彼の運命の戦場

 僕が一人で離れてしまったことに気づいたのは実際に一人になって少し経った後だった。


『よろしくお願いします、ジェフィス様』


 少し前までは、僕に明るく挨拶してくれる部隊員たちと一緒にアカデミーのあちこちを歩き回っていた。


 僕の特性は『加速』。速度に特化した能力だけに、戦場のいたるところを素早くサポートすることに特化している。僕と似たような特性を持っている彼らで部隊を構成し、敷地のあちこちへ落伍した人々の救出および魔物討伐が僕たちの役割だった。


 だが……バカな言葉だけど、みんな有能すぎるのが問題だった。


 僕たちがカバーしなければならない範囲は思った以上に広かった。でも僕たちは皆とても意欲的で、それぞれが非常に有能だった。


 個別行動でも任務遂行に問題がないほど。


 僕たちは次第に人員を分けて各地を支援し始めた。そうしたことがますます状況によってさらにバラバラになることになり……結局は僕一人ぽつんと残ってしまったのだ。多分他の部隊員の中にも一人で歩き回るメンバーがいるだろう。


 それでもまだ心配はなかった。


[ジェフィス様、大丈夫ですか?]


「こちらは大丈夫だ。みんな問題はなさそうだね。このまま各自の任務を続行してもいい。ただ危機状況の時は絶対に一人で無理するな、他の部隊員との連絡は緊密に維持するように。いつでも合流できるようにしろよ」


[かしこまりました]


 速度に特化した我々は、とにかく急襲と後退には非常に優れている。よほどのことでは問題になることはない。他人を助けようと無理してしまう場合でなければ各個撃破されることはほとんどない。


 それよりそろそろ新しい場所に行かないと……。


「――きゃあ!」


 その時、遠くから悲鳴が聞こえてきた。


 反射的にそちらへと走った。開けた所に来るやいなや魔物数匹の姿が見え、問答無用で奴らの背中を切った。そして奴らが襲おうとした人々の状態を見た。幸い、まだ大変なことはなさそうだ。


「大丈夫ですか?」


「は、はい……ありがとうございます」


 みんな生徒だった。非戦闘学科の生徒は約十人、騎士科の生徒は五人で彼らを守っていた。非戦闘学科の生徒たちは怖がっているだけで傷がなく、騎士科の生徒たちは浅い負傷程度。彼らの奮闘のおかげで大きな被害はなかったのだろう。


 それより騎士科の方は旧知だった。顔だけ知っている程度だけど。


「君は確かに……アレン・ロンド?」


「覚えてくださったんですね。光栄です」


 アレン・ロンド。そして他の騎士科はおそらく彼の友人たち。姉君の修練騎士団長選挙当時、呪われた森の邸宅で修練する姉君とテリアのことを見学した生徒たちだった。特に深い話をした関係ではないんだけど。


「ここを守ってくれたみたいだね。おかげで被害がなかった」


「騎士科として義務を果たしただけです。それよりジェフィス様はなぜここに?」


「遊撃隊活動をしていたんだ。今はみんな個別行動中だけどね。それより君たちはどうしてこんな所に?」


「俺たちは主要守備ポイントに行って合流しようと移動していたところ、ここに残った生徒たちを見つけて加勢しました。ここの皆がなぜここにいたのかは俺にもわかりません」


 アレンは非戦闘学科の生徒たちを振り返った。特に責める眼差しではなかったが、彼らは魔物とは違う意味でおびえた。


 彼らを安心させるために、まずは穏やかに笑ってあげた。


「責めるのじゃないから心配しなくていいよ。ただ経緯が気になるだけだからね」


「え、えっと……友達の避難を手伝おうとしました」


 他の生徒たちの保護を受けるような位置にいる女子生徒を見た。片足がなかった。


 ……なるほど。


「こんな中でも友達のために一緒に残ってくれるなんて、本当にいい子たちだね」


「も、申し訳ありません。あたしのせいで他の人たちまで……」


 当事者が泣きそうな顔で頭を下げた。自分のせいで他の人たちまで足止めされたと思って罪悪感を感じたのだろう。


 冷静に言えば間違いではないだろう。でも僕は気にせず微笑んだ。


「気にしなくていいよ。むしろ命をかけて一緒にしてくれる友達に感謝するのがいい」


 そんな友達ができるのはいいことだから。


 それよりのんびり話をしているけど……実はあまり余裕のある状況ではなかった。


「……アレン。状況は知ってるよね?」


「はい」


 非戦闘学科の生徒たちには聞こえないように、騎士科の生徒たちとだけ状況を確認した。


 すぐ目に見える範囲に魔物はあまりない。でも実は四方からこちらを包囲した気配があった。気配が動くのを見れば明確な意思を持って包囲網を組んだわけではないようだ。でもどこに行っても魔物と出会うだろう。


 僕一人だったり、騎士科の生徒たちだけだったら突破して抜け出すことは容易だ。しかし今は非戦闘学科の生徒が多い上、そのうちの一人は体が不自由な状態。この人員を連れて被害なしに強行突破するほどの能力は僕たちにはない。


「……結局この場での防衛戦になるだろうね」


 大丈夫。この子たちを守ることは可能だ。


 僕がそんな確信を持ったのは……皮肉なことに、ここがどこなのかを悟った後だった。




 アカデミー東の庭園。


 あの啓示夢で、まさにそこだったから。




「……はっ」


 思わず笑いが出てしまった。


 僕がどうしてここに来て戦うことになったのかは啓示夢にも出てこなかったし、テリアも知らなかった。でもまさかこんな形だとは思わなかった。


 啓示夢で僕は死んだ。でも。アレンをはじめとする騎士科の生徒たちが重傷を負ったが、死んだのは僕一人だけだった。


 つまり……僕は命を捧げて、彼らを皆守ったという意味だ。


 緊張で喉が渇くのを感じながらも、僕は頑張って自分自身を慰めた。


 大丈夫。生き残れる。死なないように努力した証拠がここにあるじゃないか。


 思わず手に力が入った。両手に握られたが僕に答えるようにぶる震えた。


 ……最善を尽くす。それでいい。


―――――


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