東エリアのシド

 アカデミー東エリア。主に生徒たちが講義を聞く教育棟が集まった一帯のすぐ前の空き地に俺――シド・コバート・ハセインノヴァが立っていた。


 執行部員と警備隊で構成された兵力と一緒であることは他と同じだ。でもいざ兵力は空き地の外郭を遠くから囲み、俺一人だけが時空亀裂のすぐ前にいた。


「シド様、本当に大丈夫ですか?」


 執行部員一人が心配そうに尋ねたけど俺は自信満々な笑みで親指を立ててあげた。


「そろそろ魔物も出そうだし、始めてみようか」


 軽い口調だったけど、俺の体内から急激に沸き上がった魔力は全く軽くなかった。


 ――『地伸』専用技〈大地の城壁〉


 兵力の立っている地帯を含め、空き地の外郭が丸ごと隆起した。空に届くように勢いの大地は、やがて周辺にあった建物よりも高くなった。空き地全体を巨大な土壁が包み込むようになった。


「そっちでも射撃はできるよね?」


 土壁の上に向かって大声で聞いた。そしてそっちから戸惑いながらも肯定的な答えが返ってくるのを確認した後、ニヤリと笑いながら胸に手を当てた。そこを基点に魔力が広がり、夜空より深く暗い衣服とコートが現れた。


 ハセンノヴァ家が誇る潜行と暗殺の衣服である『暗行服』。サイズだけでなく能力的にも個人に合わせた服だ。偽装能力と暗器保管の他にも、俺の暗行服には俺の特性である『地伸』と連動して大地と同化する能力がある。


『地伸』。幼い頃はハセンノヴァに似合わない能力と言われた能力。大地界において『冬天』と同クラスの最上位能力で、地の要素を自在に操る力だ。強力だけど華麗極まりない力という理由で、兄弟や親戚があざ笑ったんだよね。


 まァ、今はあいつら全部何も言えないけどさ。


 とにかく俺が引き受けた役割は〈大地の城壁〉でこの一帯を徹底的に封鎖すること。もちろん魔物を倒すことも含まれるけど、根本的には奴らがここから離れないように防ぐのが主な役割だ。『地伸』はこのような大規模な術法にうってつけだから。『冬天』や『結火』のような同級の他の能力もこのような巨大な壁を作ることはできるけど、そっちはもっと攻撃的な代わりに維持するための燃費が悪い。


 ……個人的にはあまり気に入る役ではないけど。


「来る」


〈大地の城壁〉の上に布陣している部隊に向かって合図し、広げた両手に魔力を集める。


 ――『地伸』専用技〈盤岩固剣〉


 固くて強い結晶の小剣が両手に一つずつ現れた。それを握って構えるとほぼ同時に、時空亀裂から魔物が飛び出し始めた。


 素早く現れる魔物の軍勢に向かって正面から突撃した。土壁上の部隊も射撃を開始した。


 俺のことを気にせず思う存分撃ってもいいと予め伝えておいた。おかげであらゆる射撃と砲撃が容赦なく浴びせられ、四肢が切り裂かれた魔物たちが悲鳴を上げた。


 乱舞する肉片と悲鳴の間を走り、一匹ずつ確実に一撃を決める。時々現れる強い魔物もほとんど射撃組の生贄だったけど、たまに魔弾を跳ね返して耐える奴らもいた。そんな奴らこそ俺の刃を輝かせる絶好の相手だった。


 ――ハセインノヴァ式暗殺術〈鬼の歩み〉


 見えも聞こえない隠密な一撃が魔物の首を正確に切り、心臓を破壊した。


 魔力を隠し、視界を幻惑し、音を消したハセインノヴァはそよ風のようだ。それに今は射撃組の激しい攻撃のおかげで魔物の奴らの注意が乱れた状況。おかげで誰にもバレず戦場を駆け巡ることができた。射撃組の魔弾を避けて魔物だけを正確に選び殺すなんて、できなければハセインノヴァの名前を捨てなければならないほどのことに過ぎない。


 もちろん殺すだけではない。


「グワッ!?」


 大柄な魔物の足を魔力の紐で巻いて引っ張った。奴が転んで周りの魔物が押されて一緒に倒れた。奴らが障害物となって他の魔物の進路を妨害した。その障害物を越えて前進しようとする奴らに土壁の上からの射撃が殺到した。


 このようなやり方で戦場を撹乱することにも努めた。大柄で再生能力の弱い奴なら、ピンポイントで命さえ奪えばいい障害になってくれる。


 ――『地伸』専用技〈絶望の踏み台〉


 土壁の内側の地面全体を震撼させた。揺れ、時には隆起と沈降を繰り返して地形がめちゃくちゃになった。魔物の奴らが転んで転がり、時には互いを押さえつけた。こうなるとただのいい的になるだけだ。


 作戦自体は順調だ。順調だけど……ちょっとアレだね。


 魔物の氾濫を防いでいるのはいいけど、殲滅速度には満足できなかった。端的に換言すれば、魔物の総頭数が少しずつではあるけど増えていた。


 いくら〈大地の城壁〉が高くて強い壁でも、魔物の軍勢が触れれば耐えられるという保証はない。さらに『冬天』や『結火』のような特性に比べて燃費が良いとはいえ、〈大地の城壁〉はその規模に相応しく維持に必要な魔力もかなり大きい。その上、今も時々魔物の奴らの遠距離攻撃が〈大地の城壁〉を叩いている。


 おかげで俺は力の一部を〈大地の城壁〉の維持に充てている。これでは満足できる攻撃力を確保できない。


 どうせ射撃組の攻撃は心強い。むしろ最大限の火力で魔物を一掃した後、時空亀裂に火力を集中した方がいいんじゃない?


 実は最初にもこう思った。魔物が出る前にあらかじめ亀裂の位置を先取りして、魔物が出るやいなや討伐すればいいから。でもなぜかテリアが激しく反対した。


 ……それでもやっぱり飽き飽きするんだよ。これから魔物の勢いがもっと強くなるとはいえ……いや、だからこそ亀裂へまで押し通した方がいいと思う。このような曖昧な位置での抑制よりは殲滅の方が良いと思う。


 そう思いながらも実行に移さないのは……ある記憶のためだった。


―――――


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