小さな逆転
「なんで今さら現れたの?」
「答える義理はありませんが……別に機密でもないので構わないでしょう。貴方を殺すためです」
「私を殺すためにわざわざ来たの? なんで?」
引き続き剣撃を交わしながらも、少しでも情報を得るために口を動いた。
「ふふ、さぁね。貴方がとても大きな脅威だからだと言っておきましょう」
「結界の中にどうやって入ってきたかは分からないけど、この中の状況はケイン殿下が観測できるわよ。抜け出せると思うの?」
「騎士団の本隊が到着する前にここにいる皆を斬り殺して逃げる。あまり難しいミッションでもないんですね」
……ピエリなら本当にできる。
ピエリはまるで自分の言葉を証明しようとしているかのように、今まで以上に激しく攻撃し始めた。しかも魔力の斬撃の軌道がさらに神妙に変化していた。
蛇形剣流は蛇のように曲がりくねった軌道が特徴。けれど軌道が変わる角度や回数には限度がある。そして斬撃の速度は変わらない。ところが今は速度が変わるのはもちろん、しばらく停止して限界を越えた軌道を描いていた。まるで魔力斬撃そのものが生きているかのように。少しずつだけど私の体に刺傷が増えている。
あれは彼の魔剣である『百霊剣』の力。魔力の斬撃に仮の自我を付与し、斬撃そのものが意思を持って動かせる能力だ。地味だけどすごく効果的な能力で……何よりも、あれを使ったということは彼が本当に心から相手を殺そうとしているという意味だ。
私に殺意を抱くのは構わない。いや、むしろ……。
「なぜ笑っているのですか?」
「さあ? 自分で考えてみたらどう?」
ピエリの言う通り、思わず笑いが出た。
ピエリ・ラダスは『バルセイ』終盤の中ボスで、ルートの一つでは人外の力を得てラスボスになる存在。しかも彼は計略を駆使するタイプだ。そんな彼が百霊剣の力まで使って私を殺そうとするということは、たかが生徒である私に
……でも、それはそれ。それとは別に
「ふっ!!」
魔力を爆発させた。
それこそ力に任せた行為。しかし無限の魔力量を持った私がそんなことをすれば大英雄のピエリさえも簡単に対応することはできない。魔力の爆発に押されて退いた彼の次の行動を注視しながら、活性化した魔力を体に高速で循環させる。
【……ごめんね。アグロキフの魂を消化するために今すぐは助けることができないの】
[大丈夫。どうせ今は助けてもらう必要もないから]
私の魔力が激しく震えるのを感じただろう。ピエリは再び襲いかかりながら嘲笑した。
「腹が立ちましたね。貴方を殺そうとすることがそんなに悔しいんですか?」
「私のことだってどうでもいいわよ。ただ……」
すでに最大出力の〈選別者〉で極限まで活性化された体がさらに高まった。限界以上の力が筋肉に蓄積され、感覚がさらに鋭くなった。
そして……〈選別者〉の特徴である右目の紫色の眼光が、少しずつ左目に伝染していった。その姿を見たピエリが少し驚いたような顔になった。
「私の大切な人たちを傷つけようとすることだけは――許せないからね!!」
――紫光技〈選別者〉第二形態
両目から紫色の眼光が爆発すると共に、増幅した力でピエリの剣を押し出した。
「……その歳で〈選別者〉の完成形に到達するとは。正直心から驚きました」
「そんなこと言ってもムカつくだけよ!」
今度は私の方から先に襲いかかった。さらに速く強くなった双剣の猛攻がピエリを襲う。ピエリは依然として大英雄らしい実力ですべての攻撃を防ぎ、時には反撃までしていた。でもその顔から初めて焦りが見えた。
〈選別者〉の第二形態。真の完成型であるその形態は第一形態とは比較にならない力を誇る。でも当然そのような力に到達するのは容易なことではない。
実は私も少し前まではこの形に達していかったけれど……邪毒獣との戦いで魔力を高めながら少しずつ体が変化するのを感じていた。実はそれだけを信じてギャンブルをかけてみただけで、本当に第二形態の開放に成功した瞬間は私も内心驚いたけれども。
もちろん新しい力を得たからといって、すぐに敵を打ち破る少年漫画のような展開にはなれない。この力さえもピエリにはまだちゃんと通じないから。お互いに全力を出して戦うなら敗北して殺されるのは間違いなく私の方だろう。
でも……
――蛇形剣流『倍化』専用奥義〈十頭竜牙〉
十本の竜頭が放たれた。〈一頭竜牙〉に『倍化』を加えた最高の技の一つ。その技を使ったこと自体がピエリの焦りをあらわにした。
「ふん!!」
――天空流奥義〈太陽描き〉
巨大な斬撃の球体が竜の頭を遮った。まき散らされる〈太陽風〉が〈十頭竜牙〉の力を削り出し、球体本体が噛みちぎる竜頭の攻撃に耐えた。
劣勢なのは〈太陽描き〉だったけれど、魔力の力比べをしている間に私が通る隙間ができた。
――天空流〈彗星描き〉
――蛇形剣流〈束縛の蛇〉
まるで私を縛ろうとする綱のような斬撃を、縦斬り一回で切り裂いた。その後の攻撃はピエリの剣に防がれたけれど、彼の背後を取って後ろからもう一度剣を振り回した。ガキィィッと剣がぶつかり合い、もう一度魔力と筋力の力比べに入った。
「今も相変わらず難しいミッションじゃないと思う?」
「……一発食らったんですね」
さっきピエリが言った言葉を利用してあざ笑うと、彼は焦った顔で舌打ちした。
ピエリは相変わらず私より強い。でも今なら私も簡単に死んでくれない。そして私を殺すことに執着するなら、いくらピエリでも間違いなく時間をかけてしまう。
いくら彼が強大な大英雄だとしても、騎士団の本隊が到着すれば終わり。すなわちタイムアタックをしなければならないのは私じゃなくピエリの方だ。
ピエリもきっとそれを知っているだろうし――だからこそ、彼の取るべき行動は決まっていた。
―――――
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