一難去ってまた一難
穏やかだなんて、面白くもないね。思う存分暴れて私の大切な人たちをむやみに傷つけたくせに。
……そう言いたかったけれど、今のイシリンの前であえてそんなことを言うほど空気が読めないわけではない。事情はまだよくわからないけど、邪毒獣は正気じゃなかったらしいし。
それに私としてもそんなこと言う状況じゃなかった。
「うっ、はあ……!」
めっっっっちゃ熱くて息が詰まる……!
イシリンを体に持ったまま魔物を殺すと、魔物の魂をイシリンが吸収してますます強くなる。普通の魔物なら魂を吸収する過程を私が感じることはできない。さらにケイン王子の視察当時、ミッドレースアルファ完成体を二匹殺した時さえも何も感じられなかった。
けれど今回は違う。まるで全身が押さえつけられるような感覚と火刑されるような熱さが感じられた。
そして……その強力な魂を余すことなく食べてしまう暴虐の竜の姿も。
まるで掃除機のようだ。どうせこうなったのなら、たった一滴の力も無駄にしないと宣言しているようだ。それほどイシリンの勢いは強かった。その勢いから彼女の感情が如実に伝わった。
「お姉様、大丈夫ですか!?」
「お嬢様、やっぱり治療を……」
アルカとトリアには怪我のため苦しんでいるように見えただろう。まぁ、実際にそのせいでもっと大変なのは確かだけど。でも私が答える余裕を取り戻したのは、結局魂の吸収が完全に終わった後だった。
「……大丈夫よ。ちょっと余韻が残っていただけよ」
魂が完全に抜け出て空殻になっても、邪毒獣の死体には依然として莫大な邪毒が残っている。それを『浄潔世界』に完全に消し去り、今度こそ振り向いた。
大変な戦いだった。そしてイシリンにとっては精神的にもっと大変な戦いだったんだろう。
でも得たものもあった。特に『バルセイ』の過去回想でも出てきた邪毒獣がイシリンと縁があるということは何を意味するだろうか。まだはっきりしたことはないけど、もしかしたら邪毒獣をこの世に送った者がイシリンと関係があるかもしれない。それなら情報を得ることができる。
もちろんイシリンが心を落ち着かせた後に聞いてみるべきだろうけれど――と思った瞬間、残った右手だけで剣を横に立てた。そして全力で防御膜を展開した。
ドカンと大きな轟音と共に、防御膜が砂糖ガラスのように粉々になった。恐ろしい衝撃が私を吹き飛ばした。
「お姉様!」
「何者だ!?」
アルカとトリアは素早く反応した。けれど襲撃者は二人をきれいに無視し、飛ばされた私を高速の足で追いかけてきた。
空中で姿勢を変え、魔力で臨時の左腕と剣を作った。体の前で交差させた剣に襲撃者の剣がぶつかってきた。
「びっくりでした。殺すつもりで奇襲したんですが」
「私は全然驚かないわね」
ピエリだった。
力比べをする剣がぶる震えた。ピエリは剣を片手で握っていたけれど、最初から『倍化』の力で筋力を増幅したというのが感じられた。恐ろしい力が私を押し、重心を失わせようとした。
「ふん!」
力に抵抗せず、むしろ魔力を噴射して後ろに退く。同時に私とピエリの間を塞ぐように紫光技を展開した。火や氷、雷電、あるいは空間操作など、多様な特性が付与された魔槍であり魔剣のようなものが大量に出現した。一つ一つがかなり強い魔物も始末できるほどだったけれど、ピエリは鼻を鳴らし一撃ですべて粉砕した。
でもその一撃を振るう一瞬の隙が、アルカとトリアに割り込む時間を与えた。
――極拳流奥義〈双天砕〉
――『万魔掌握』専用技〈万魔支配〉
炎風の魔力波がピエリを襲った。鋭い一閃がそれを粉砕したけど、アルカの〈万魔支配〉が一帯の魔力をすべて集めた。霧散した〈双天砕〉はもちろん、これまでの戦いで発散されたすべての魔力が破壊の滝になってピエリに浴びせられた。
けれど、ピエリは余裕があった。
――蛇形剣流奥義〈一頭竜牙〉
巨大な竜の頭型の斬撃束が〈万魔支配〉の怒涛を粉砕した。そしてピエリはアルカの方に顔を向けた。私は彼を止めようとしたけれど突然別のピエリが目の前に現れた。
これは〈完全分身〉!?
「行かせません」
彼が振り回した剣を防いだ。筋力の倍化が消えたけれど、依然として強力な魔力と筋力が私を圧倒した。しかもちらっと見ると、アルカだけでなくトリアの方も分身体が一つ現れた。
〈完全分身〉でそれぞれ一対一なんて、アルカとトリアは耐えられない。でもピエリは本当に行かせる気がなさそうだった。
焦って歯を食いしばった。そんな私をピエリがあざ笑った。
「邪魔にはさせません。貴方をここで殺します」
牽制はあっちだったのか。
特に驚かなかった。私たち三人の中で一番強いのは私だから。でもどうして突然現れたのかは分からない。『バルセイ』では邪毒獣を討伐した後もピエリが本性を現さなかったけれど。
しかも本命が私だとしても、アルカとトリアの方に浴びせる攻撃も激しかった。二人を警戒するというより、早く二人を始末した後分身三人で私を挟むか自分自身に『倍化』を適用して全力を尽くすためだろう。
しかし、二人も甘くなかった。
「なめないで!」
――『万魔掌握』専用技〈世界の城塞〉
周りの魔力が集まり、アルカを包む強力な防御膜となった。ピエリが防御膜を削ってもすぐに自然の魔力が再び補強した。まるで世界が彼女を守ろうとしているかのように。防御膜に守られているアルカがピエリを一方的に攻撃し始めた。
「リベンジを用意しなかったと思う!?」
トリアも激しく抵抗した。〈傀儡の渦〉を展開したまま彼の斬撃をいなし続けていた。〈傀儡の渦〉は剣自体を止めることはできないけれど、噴き出す魔力の斬撃はあくまで魔力。〈傀儡の渦〉が斬撃の軌道をすべて外れるようにした。
だからといって二人がピエリに勝つことはできない。でも時間を稼ぐ程度なら可能だ。
すぐに判断を下し、私は目の前のピエリに集中した。
―――――
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