赤天の因縁
邪毒獣の眼差しが妙だった。まるで思い出に浸ったようにも、深く考え込んでいるようにも……恨みを抱いているようにも見えた。
脈絡なくいろいろな感情が入り混じった眼差しから唯一分かったのは、奴がイシリンと何か関係があるだろうということだけだった。
【偉大なる赤天の主の匂いがするのも驚くべきじゃが、あの御方の術式を再現するとは。キミの正体は何なのじゃ?】
それは私が聞きたいんだけど。
イシリンの邪毒陣……魔法陣というか。この世界の道理じゃないので、目で見ても構造や原理を理解することはできなかった。その上、イシリンの邪毒陣が非常にきれいで整然としているのとは異なり、邪毒獣のものはひどく歪んで外形も似ていない。
でもなぜか、邪毒獣が使っていた邪毒陣と似た起源を持っているような気がした。
[イシリン。あいつもしかして貴方と関係あるの?]
【……多分。姿があまりにもひどく歪んでいて気づかなかったけど、あいつが使った魔法は本来私の故郷の技術なのよ】
まさかこんなに近いところに最高の参考書があるなんて。
といっても、大きく変わることはないだろうね。今まで邪毒獣が披露した能力はただ力の大きさが大きかっただけで、知識が必要なほど独特なものはなかったから。
それより今のイシリンは助言をしてくれる状態でもなかった。
【あれは……いや、でも……まさか?】
[どうしたの? ちょっと混乱してるみたいだけど]
【……ごめんね。それよりそろそろ襲いかかってきそう】
しまった、のんびり話をしている場合じゃなかったわ。
邪毒獣は依然としてその場に立っていたけれど、奴の気配が変わっていた。
【クフ、フフフ。そうかのぅ。赤天の主がここにいらっしゃるというのじゃ】
「ちょっと。聞き取れる言葉で説明してくれる?」
【一微物にあの御方が宿っているというのか。それともあの御方の力の破片がこの世界に存在するのか。どちらにせよ、この世界に来たのは正解みたいじゃのぅ】
それは確かに喜悦だった。
……これくらいになると問わざるを得ないけど。
[あの赤天の主ってこと、もしかして貴方のこと?]
イシリンは答えなかった。何か気に入らない様子だった。
いや、答える前に邪毒獣が先に動いたというか。
【主様よ! 貴方様を見つけたのじゃあああぁぁぁああ!!】
喜悦に満ちた咆哮と共に、邪毒獣が勢いよく突進してきた。これまでのゆったりとした態度とは明らかに違っていた。まるで煙を噴き出しながら走る蒸気機関車のように、邪毒を吐き出す腕が空気を切った。
――天空流〈フレア〉
ひらめく剣閃が邪毒獣の腕を弾き出した。けれど奴は浄化神剣レプリカの力が腕を蝕むことも気にしなかった。巨大な右腕が繰り返し振り回され、散らばった邪毒が大量の邪毒陣を空中に描き出した。
私が何かをするよりも先に、イシリンが直接邪毒を扱った。私の周りに大量の邪毒陣が現れた。まるで邪毒獣のものに対抗するかのように。
――第七世界魔法〈赤天の暴雨〉
――第七世界魔法〈熱光逆転〉
邪毒獣の邪毒陣から大量の熱線が浴びせられた。でもイシリンの邪毒陣がそのすべてを光に変えた。赤い閃光が邪毒獣の邪毒を霧散させて道を開いた。
【行きなさい!】
開かれた道に沿って走る。双剣を取り直す私の傍に、いつの間にか邪毒の槍を除去したトリアがついてきて一緒に走った。後ろからアルカが魔力を高める気配も感じられた。
トリアは一瞬、私の体から噴き出す邪毒が気になったように視線を向けた。でも何も言わなかった。今はのんびり質問をする時じゃないということを知っているからだろう。
一方、邪毒獣も黙ってはいなかった。
【もっと! 貴方様の権能をもっと見せて貰うのじゃ!!】
――第七世界魔法〈赤天の軍勢〉
無数の邪毒の槍が現れた。今回も物質的な実体のある槍だった。でもその槍がまとったのは単なる邪毒だけじゃなかった。すべてを燃やして溶かしてしまうほど熱い熱気が陽炎を作り出した。
ものすごい魔力だったので私とトリアの足が一瞬遅くなった。でもその時イシリンが私の中から叫んだ。
【大丈夫だから行きなさい!】
「……!」
迷いは一瞬だけ。イシリンが攻撃を一度無効にしてくれたことを信じて、再び地面を蹴った。一緒に迷っていたトリアも私が突進すると何も言わずついてきた。
無数の邪毒の槍がこちらに撃ち込まれた瞬間、イシリンの邪毒が再び動いた。
――第七世界魔法〈千変否定〉
大きな波動が広がった。それが邪毒の槍に触るとまるで水で洗い流されるように槍の形が崩れた。求心点を失った熱気と邪毒がむやみに解放された。
「お嬢様! 行かれてください!」
トリアが炎風の渦を展開した。〈傀儡の渦〉が邪毒と熱気を掌握した。もう一度道が開かれ、銃弾のように飛んだ私が邪毒獣の目の前に到達した。
【この微物が貴方様が選んだ新しい使徒ですか!】
すぐに剣を振り回そうとしたけれど、その前に邪毒獣の拳が先に私を殴った。速すぎて対応できなかった。鼻から血があふれた。鼻が壊れたみたいだけど、これ。
でもその場から退くことだけは何とか持ちこたえた。
――天空流〈三日月描き〉
純白の斬撃を浴びせる。邪毒獣は矮小な左腕で斬撃を受け止めた。そして巨大な右腕が再び振り回された。腕は避けたけれど、その瞬間私の左肩が長くて硬い槍に貫かれた。
「うぐッ!?」
魔力で槍を折った。しかし直後、私の周辺の全方位に邪毒の槍が現れた。さっきと同じく強力な邪毒と熱気を放つ槍だった。
【しまっ、魔法を組む時間が……】
「助けてもらうだけじゃないわよ!」
――テリア式天空流〈月光蔓延二色天地〉
紫光の斬撃で槍の軌道をそらし、純白の斬撃で槍を破壊する。本来なら今の私の力では耐えられない攻撃だったけれど、浄化神剣の力がその差を埋めた。
その間、邪毒獣は巨大な尖塔のような巨槍を再び作り出した。
――アルカ式射撃術奥義〈天国の虹〉
後ろから魔力を集め続けていたアルカが一撃を放った。そんなに力を集めても巨槍を破壊することはできなかった。でも大きく弾き出すことは成功した。
一瞬、邪毒獣と目が合った。その視線の間を斬撃と邪毒の槍が横切った。
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