新しい状況

 ――『地伸』専用技〈大地の目〉


 違和感のターゲットを襲う前に、地の視界を見る技で対象を観察した。


 一言で言えば怪しさ満点だった。頭巾とマントで自分を完全に隠していた。その上、マントに認識阻害と気配遮断の機能まで備わっていて、視覚はもちろんそれ以外の方法でもアレが誰なのか突き止めることができなかった。近くで直接見るとあれほどの認識阻害くらいは見抜く自信があるけど、〈大地の目〉の精度がそれほど良くないのが問題だね。


 しかもその怪しい格好で何かを操作していた。こっちも〈大地の目〉の精度のせいでよく見えない。でも邪毒陣を地に設置しておいた状態ということだけはようやく分かった。


 こんなに大変になったアカデミーで邪毒陣を扱う。それだけでも不穏な奴だと判断するには十分だった。


 奴の後方から手だけを地面に突き出し、手首のスナップだけで短剣を投げた。麻痺毒をたっぷり塗った短剣だ。でも相手はすぐ後ろを振り向いて短剣を払った。よく見えなかったけどマントの中で短い剣を振り回したようだ。


 でも奴が麻痺毒の短剣を防ぐ間、俺はすでに奴の新しい後方に現れた状態だった。


 ――ハセインノヴァ式暗殺術〈鬼の歩み〉


 見えも聞こえもできず、魔力の気配すら感じられない暗殺の芸術。


 完璧なタイミングだと自信の一撃だったけど……その直後、何ともわからない衝撃が俺を吹き飛ばした。


「!?」


 飛ばされながらもすぐに体をひっくり返して両足で着地した。しかし相手は俺を追撃する代わりに、すでに俺から逃げていた。


 すぐに毒針と毒短剣を投擲し、〈大地の歩み〉で地面に潜行する。『地伸』の力で地上よりも速い速度で奴を追跡した。しかし奴は驚くべき速度で俺の追撃を振り切ってそのまま逃げてしまった。跡形も残さず、遠くから気配を感じることもできなかった。


 クソ、本当にきれいに逃げたね。


 しかし、奴が何かをしていた場所に戻ってみると、奴が操作していたと見られる邪毒陣と魔道具がそのまま残っていた。邪毒陣と魔道具に対する造詣が浅い俺には何の機能があるかは分からない。でも回収して持っていけば誰かが調べてくれるだろう。


 魔道具を回収し、邪毒陣を破壊した。すると少しだけど息苦しかった感じが減った。


 これは……邪毒濃度が減ったか?


 再び〈大地の歩み〉で〈大地の城壁〉の内側に復帰し、首脳部に発見したばかりのものを報告した。そしてリディアの傍から飛び出した。ちょっとだけど一人で壁の中で戦っていた彼女のことを少しは心配したけど……彼女は元気だった。


 というか、周りが爆死した魔物の死体でいっぱいだったけど。そのちょっぴりの間で何をしたんだよこいつ。


「来たの? 何があったの?」


「怪しい奴を見つけた。奴は逃したけど、奴が設置した邪毒陣を破壊して魔道具を回収したよ。一応ケイン王子殿下の方には報告したけど……もしかして感じる?」


「邪毒濃度が減ったこと?」


 やっぱり俺の勘違いじゃなかったんだね。


 しかも城壁の中に復帰してから見たのだけど、魔物の勢いが微妙に減ったようだ。少しだけど凶暴さも減ったし、何より……今出ている魔物の数は依然として多いけど、時空亀裂が魔物を吐き出す速度が少し遅くなったようだ。


 これも報告した方がいいね。




 ***




「報告内容は確かか?」


「はい。ロベル君からは不審者を発見したという報告を、そしてシド公子から不審者の発見とかの者の邪毒陣および魔道具発見の報告を受けました。詳しい資料はこちらへ」


「ケイン殿下。ジェリア公女の方からも報告が……」


 次々と入ってくる報告を整理しながら、私は戦場の状況が変わっていくのを感じた。


 各地の守備は順調だ。厳密に言えば魔力消耗がますます激しくなっているので実は順調というにはちょっと危ない状況ではあるが、少なくとも今すぐ何か問題が生じる兆しはない。


 だが時空亀裂の暴走と邪毒獣および魔物の軍勢出現だった戦況に、また別の人為的な介入が割り込んでいる。


 まだはっきりしていないが、報告を総合すると今暗躍中の不審者がピエリである可能性もある。もし本当なら邪毒獣以上の問題だ。彼自身の戦闘力だけでも邪毒獣以上の脅威である上、人間である彼は単純な武力以外の脅威をもたらすことができる。


 しかし、捜索に回す人員の余裕がない。それに……ジェフィスの方も心配だ。


 ジェフィスからの交戦連絡はなかった。でも彼との連絡自体が少し前から途絶えてしまった。最後に連絡が取れた場所を考えてみると、啓示夢で見た東の庭園に行っている可能性が高い。それならなおさら心配だが、そちらに派遣する追加人員も当然いない。


 当初こちらは邪毒獣が現れた中央講堂に結界を維持しており、騎士たちも大部分結界強化に集中している。この近くで現れる魔物を騎士や警備隊ではなく、私の『無限遍在』の分身たちが討伐しているほど余裕がない。他の所も同じで。


 そんな悩みをしていた時、突然東の教育棟戦線から連絡が入ってきた。


[ケイン殿下、リディアが東の庭園をサポートします]


 リディアさんだった。いきなり私の心を読んだのかな?


[ちょっと待ってよ! 俺には勝手に作戦変えないでと思う存分説教したくせにお前は急に変えるのかよ!?]


[それとこれは違うでしょ! リディアは正式に首脳部に作戦建議をするだけよ!]


[なッ……!]


「……二人仲がいいですね」


[どこがですか!!]


「そういうところです。それより説明をお願いしたいです」


 無理矢理本論を進めようとすると、リディアさんは咳払いをして答えた。


[先ほど発見した魔道具と邪毒陣を無力化した後、邪毒濃度と魔物の勢いが減少し始めました。今ならリディアが他の方に支援してもいいと思います。東の庭園が心配ですよね?]


「そちらの状況は本当に大丈夫ですか?」


[はい、シドが暴走さえしなければ]


 その言葉にシド公子は不平を言い、リディアさんはくすくす笑った。本当に仲がいいね。


 私は悩まず、すぐに決定を下した。


「いいです。リディアさんは東の庭園に行ってください。ただし、シド公子との通信は維持してください。万が一の場合はまた戻らなければならないかもしれませんから」


[かしこまりました]


―――――


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