対決の始まり

 気づいてからの行動は早かった。


「結界組! 結界と遠距離攻撃で魔物を迎撃しろ! アレンたちは周りのザコどもに対処しろ!」


「ジェフィス様はどうなさるんですか?」


「あいつを相手にする」


「まさか一人でのおつもりですか!?」


「しょうがないだろう。人員が足りないんだよ。敵はあいつだけじゃないから」


 正直、僕もあいつを一人で引き受けるのは不安だ。


 啓示夢ではこの戦いで僕が死んでしまったから。それに人員を分担するとはいえ、あの強い魔物の周辺にザコの気配が一緒に感じられた。戦闘に突入すれば一対一ではないだろう。


 それでも……するしかない。


「来るぞ!」


 気配が速い速度で庭園に来た。そしてついに、庭園の入り口の建物の裏から奴が姿を現した。


 僕の四倍はなるような背丈とそれに相応しい筋肉質の体。頭は二本の角が生えたライオンのようだが、四本の腕と似合わない小さな翼が奇妙な感じを与えた。予想通り、啓示夢で見たあいつだ。


 実物を直接見るのは初めてだけど……啓示夢のためだろうか。まるで長い間戦ってきた宿敵のように感じられた。


「……先に出て戦う!」


 直に奴の方へ突進した。


 蛮勇ではない。奴の体と魔力なら、戦いの余波だけでも周りに大きな被害を与えるだろう。結界の近くで戦ったら結界が壊れてしまうこともある。


 奴は特に僕を意識している様子ではなかった。でも自分に突進してくる小さな人間を見て激しく吠えた。


 奴の巨大な腕と僕の双剣が同時に動いた。


 ――ジェフィス式剣術〈閃光の爪〉


〈竜の爪〉に似た、だがもっと小さくてシャープな魔力の刃が奴の拳を受け止めた。


 本来の狂竜剣流にテリアに師事した天空流を合わせて自分なりにアレンジした剣術。まだ名前すらつけていない剣術だけど、それなりに実戦は経験してみた。その経験のおかげで、僕は奴にも通じると確信して戦いに臨むことができた。


 力を惜しんでは意味がない。『加速』を全力で開放し、魔力を注ぎ込んで自分自身と双剣を極限まで強化した。


 ――ジェフィス式剣術〈八頭竜の牙〉


 まるで腕が八つに増えたような連続斬撃を、奴ではなく周りに放った。


 奴の周辺からこちらに駆けつけていたザコどもが大量で死んでいった。斬撃一回当たり一匹程度ではなく、五匹六匹が一度に絶命するほどの威力と範囲だった。


 でもそのような威力でも最も重要な奴の肌には傷一つもつけられなかった。


「ちっ……!」


「キャオオ!」


 宿敵の反撃をバックタンブリングで避け、他のザコどもが近づいてくるのを横目で確認した。でも最も気になるのは宿敵の状態だった。


〈八頭竜の牙〉はそもそも奴ではなく周りのザコを一次的に整理するためのものだった。奴にはただ斬撃の一部がちらっとかすめただけ。でもその程度だったとしても、奴の肌に傷さえつけられなかったのは少しショックだった。


 ……慌てている暇なんてない。


 ――ジェフィス式剣術〈見えない竜〉


『加速』を極限に発揮し、肉眼では見られないほどの速度で周囲を駆け回った。宿敵の拳と魔弾が雨のように浴びせられたがその都度外れ、再び集まったザコどもは攻撃を放つ前に首が飛んだ。


 その速度と魔力をすべて込めた斬撃を、疾走の最後に宿敵に食わせた。


「クァアッ!」


「うっ……!」


 クソ、固い……!


 双剣は明らかに奴のわき腹にしっかりと命中した。でもその固さで跳ね返ってしまった。それさえも非常に浅い傷を与えたけど。


 奴は怒っているのか、魔力をたっぷり込めた拳を放った。拳自体は速度で避けた。しかし膨大な魔力が巨大な衝撃波を生み、僕は全身を巨大なハンマーで殴られたような衝撃で飛ばされてしまった。その上、僕が飛ばされていく場所にザコどもが集まった。


 ――ジェフィス式剣術〈月光の竜牙〉


 牙に似た巨大な斬撃を放った。詰めかけた魔物をその一撃で一網打尽した。しかしその短い時間でさえ、宿敵が僕のところに駆けつけて拳を放つには十分な時間だった。


 歯を食いしばって空中でターン。そして奴の拳に立ち向かう形で剣で突いた。


 ――ジェフィス式剣術〈星のツブテ〉


 刃に沿って伸びた魔力の突きが強力な衝撃波を吐き出した。衝撃波と突きが奴の拳を弾き出した。奴の指と手の甲が少し割れて血が流れた。


 この隙に着地して再整備を……。


「ギャアアア!」


 奴が怒りの咆哮をあげた。莫大な魔力の咆哮そのものが魔力砲になって僕を襲った。僕は魔力を展開する暇もなくその一撃を受けてしまった。それだけで僕は庭園の結界のすぐ前まで飛ばされてしまった。


「ぐ……あっ……!」


 めちゃくちゃに地を転がりながらも、なんとか体を起こした。騎士科や非戦闘科の生徒たちが僕を見て悲鳴を上げた。でもその悲鳴はまだ恐怖より僕への心配の色が強かった。


 ……その心を失望させるわけにはいかない。


「なかなか、やるんだな……」


 剣を杖のようについてやっと立ち上がった。


 吐き出した言葉と唐突な笑顔はどちらも空威張りだった。でも……まだ三割ぐらいは心からの自信があった。


 ひどくも痛いね。骨のいくつかはひびが入っているかもしれない。身体強化を最大出力にしておいたおかげでやっと耐えたが、同じもので何度かもっと殴られたら回復も不可能だろう。


 だからできる限り攻撃を避けて奴を倒す。今はそれだけだ。


 地面を蹴って前へ。全身が悲鳴を上げたが、動けないほどではない。


「邪魔するな!」


 途中で襲い掛かるザコどもを全部切り倒した。そしてそのうち硬く見える奴を捕まえて宿敵に投げつけた。奴はハエを追い払うくらいの手振りでその死体を叩き出した。


 その程度の隙間でも、最大出力の超加速で奴の足元に近づくには十分だった。


「うりゃあ!」


 技巧も何もない全力の振り回しが奴の足に命中した。今回も傷は浅かった。でも奴を挑発するには十分だった。


 落下する巨大な拳をかわして再び後退。額から流れ落ちた血が目に入る前にふき取り、わざと自信満々に笑った。


「覚悟しろ。今日貴様は僕の手に死ぬ」


 聞き取れたかどうかは分からないが、奴が咆哮した。


 生徒たちを守るため、そして自分自身が生き残るために。必ず勝つ。


―――――


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