圧倒的な強さ

【うむ?】


 邪毒獣が怪しがる声を出した。奴の視線が自分の体に生えている小さなかすり傷に向けられた。


 先ほどの〈月光蔓延二色天地〉が出した傷。中でも右手の浄化神剣レプリカの剣閃が残した傷の状態が少しおかしかった。浄化の魔力特有のきれいで白い魔力が傷にかすかに残っており、まるでその光に燃えるように傷が少しずつ広がっていた。


 邪毒獣は鼻で笑うようにふんと声を上げた。奴の圧倒的な邪毒が傷に残留した魔力を一瞬にして消し、傷を治癒した。


「はあああ!」


 ――天空流奥義〈満月描き〉


 直ちに強力な奥義を放つ。浄化の白色と紫光技の紫色が入り混じった巨大な球体が現れた。邪毒獣はほぼ同等の大きさの邪毒塊を放って対抗したけれど、魔力の力比べで勝ったのは〈満月描き〉だった。消耗して小さくなった球体が邪毒獣の腕をめった切りした。傷自体は深くはなかったけれど、今回も真っ白な魔力が奴の体を少しずつ破壊させていった。


 それくらいになると奴も怒ったように咆哮した。せっかく出した傷は再び莫大な量の邪毒に流されて消え、巨大な津波のような勢いで邪毒があふれた。


 ――天空流〈三日月描き〉


 純白の巨大な斬撃が邪毒の津波を切り裂いた。そうして開かれた道に突っ込んだ後、正面からもう一度斬撃を放つ。邪毒獣の拳がその斬撃を打ち砕いたけれど、拳の方も割れて血を流した。


 邪毒獣の表情が歪んだ。歪んで壊れた姿のせいで見分けるのは難しかったけど……眉をひそめたのかしら?


【妙な力じゃのぅ。とても気持ち悪いのじゃ】


「そりゃあ本当によかったわね!」


 絶え間なく斬撃を浴びせた。


 速度も力も邪毒獣の方が優位であり、私の力は邪毒獣にまともな傷を与えることさえ不可能だ。けれど浄化神剣レプリカの力が邪毒獣の体を侵食し、奴の強力な邪毒さえも中和させた。


 浄化神剣は邪毒の影響を受けたすべてを粉砕する究極の特化兵器。これはイシリンの力で作り出したレプリカに過ぎず、その出力は原本にはるかに及ばない。けれど、出力が非常に微弱でも能力の特性自体は原本と同じだ。


 去年のボロスが戦闘スタイル面で相手しやすい敵だったとすれば、邪毒獣は浄化神剣レプリカという強力な武器の力を前面に出せる敵である。


 そして……この戦いは私一人だけのものじゃない。


 ――アルカ式特殊魔装『太陽の翼』


 アルカが手にしたのは平凡な魔力弓じゃなかった。極限まで魔力が凝縮され強力な威力を発揮する特殊な弓だった。さらに〈一つの星〉をまるで羽のように無数に率いる〈星の翼〉まで展開し、矢型〈一つの星〉を太陽の翼で撃ち続けていた。矢というより、すでに砲撃の領域に達した射撃だった。


【気に食わないのじゃ!】


 邪毒獣は奇形的に巨大な右腕を振り回した。その動作に沿って濃密な邪毒の霧がまき散らされた。それはすぐ無数の邪毒の塊に変わり、まるで結界の中をすべて壊してしまうかのような勢いの弾幕となった。


 ――アルカ式射撃術〈ホシクモ〉


 ――天空流〈半月描き〉


 アルカの矢雨が弾幕の半分ほどを迎撃し、残りは私の双剣が吸い込んだ。濃密な邪毒を吸い込むのは本来なら自殺行為だけど、『浄潔世界』の私には何の関係もない。


 吸い込んだ邪毒が浄化され、純粋な魔力に変わった。そのすべてを浄化神剣レプリカに集め、一つの巨大な魔力の刃を作り出した。


 でも邪毒獣は大量の邪毒を放出した。巨剣の斬撃はその津波を切り裂いたけれど、それだけで力が尽きてしまった。


【なかなかじゃのぅ】


 邪毒獣は余裕のある姿で巨大な右腕を振り上げた。結界の上の空間全体を邪毒で覆った。力を集める気配も、広める姿さえも飛ばした一瞬だった。


 上空を埋め尽くしたのは一つ一つが長く巨大な邪毒の槍だった。数百、もしかしたら数千……いや、数を数えるのが無意味なほどの規模だった。


 邪毒獣の顔が歪んだ。歪んだ形状のせいで見分けるのは難しかったけど、あれは多分……ニヤリと笑ったのだろう。


【受け止めるのじゃ】


 無数の邪毒槍の一つが私に向かって飛んできた。まるで漆黒の閃光のような速度だった。必死に振り回した剣がぴったりのタイミングで槍と激突した。


 タイミングが合っているからといって、防御がうまくいくというわけじゃないけれども。


「うっ!?」


 魔力が爆発して轟音が鳴った。強烈なしびれと痛みが腕を一瞬麻痺させた。崩壊した槍から広がった邪毒は私には通じないけれど、物理的な衝撃波だけでも生まれて初めて体験する衝撃だった。


 これ、力だけはピエリどころかボロスよりも強いわね……!


【うまいうまい。続けるのじゃ】


 一発、もう一発。無数の邪毒の槍を作り出したくせに、邪毒獣はわざと一つずつだけ撃った。私がギリギリで全身全霊の斬撃で打ち返せる速度で。剣と槍が激突するたびに魔力が爆発し、その衝撃をそのまま受ける腕と腰が悲鳴を上げた。


【クフフ。愉快な姿じゃのぅ】


 あいつ、堂々と笑って楽しんでる……!


 イライラしたけど、槍を迎撃するだけで全力を尽くさなければならない私には方法がなかった。いや、純粋に槍を迎撃するだけなら別の方法があったと思うけど……。


「お姉様……!」


 悔しそうに表情を歪めたアルカが弓を撃ち続けた。けれど彼女の矢は邪毒の槍を少しも妨害できず、迎撃の余波さえもまともに相殺することができなかった。必然的に私は〈雷鳴顕現〉の力を衝撃波の相殺に割かなきゃならなかった。


【本当に役に立たず子なのじゃ。足を引っ張ることしかできぬ】


 アルカの顔が真っ青になった。


 あいつ、アルカを侮辱するなんて……!


 けれどアルカは死色になりながらも弓を放さなかった。いや、むしろ彼女の魔力がさらに強まる気配が感じられた。


 よかった。まだ戦意を失ってはいない。


 でも状況は依然として厳しかった。邪毒獣はずっと私をもてあそぶように邪毒の槍を放ち、私とアルカはろくな対応すらできずにいた。


 ……これをどうすればいいのかしら。


―――――


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