赤天

 変といっても、全体的なシルエットはほぼそのままだった。ただでさえ巨大だった体がさらに大きくなり、頭は口がさらに長くなったし角が追加で生えた。そして背中から古くて破れたけれど巨大な翼が生えた。


 あの姿はまるで……竜のようだ。


【さあ、踊ってみるのじゃ】


 邪毒獣の言葉と共に、もう一度無数の邪毒の槍が現れた。


 今回は上空じゃなく周りのすべての場所だった。しかも槍に圧縮された力がさっきよりも強かった。


「無駄よ!」


 トリアが〈傀儡の渦〉を展開し、私が〈浄純領域〉を地上に展開し、アルカが魔矢を装填した。私の〈浄純領域〉の補助さえあれば二人の火力でもこのような邪毒の槍ぐらいは十分に対処できる。


 ――というのが安易な考えであることを、直後に悟った。


「なっ!?」


 体を横に曲げた。長くて堅い槍が頬をかすめた。〈浄純領域〉の中でも健在で、〈傀儡の渦〉の影響を受けず、アルカの射撃すらすべて弾き飛ばすその槍は……。


「実体がある!?」


【クフフ。無駄じゃないみたいじゃのぅ】


 槍はすべて物質的な実体を持っていた。どうやらさっきの邪毒だけでできた槍とは異なり、物質的実体がある槍の表面に邪毒を着せるだけだったようだった。


〈浄純領域〉で消したのはその表面の邪毒だけであったし、物質には影響を及ぼすことができない〈傀儡の渦〉はただ槍の表面を柔らかく撫でるだけだった。それでも〈浄純領域〉が槍に内包された力まで奪って弱化させたけれど、槍そのものを無効化することはできなかった。


 って、こんなに多くの槍を一体どこから!?


「くっ!」


「ああッ……!」


 トリアの太ももが貫かれ、アルカの肩に穴が開いた。防げなかった攻撃だった。


 けれどほとんどの槍が目標にしたのはやっぱり私だった。


「なめないで!」


 ――テリア式天空流〈月光蔓延二色天地〉


 隙のない斬撃の乱舞が槍をすべて弾いた。特に浄化神剣レプリカの剣閃が問答無用で槍を破壊した。けれど、あまりにも多い槍の数のせいでその場で動くことはできなかった。


 その時突然、邪毒獣が私に襲い掛かってきた。


【ワシも格闘できるのじゃ!】


 巨大な拳を斬撃で打ち返した。邪毒獣は跳ね返っても構わず拳を浴びせ続けた。一撃一撃があまりにも重くて強かった。しかも奴の攻撃はそれだけじゃなかった。


 ――第七世界魔法〈千変の形〉


 奴の毛が長くなって、溶けて絡み合って一つになった。そうしてできた長い物が槍に変わった。さっきの槍の弾幕があんな風に作られたのかしら。その上、肩や脇腹から新しい腕や触手のようなものが生えた。それらすべてが私を攻撃した。


 邪毒をまとった攻撃ではあったけれど、核心はすべて物質的な実体のある攻撃。『浄潔世界』の能力者である私に純粋な邪毒の攻撃は意味がないということを知るやいなやこれだ。瞬く間に判断を下す知能も、それを実行できる能力も並大抵じゃないわね。


 ――天空流奥義〈満月描き〉


 ――第七世界魔法〈赤天の聖槍〉


 私が巨大な斬撃の球体を放つと同時に、奴が巨大な槍を作り出した。尖塔を丸ごとむしり取ってきたような大きさだった。尖塔のような巨槍が〈満月描き〉を貫いた。


 あり得ない、奥義をこんなに簡単に!?


 急いで剣を交差させて防いだ。けれど巨槍の力は強すぎる。防御はできたけれど、あっという間に結界の終わりまで押し出されてしまった。


「お嬢様!」


 ――極拳流奥義〈深遠の拳〉


 飛んできたトリアが巨槍の側面に穴を開けた。彼女の魔力が凝縮された奥義でも小さな穴が開いただけだった。けれどその穴にアルカの〈天国の虹〉が炸裂し、ついに巨槍が破壊された。


 でもまた現れた実体の槍が彼女たちの肩と太ももを貫き、床に固定させてしまった。血と悲鳴が上がった。


「アルカ! トリア!!」


【人のことを心配する余裕があるかのぅ?】


 瞬く間に接近してきた邪毒獣が巨大な手のひらと触手の群れで私を狙った。私は魔力場を広げてその攻撃を受け止めた。防いだものの、歯を食いしばって全力を出してこそ防御できるほど強い力に冷や汗を流した。力に押されないように全力を尽くすのが精一杯だった。


 ところが、そんな私を見ていた邪毒獣の勢いが妙だった。


【……なるほど】


 奴は顔を近づけて私をのぞき込んだ。整然と並べられていない目玉がぞっとした。


【この世界に来てから、偉大で可憐な赤天竜の匂いがしたのじゃ。何故か分からなかったのじゃが……その匂いがキミからするのじゃ】


【……え?】


 突然、私の中から強い鼓動が一度聞こえた。


 私じゃない。私としては邪毒獣の言葉がわけのわからないタワゴトに過ぎなかったから。けれど、奴の言葉を違うように受け入れた存在があった。


 イシリンだ。


【あいつ……まさか……】


 どういうことなのか聞きたいけれど、今は防御だけでも手一杯だからそうする余裕がなかった。


 ところが、イシリンの方から私に話しかけてきた。


【テリア、これから見せるものを魔力で描いて。どうせなら私の邪毒で】


 急に何言ってるの!?


 問い詰める前にイシリンが私の頭の中に絵を見せてくれた。独特の絵が絡み合った……というか、前世のファンタジーでよく見た魔法陣みたいな形をしているんだけど。一応邪毒陣というのは分かったけれども。


【お願い】


 そこまで言うなら仕方ないわね。


 私はイシリンの邪毒を自分で引き出した。邪毒をそれ自体として扱うのは初めてだけど、イシリンが協力的だからだろうか。普通の魔力を動かすのと感覚的には大きな差がなかった。アルカとトリアがそれを見て驚いていたけれど……説明は後で。


 邪毒陣が完成するとイシリンが直接邪毒を動かした。邪毒陣に邪毒をいっぱい注ぎ込んだのだ。


 そして。


 ――第七世界魔法〈赤天竜波〉


 邪毒陣がものすごい勢いで魔力砲を放った。


 猛烈で、床を溶かしてしまうほど熱い魔力砲が邪毒獣に直撃した。奴が後ろに大きく押し出された。


 被害自体はあまり受けなかったけど、奴の気配が少しおかしかった。


【……やはりかのぅ】


―――――


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