リディアの目で

 何か納得のいく顔で魔物を相手に帰ろうとするシドを見て、私は少し申し訳ない気持ちで銃を触った。


「……ごめんなさい」


「はあ?」


 今にも魔物の方へと跳躍しようとしたシドが再び私を振り返った。しまった、聞こえちゃったのかしら。


「急になんで謝り?」


「あの……急に怒っちゃって」


「今さら? ……まぁいいよ。間違った言葉ではなかったと思うし。そしてもう思う存分タメ口で怒ったくせにあえて敬語に戻る必要もないんだ。俺はそんなのあまり好きでもないし」


「……大丈夫ですか?」


「言っただろう。そして先に勝手にタメ口を使ったのは俺の方だったし。それに……そんな風に忠告されたのは初めてだったけど、なかなか悪くない気分だった」


「それにしては怒ってたくせに」


「……それはバカ扱いをされたからだよ。とにかくそんなに気にする必要はない」


 シドは魔物の群れに向かって走った。


 私もやるべきことをやってみようか。


 シドが向いた方とは反対方向に向かって銃を向ける。外形は大口径だけの拳銃だけれど、発射するのは〈爆炎石〉を加工した魔弾。一発撃つたびに大きな爆炎が爆発し、魔物を数匹ずつ倒した。


 気にする人が消えた状態でそれを見ていると、ますます高揚感が沸き起こった。


「ハハハ! 全部吹き飛ばしちゃう!」


 ――『アーマリーキット』具現兵器・万能型多重武装『鋼のハリネズミ』


 大きすぎて盾のようなトンファーが両手に一つずつ握られた。


 拳銃、小銃、刀、大砲など。あらゆる武器を組み込んだ携帯用武器庫だ。一つ一つは特化武器に比べれば性能が劣るけれど、これ一つで多様な状況に対処できるし物量を吐き出すにも良い。まさに今のような乱戦状況ではこれほどの奴はいない。


『鋼のハリネズミ』の銃口を全開した。すべての銃口が一斉に火を放った。雨のように浴びせられる魔弾が魔物の群れを蜂の巣にし、魔弾が爆発して数多くの魔物が灰とホコリに化した。亀裂が魔物を吐き出す速度は速かったけれど、シドと部隊の攻撃に加えて私の火力まで重なると殲滅速度が上回った。


 けれど、すべての魔物が私の火力で溶けたわけではなかった。


「うっ!?」


 一瞬気配を感じ、『鋼のハリネズミ』一本を盾のように後ろに立てた。『鋼のハリネズミ』を叩く強烈な衝撃が伝わった。向こうを見ると、かなり強くてシャープな悪魔のような魔物が私を睨んでいた。


 盾として使われた『鋼のハリネズミ』のお腹から飛び出した銃口が火を噴き出した。奴はその一撃で灰になった。でも似たような魔物が何匹も私の方に来た。全方位へと射撃を浴びせたけれど、奴らの何匹かは弾幕を巧みに避けて私に近づいた。


 仕方ないね。『鋼のハリネズミ』一つを『灰色の猿』に変えて……。


 そう思いながら『アーマリーキット』に命令を出そうとした瞬間、近接していた魔物たちのすべての喉が飛ばされた。切り口から血が噴き出した。


「近づいてくる奴らは俺に任せて、お前は火力重視にしてほしいよ」


 いつの間にか私の傍にシドが立っていた。彼が魔物を始末してくれたようだ。


「あ……ありがとう」


「とういたしまして」


 ぎこちない感謝に粗雑に答えたシドは再び消えた。そしてあちこちで神出鬼没し、手に持った石剣や『地伸』の攻撃技で魔物を撃破していった。


 再び魔弾をまき散らし、一方ではシドを目で追いかけた。


 彼の速度は本当に幽霊のように速かった。しかも速度以上に、現れる地点が本当に絶妙だった。まるで集まっている魔物を瓦解させるような位置に何度も現れ、中心を打撃したのだ。普通は簡単に進入することもできない位置だと思うけど。


 注意深く見守った末、その移動の秘訣を見た。地だった。


 ――『地伸』専用技〈大地の歩み〉


 シドの体が地中に消えた。そして再び現れる時は地面から飛び出した。あるいは戦場のあちこちに太い石柱をいくつも立て、その石柱に出入りしたりもした。


 彼の特性は大地系。多分その能力を応用して、トンネルみたいなものを作って位置を自由自在に調節するんだろう。その上、地中に入るたびに彼の気配が完全に消えた。それは特性の力なのか、それともハセインノヴァの技術なのかは分からない。とにかく気配遮断と高速移動のレベルを見れば、特性をとても上手に使っているということだけは分かった。


 さらに彼は多数の魔物を相手にした殲滅戦にも長けていた。


 ハセインノヴァの暗殺術は早くて強いけど、一つを確実に殺す少数特化。だからこそ普通多数を相手にするには向かないという認識がある。実際にシドの攻撃手段はすべてそうだった。おそらく大きな〈大地の城壁〉を維持するために全力を出せないせいもあるだろうけれど。でも彼は驚異的な速度で一匹ずつものすごく速く倒すことで多数戦をこなしていた。


「……リディアもあんなに上手だったら」


 ぽつりと、思わず本音がこぼれた。


 今は無条件の自己卑下はしない。けれど、あのように長所を極大化させて限界を克服するのを見ると、思わず自分の能力を再び振り返ることになった。


「何をそんなにぼーっとしているのかよ」


 いつの間にか再び近づいてきたシドが声をかけてきた。私の側面に接近していた魔物の首を飛ばしながら。


「……ぼーっとしていなかったよ」


 私は反対側から近づいてくる奴の頭へと魔弾を撃ち込みながら答えた。


 実際にも間違った言葉ではなかった。思いながらも戦いは続けていたんだから。


 しかしシドはからかうように笑った。


「それにしては射撃速度と精度が少し落ちていたけど」


「……戦いには集中しなくてリディアばかり見ていたの?」


 少し憎らしいのでそう言い放った。でもシドは平然と肩をすくめた。


「そうじゃないけど、一緒に戦う仲間の状態をチェックするのは基本じゃん。それに……」


 シドは視線をそらした。魔物を見るふりをしていたけれど、私には恥ずかしがっているように見えた。


「俺のせいで怒らせたような気もするし」


 ……憎らしいバカ。


 そう思ったけど、あえて口には出さなかった。


―――――


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