ハンナとロベル

 堂々たる宣言に騎士さんが苦笑いした。


「……生徒だと見下したようだな。その点は謝るよ。ただ……」


 魔物の数はすぐに増えた。あふれる魔物が僕の側面を狙った。そのうち先頭から来る奴に僕の蹴りと騎士さんの剣が同時に放たれた。


 先ほどの僕のようにあっという間に近づいてきた騎士さんは、魔物の死体から剣を抜いてニヤリと笑った。


「こちらは戦闘のプロだ。仕事を奪うなよ」


「指揮はお願いします」


「おおっと。それでも警備隊や修練騎士団については現地人のお前の方がよく知っているだろう。アドバイスしてほしいよ」


 思わず笑ってしまった。この騎士さん、愛想がいいのか厚かましいのか分からないんだが。


 いずれにせよ、我々の突撃で戦闘が始まった。我々の部隊構成は突撃隊と後方支援部隊に分かれており、僕は当然突撃隊。騎士三人は僕を助けに来た人が突撃隊、そして残りの二人は後方支援部隊を援護しながら騎士団の魔力砲使用を監督しているようだ。


 ハンナは――いつの間にか突撃隊の一番前に走っていた。


「メイド嬢ちゃん!? 危ない!」


 騎士さんはハンナを止めようとしたが、彼女は聞かなかった。


 巨大なオオカミに似た魔物の爪がハンナを狙った。ハンナはそれを避けることができなかった。


 いや、


「ふん!」


 魔物の爪がハンナの肩に突き刺さった。いや、触れた。だが爪は彼女の肌を一枚も開けることができなかった。


「クワ?」


「せいやああっ!」


 当惑する魔物に向かって、ハンナは可愛い気合いで拳を突き出した。その拳が魔物の頭を一撃で粉砕した。ハンナは一瞬気持ち悪いように眉をひそめたが、首を振るだけで引き下がらなかった。


「技巧なんて苦手だけど……」


 ハンナは十字架のネックレスを乱暴にはぎ取った。ネックレスに魔力が注入されると大きさが急激に膨らんだ。


 ついに完成したのは、ハンナの身長より五割長く巨大な黒剣だった。


 ――『鋼体』専用技〈巨人の力自慢〉


「力だけは自信あるよ!」


 縦斬り。


 文字通り力だけにすべてを任せた斬りだったが、威力は確かだった。剣圧だけで周辺の魔物が吹き飛ばされ、刃が触れた大地が爆発するように爆発し割れた。魔物の軍団はめちゃくちゃになった地面で転がった。


 ハンナの特性は『鋼体』。特殊な能力はないが、非常に強力な筋力と固い体を誇る身体強化特化だ。これといった能力がないのでその分、力は恐ろしい。


 特にハンナは技巧が苦手なので、技術的な鍛錬を度外視した。彼女が特化したのはあくまで『鋼体』の極大化。人間を相手にするには十分ではないが、知性のない魔物にはそれこそ天敵同然だ。


「……メイド嬢ちゃん、可愛いのは外見だけだったんだな」


「やることも可愛いんですよ」


「シスコンだな」


 騎士さんの唖然とした呟きに答えたら、今度は呆れたような苦笑いが返ってきた。事実であるだけなのに。


 地を見事に破壊したハンナに魔物の注意が集中した。小さな魔物は体をまともに支えることもできなかったが、めちゃくちゃになった地面を踏んで壊しながら前進する中型魔物や飛んで接近する魔物が何匹かあった。


 ハンナはそのすべてを一瞥した後、剣を持った手にさらに力を入れた。彼女の筋肉は張り裂けそうに膨らんだ。


「せいやああっ!」


 ――太山剣流〈山壊し〉


 威力的な横斬りが津波のような衝撃波を放った。近づいてきた魔物は粉々に砕けた。でも魔物は依然として多く、ハンナ一人では当然手に負えない。


「後方部隊は制圧射撃実施! 突撃隊はメイド嬢ちゃんと一緒に前方を襲え!」


 騎士さんの命令に従って全体が動いた。まるで魔物の軍団と僕たちが正面から戦争をするような光景だった。その中でもハンナは突撃隊の先頭で魔物たちを相手にした。固い体で魔物の歯と爪を弾き、怪力と衝撃波で周辺の魔物を粉砕しながら。


 そして僕は何をしているかというと。


 ――『虚像満開』専用技〈偽りの軍勢〉


 無数の幻影が魔物たちの前を遮った。


「クオ?」


 僕たちを模した虚像が魔物たちに突撃した。時には側面から襲撃したり、時には進路を遮ったりもした。上空から目を引く虚像もあった。


 もちろんそのすべてが実体のない幻想に過ぎないが、魔物を撹乱するには十分だった。だまされた魔物が空中に空振りをするたびに味方の刃や魔弾が奴らを始末した。


 もちろん、それだけではなかった。


 ――極拳流〈一点極進〉


 突撃隊の側面から巨大な前足を上げた魔物を一撃で粉砕した。


 他の奴らより一層巨大な奴だった。開戦の時に殺した奴に比べれば弱いが、ハンナや他の突撃隊員にはそれなりに手ごわい相手だった。


 戦場全体を注視しながら幻想を配置し、たまに強い奴が現れると迅速に駆けつけて間引く。戦況を見る広い視界と強い力の両方を備えてこそ可能なポジション。今僕が遂行しているのはそのような役割だ。


「すごいな、少年。将来が嘱望される人材だよ」


「それは光栄ですね」


 騎士さんの口笛混じりの言葉に適当に答え、周囲の状況を見た。


 戦闘は順調だった。危険がないわけではなかったが、効果的に被害を抑えて魔物を駆逐していた。でも、いざ魔物の数はそれほど減っていない。いや、むしろ少しずつだけど増えていた。


 時空亀裂から魔物があふれ出る勢いは相当だったが、我々の攻撃力が不足したわけではなかった。それでも魔物の増加傾向に比べて僕たちの討伐速度が低い理由は……。


 ……なるほど。


「騎士さん。今からお願いする指示を全隊に出してください」


「うん? 必要なものがあるかよ?」


 騎士さんは絶えず魔物を切り倒しながらも余裕を持って答えた。この人、結構余裕を残しているね。


 騎士さんは僕が伝えた〝指示〟を聞いてニヤリと笑った。


「頭いい奴だな。それいいぜ」


―――――


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