戦いの中の喧嘩

「誰がバカなんだ!!」


 突然の非難に俺もカッとなって大声を出してしまった。


 リディアは一瞬驚いたように目を丸くした。でもすぐにまた険しい目つきになって大股で近づいてきた。一歩一歩で怒りを表出するように『結火』の宝石と熱気が噴き出した。周辺から押し寄せてきた魔物はそれだけでも焼かれて壊れて絶命した。


 俺の前に立ったリディアは怒った目を見開いた。


「一つ一つ面倒をかけないで! 啓示夢でもあんたのせいで大変なことになったんだって? また同じことを繰り返したいの!?」


「繰り返すわけがないだろう! 何が問題だったのかくらいは俺も知っているんだ。それを避ければいいんじゃないか!」


「じゃあただ亀裂に何もせずに近づいているって? あんた頭おかしくなったの!? 邪毒がだら流れてくる亀裂の近くがよぉくも安全だろうね、ねぇ!? いっそみんなで亀裂に飛び込んで死んじゃおうって言いなさいよ!」


「邪毒を防ぐ方法くらいは当然考えているよ!」


「せいぜい土壁で邪毒を防いだりするのでしょ! 今ここには浄化能力者が一人もいないし、浄化の魔道具もないじゃない! しきりに効率効率言ったけれど、浄化能力がなきゃ邪毒を防ぐこと自体がものすごく魔力の浪費なのよ! あとね……!」


 リディアは時空亀裂の方向を銃で指差した。銃口から巨大な爆炎が起こった。衝撃波と火炎が津波のように敵を飲み込んだ。だけど亀裂に触れるにはかなり足りず、魔物は依然としていっぱいだった。


「今一発にどれだけ魔力を入れたか知ってる? 魔物を殲滅して亀裂の位置を掌握しようって? その殲滅にどれだけ力を消耗するかは考えないの!?」


「最終的な消耗を考えようということだ! 一度に大きな力を消耗するとしても、その次に力を節約できれば結局消耗量が減るんだよ!」


 その時、俺たちのやり取り地帯に魔物が大挙押し寄せてきた。堀を飛び越えたり、上を飛んだりできる奴らだった。強い魔物が多かったけど、互いに怒っている俺たちにはただの邪魔に過ぎなかった。


「邪魔しないで!」


「消えろ!!」


 ――『結火』専用技〈太陽の城壁〉


 ――『地伸』専用技〈石の嵐〉


 巨大な〈爆炎石〉の城壁が俺たちの周りへと現れた。城壁の表面から恐ろしい爆発が起き、魔物を殲滅した。その爆炎に耐えながら近づいてくる奴らを無数の石の魔弾が貫いた。そして爆炎が石の魔弾を弾く奴らの表皮を剥がした。この合同攻撃で周辺一帯の魔物が一瞬にして絶滅した。


 ……普段なら口笛を吹いて息が合うと冗談を言うところだけど、互いに険しい目つきをしている今はそんな気分ではなかった。


「よく聞いて」


 リディアは少し落ち着いた声で口を開いた。不機嫌な様子は相変わらずだったけど。


「さっきも言ったけど、訳もなくこんな作戦を立てたんじゃないわよ。亀裂の特性を考慮し、戦況を予測し、各自の能力を総合して何が最善で可能なのかを悩んで出した作戦なんじゃない。それを途中で変えるのはバカがすることよ。作戦に不満があったなら議論の段階で言うべきだったのよ」


「不満というほどではない。ただもっといい方法を悩んだだけだよ。現場での判断で作戦を変えることも可能なことだろう」


「それは作戦に重要な欠陥があったり、現場での判断が確実性があるときの話でしょ。ただこれがもっといいという漠然とした感じだけで作戦を変えてしまうなら、指揮官と参謀がなぜいるの? ハセインノヴァは現場での臨機応変を重要視する任務に特化しているのでよくわからないようだけど、それが本当の戦争だったら状況によっては命令不服従で大変なことになるよ」


 ちっ、だから頭が固い騎士の奴らは。


 あと一言言おうとしたけど、その前にリディアが先手を打った。


「あんたは自信あるの? 確実に良い状況を作り、犠牲者を出さない自信がね。そもそも今も危険な状況じゃないし、そうなる見通しもまだ見えない。それでもただあんたの考えだけで部隊の動きを変えるって? そうして何かが間違っていたら、それはあんたの責任よ。啓示夢であんたがジェフィスの死に責任を感じたように」


「……!!」


 ……言葉が、詰まった。


 間違っていなければそれでいい、すべてがうまくいくと。頭はそう言いたかったけど、舌が固まったように言葉が出なかった。再び夢の光景が、テリアの言葉が頭の中をいっぱいに満たし、慣れない疑いがしきりに俺の心を乱した。


 そんな俺を、リディアは少し哀れそうに眺めた。


「……何がそんなに急いでいるの?」


「え?」


「あえてあんたが前に出て何かする必要はないでしょ。特に危険なわけでもないし、見通しが悪いわけでもないよ。でもあんたは必ず自分が何かをしなきゃならないと思っているようね」


 ……何言ってるんだ。


 そんなことを意識したことはない。ただもっと良い方法がないか悩んで実行しようとしただけだ。あんな……俺を責め立てるような考えはしなかった。そんなことしても父上は……。


 ……いや。


「……俺はただ魔物の増加速度に追いつけないことを心配しただけだ」


「それならリディアが手伝ってあげるよ」


 リディアは何度も引き金を引いた。そのたびに魔弾と爆炎が魔物を襲った。しかもたまに避けて近づいてくる奴らを撃退する近接戦能力もある。


 ……ちっ。ここまで来たら認めるしかない。


「……わかった。とりあえず現状維持で行こう。そろそろ話をする余裕もなくなりそうだから」


「ありがとう」


 何がありがとうなのかよ。


 よく分からない。でも俺の意見を折らせた割には妙に大人しい口調だった。


 もちろん問い詰めるつもりはない。あえてそうするようなことでもなく、何より……気分が全然悪くなかったから。


 このように俺の意見を諦めたのは初めてだ。でも心の片隅で負けたと思いながらも、敗北感などは感じなかった。むしろすっきりしたという考えさえあった。


 その感情がどこから来たのかは分からないけど……少なくとも悪いことではないと思った。


―――――


読んでくださってありがとうございます!

面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!

一個だけでもいいから、☆とフォローをくだされば嬉しいです! 力になります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る