圧倒する者を相手に
「認めます。貴方はかなりの強敵ですね」
呟きながら、ピエリが〈完全分身〉を解除した。アルカとトリアを攻撃していた分身が消えた。分身体を相手にも怪我が累積していた二人だったけど、さっそく私の方をサポートに駆けつけた。
「ですから――認めただけの誠意をお見せしましょう」
ピエリの腕の力が急に強くなって私の剣を弾き出した。
いや、腕だけじゃなかった。全身の筋肉に魔力が充満し、彼の魔力自体も膨らんだ。まるで爆発するかのような勢いだった。それだけでアルカとトリアが押し出された。
――『倍話』専用技〈身体能力増幅〉十倍・〈魔力出力増幅〉十倍・〈加速度増幅〉十倍
彼を束縛した手綱が解けた。
『倍化』の限界は一度能力を適用した対象には、その能力が解除されるまで他の倍化を適用できないということ。〈完全分身〉は自分自身の存在そのものの〝数〟に倍化をかけるため、維持している間は自分自身の能力を全く増幅できないという欠点がある。もちろん斬撃の威力や数の増幅などはできるけれど、それだけでは限界がある。
だからこそ――〈完全分身〉を使わない時こそ、正真正銘の大英雄ピエリの本当の力が解放されるのだ。そしてそのように力を解放した彼はただ強い肉体と魔力の圧力だけでアルカとトリアの攻撃をほとんど無効にすることができる。
「行きます」
問答無用で、彼の刃が私の首を狙った。
――天空流〈フレア〉
最速の剣閃がピエリの剣を弾き飛ばした。いや、弾こうとした。でもピエリが押し付ける力が強すぎて弾けずにしばらく遅らせるのが限界だった。その一瞬に乗じて後ろに下がって避けたけれどすぐ追撃が来た。
――蛇形剣流〈蛇の群れの踊り〉
速い連続的な攻撃が私を襲った。剣では全部防ぐことができず、剣と魔力防壁を混ぜて防いだりいなした。でも魔力防壁を展開する速度さえ遅れ、右脇腹と左太ももに深い刺傷を負った。
「くッ……!」
――〈雷鳴顕現〉派生技〈千手修羅の像〉
休む暇もなく攻めてくるピエリを〈雷鳴顕現〉の雷で牽制しながら大量の魔力を展開する。雷でできた千本の手が千本の雷剣を振り回した。
「ふん」
――蛇形剣流〈大蛇のトグロ〉
巨大な斬撃が雷剣の半分を消滅させた。続いて再び放たれた〈蛇の群れの踊り〉が残り半分まで破壊した。でも壊れて散る魔力は形を失っただけで、その量だけは依然として膨大だった。
――天空流奥義〈三十日月〉
その魔力の全部を双剣に集めた。集束された魔力の刃は邪毒獣にも通じるほどの強度と威力で完成された。
けれどピエリは『倍化』で斬撃の威力をさらに増幅させ、たった一撃で〈三十日月〉を相殺した。それだけでなく、再び戻された剣をすぐに振り下ろした。
止められない――そう判断した瞬間、左手でその剣を受け止めた。刃が手のひらを突き破り、腕を切り、肩に深く食い込んだ。
さっき邪毒獣に破壊されて魔力で作って使っていた臨時の義手の肩に。
――紫光技特性模写『冬天』
――『冬天』専用技〈止められた世界の残影〉
義手の魔力を全部変換してピエリの剣に集中する。時間さえ凍らせて止めてしまう究極の冷気がピエリの剣をしばらく閉じ込めた。本来は広い範囲に展開する結界だけど、その力をひたすらピエリの剣だけに集中して効果を極大化した。そして右手の剣で〈三日月描き〉を放った。
「無駄です」
ピエリは左手に魔力を集中して斬撃をいなした。そして剣を強く引っ張った。冷気結界が不安そうに揺れた。
時空間を凍らせる結界さえも力で壊そうとするなんて、本当にバカな力なのね……!
このままじゃ結局〈止められた世界の残影〉が壊れ、ピエリの剣が解放されるだろう。
けれど――
「アルカ! トリア! 今よ!!」
「無駄です。彼女たちの力は……、……!?」
ピエリの注意が一瞬アルカたちに向けられた。
ピエリに攻撃が通じなくなった瞬間、二人は牽制さえ諦めてじっとしていた。表向きは大人しく見守っているように見えたけれど、実は密かに魔力を集め続けていた。
ピエリの魔力を貫くために。
『万魔掌握』で無限の魔力を動員できるアルカはピエリさえも凌駕する量で。量では圧倒できないトリアはその代わりに極拳流の要領を活かした極限の圧縮で。ピエリが彼女たちを見下して注意を払っていない間に、彼女たちの攻撃は完成した。
そしてピエリの注意が一瞬そっちに向けられた隙を狙って、この度は私が彼の肩を剣で切り下ろした。ピエリは魔力で強化した素手で剣を防いだ。
極めて短い隙に過ぎなかったけれど、アルカたちが集めた魔力を攻撃に変えるにはそれで十分だった。
――アルカ式射撃術奥義〈天国の虹〉
――『融合』専用技〈融合増幅〉
アルカの矢にトリアの魔力が加わり、ピエリさえも無視できない一撃となった。ピエリは眉をひそめ、剣から手を離して身をかわした。
その瞬間、〈止められた世界の残影〉を解除して身を飛ばす。
――天空流奥義〈三十日月〉
外れてしまった〈天国の虹〉を〈三十日月〉で吸収し、私の魔力まで加えて巨大な斬撃を放つ。ピエリは素手に膨大な魔力を集中して受け流した。けれどピエリさえも精一杯振り回さなきゃならないほどで、受け流された斬撃が結界と激突した。その一撃で結界が破壊された。
「ちっ……!?」
ピエリが舌打ちをした。彼の念動力が剣を彼の手に引き寄せ、急加速した彼の剣が私の首に殺到した。その分かりやすい軌道を防御しようと剣を立てた瞬間、剣が蛇のように動いて目標を足に変えた。突然出現した魔力防壁がその攻撃を防いだ。
その防壁は私が展開したものじゃなかった。
「ピエリ・ラダス!」
ケイン王子だった。彼と共に外で魔物に対処していた兵力がこっちを注目した。
ピエリの力なら、彼らが加わっても全部殺すことができる。でも問題は時間。騎士団の本隊が来る前にここを抜け出せなければ、いくらピエリでもこの場を離れられなくなる。
彼の決断は早かった。
「……今日を私はとても後悔しそうですね」
悔しがる言葉を残し、ピエリは大きく跳躍して空の向こうに消えた。あっという間だった。
―――――
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