してくれた。とはいえ、私が死ぬ前にもこんなに泣いてくれたなんてちょっと感動した。この夢が本当の現実だったかは分からないけれど。


 ただ……何か違和感がある。


 何の違和感かはわからない。けれど何か不自然な気がした。単純にこの夢が本当にあったことなのかを疑うのとは違う感じだった。


 でも目を覚ます時まで、それが何なのかは結局わからなかった。




 ***




「お姉様! お覚めになりましたね!」


 目を覚ますやいなや柔らかな重みに襲われた。


 なかなか大きな部屋だった。広い部屋に家具は一つのベッドと小さな戸棚だけの殺風景な所で、一つだけのベッドに私が横になっていた。そして私を襲った柔らかな重みの正体はアルカだった。


「ここは……」


「アカデミーの医療研究室ですっ。生徒用に使われる病室です。お姉様、丸一日寝てたんですよ」


「一日……思ったより短かったわね」


「お姉様ってば!」


 アルカは怒ったけれど、嘘ではない。意識を取り戻すまで三日くらいはかかるだろうと予想していたから。


 邪毒獣に続いてピエリとの連戦。戦闘時間自体は長くはなかったけれど、敵の魔力をたっぷり浴びて負傷も負った。しかも〈選別者〉の完成形を初めて開放すると体に無理がかかるし、それに『天上の鍵』を覚醒する時の力消耗まで加えると仕方ない。それさえも無限の魔力があるからこそ回復が早かっただけ。左腕もすでに完全に再生されていた。


 ……そういえば。


「アルカ、そろそろ離れてくれる? 少し息苦しいわ」


「あっ! ごめんなさい!」


 ずっと私を抱きしめていたアルカがやっと離れてくれた。アルカは喜びと悲しみが入り混じった目で私を見たけど、私の顔を見るやいなや目を丸くした。


「お姉様? 目が……」


「右目の色が変わったわね?」


「はい」


 アルカは小さな手鏡を取り出した。そこに映った私の顔は右目が紫色に変色してオッドアイになっていた。


 ……やっぱり。


「なんで瞳の色が変わったんですか?」


「〈選別者〉の完成形に至ったからよ。その強大な力を耐えるために体を強制的に進化させるのよ。この状態に達すれば〈選別者〉第一段階の力が体に完全に定着するの。すなわち普段の身体能力が以前の〈選別者〉を発動した時と同じになったわ。目はその影響で変わったもの」


「あ、それで……」


 アルカは驚きで言葉を濁した。……彼女が誰を思い浮かべたのか分かる気がする。


 でもそれを聞く前に、扉が開け見慣れた顔が次々と入ってきた。


「アルカ、テリアが起きたと……おお、本当だな」


 順にジェリア、リディア、ケイン王子、シド、ロベル、ハンナ。今回一緒に戦ったメンバーはほとんど全員だった。トリアは見えないけれど……多分私のように療養中だろう。アルカは見るまでもなく私の傍にいたいから『万魔掌握』で無理に体の回復を早めただろうし。


 みんなに挨拶をする前に、突然ケイン王子が一歩前に出てきた。すると突然腰を深く屈めた。さすがの私もそれには戸惑った。


「ありがとうございます、テリアさん」


「け、ケイン殿下!? 王子殿下なのにそんな……」


「今回のことで貴方はあまりにも多くの功績を立てました。貴方の情報共有のおかげで十分に備えることができましたし、邪毒獣に対しては貴方がいなかったら本隊が到着する前に皆が死んでいたかもしれませんでした。そして最後はピエリを防いでいたのでしょう」


「……それはみんなが努力した結果ですの」


「ですが貴方の情報がなかったら私たちは事前に努力することさえできなかったでしょう。努力で状況を克服できる機会そのものを貴方が与えたのです。ですからこの国の王子として〝英雄〟に相応しい礼遇を差し上げます」


「お、おやめください。英雄だなんて、とんでもないですの」


 恥ずかしくて否定した。でもみんなの表情が否定する私の言葉を否定していた。リディアとアルカはケイン王子が英雄という単語を口にするやいなや激しく頷いたりもした。


 一方、ジェリアは当惑する私を見て微笑んだ。


「諦めて受け入れろ。それだけ君の役割が大きかったということだからな。それより一つ聞きたいことがあるんだが」


 ジェリアは部屋の隅を指差した。


「あいつ、誰だ?」


 ジェリアが指した方向を見た。そして……息を呑んだ。


 少女が椅子に座っていた。外見上の年は前世で言えば中生徒くらいだろう。燃えるような赤い髪と瞳が印象的だったけれど、それ以上に目立つのは腕と足だった。


 それは人間のものじゃなかった。


 大まかな形状は人間のようだ。でも肌が人間の肌じゃなく赤い鱗だった。そして頭には小さな角が生えており、背中にはコウモリのものをさらに大きくしたような翼が生えていた。瞳孔も縦に長く裂けた形だった。


 一言で言えば……竜人というか。


 誰もが彼女を警戒していたけれど、彼女は超然と私を見つめるだけだった。


 あの姿は……やっぱり。


―――――


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