西部戦線

 ――狂竜剣流〈竜王撃・巨竜〉


 ボクの予想以上に巨大な魔竜の形が前方を荒した。まるで都市の区画一つくらいは完全に殲滅しそうな勢いだった。〈巨竜〉の狂暴な威力が〈冬の回廊〉の氷壁を完全に破壊し、その向こうまで完全に荒した。遠く離れた所にある魔物発生ポイントまでも〈巨竜〉が届いた。


 狂って暴れる〈巨竜〉が消えた後に現れた光景は……きれいに掃かれて魔物の破片すら残っていない空き地だった。


 ――『冬天』専用技〈冬結界〉


 近くに魔物がない隙を狙って結界を復旧し、もう一度〈冬の回廊〉まで構築した。むしろ最初よりもはるかに巨大で固い氷壁が構築された。〈冬結界〉もさらに強かった。


「すごい……! やっぱりすごいです!」


 隊員たちがボクに喝采を送った。だがボクは冷や汗をかいた。


 ……ちょっと使っただけでここまでの効果とは。


 ボクが知る限りでは、もともと黒騎士の魔道具の効果はこれほどではなかった。安息領の奴らの物だから何か改造でもされているのか。効果は確かだが、このような力に代価がないわけがない。なるべく使うことがないようにしないと。


 それでも性能だけは確かだった。すでに魔物が再び押し寄せていたが、さらに強くなった〈冬結界〉の魔力が奴らを目立って鈍化させた。それを見守りながら備えていた隊員たちの顔にも歓呼と熱気が宿った。




 ……でもボクはぼんやりと感じていた。


 ボクの胸のどこかに、感情的なものとは違う……到着的で怪しい熱気が刻まれたものを。




 ***




「ハンナ。大丈夫か?」


「お兄ちゃんってば。過保護なんですよ」


 僕なりに妹のことを心配して言ったが、いざ彼女は余裕を持って僕の話を笑い飛ばした。


 大きくなったね、こいつ。


「ディオス公子に殴られて泣いたのが昨日のようなのに」


「まったく! いつの話ですか! 八年前じゃないですか!」


 顔を赤らめて怒るハンナの顔からは、八年前の柔弱さが少しも見えなかった。


 まぁ、あの時ハンナは子どもだった。むしろ物心がつく前からアルカお嬢様を仕えて最善を尽くしたハンナは偉い。本来ならその歳の子どもは統制もうまくできないだろうから。……僕もあまり年の差はなかったけど。


 しかし、それとは別に心配なことはある。ハンナはこんな戦闘は初めてだから。


 今僕たちはアカデミー西部にいる。僕たちの役割はここにある魔物発生ポイントを直接防御すること。修練騎士団と警備隊でも多くの人員が割り当てられており、監督役ではあるが正規の騎士もいる。


 安心できる規模といえるだろうが、逆に言えばそれだけの人員が必要だという意味でもある。ハンナもこう見えても魔物を相手にした経験はあるが、強い魔物を大規模に前にした経験はない。実際、表向きは平気なふりをしても、緊張で手が少し震えていた。


 手を伸ばしてハンナの震える手を優しく握ってあげた。


「大丈夫だ。お前も弱いわけじゃないから。万が一の事態が起きても僕が守ってやる」


「……お兄ちゃんに迷惑はかけないよ」


 ハンナは首にかけた十字架のネックレスをしっかりと握り締めた。覚悟ができた……と言えるかは分からないが、少なくとも気後れしていないようでよかった。


「そう言うお兄ちゃんこそお嬢様のことが心配で仕方がないんじゃないの? いつもそうだったじゃない」


「今回は大丈夫だ」


 お嬢様は邪毒獣を相手に行ったと聞いた。当然心配しないはずはないが、それでも今回は状況がまだマシだ。アルカお嬢様もいるし、何よりも僕よりずっと助けに行ったから。


 ……それよりハンナはお嬢様たちが邪毒獣を相手にするため行ったことを知らない。知ったら大変なことになるだろう。今は平静のためにも秘密にしよう。


 その時、監督役の騎士が僕たちに近づいてきた。


「大丈夫か? 大変そうなら後方に下がってもいい。騎士は自分を含めて三人しかいないが、生徒たちを前面に出すほど情けないわけではない。警備隊員たちも優秀だしな」


「ご配慮ありがとうございます。ですがその必要はありません」


「……まぁ、恐怖がないのはいいことだろう。しかし無理はするな。絶対に」


「知っています」


 そんな話をしている間、魔物発生ポイントに開いていた時空亀裂から魔力がうごめいた。


 ……来る。


「全員位置に! 敵が来るぞ!」


 強いて命令するまでもなく、皆が万全の態勢で待機していた。それでも騎士は号令をすることで皆の注意を喚起した。張り詰めた緊張感が広がった。


 時空亀裂から一度、大きな魔力波が広がった。それを合図に、ついに魔物が溢れ出た。


 最初に飛び出したのは邪毒の塊。小さな亀裂から不定形の邪毒が流れ込み、地面に触れるやいなや膨らみ魔物に変わった。その簡単な過程があっという間に数百回繰り返され、魔物の軍団になった。


 その中でも特に巨大で強い個体が一匹あった。まるで巨大な人間型胴体にヤギの頭をついたような魔物だった。


「あれは上位魔物だ。自分たちが相手にするぞ」


 監督役の騎士がそう言った。彼は僕が場所を振り返ったが、すぐに目を見開いた。




 ――僕はもうその魔物のあごの下まで突っ走っていたから。




 騎士たちも警備隊も修練騎士団も魔物自身さえも、僕の機動に気づかなかった。テリアお嬢様の修練に何年も付き合ってきた僕は、すでにこの程度の距離は瞬間移動に近い速度で動くことができる。それでもジェリア様に比するところではないんだけど。


 そして他の人たちが気づいた時はすでに、攻撃の準備まで終わっていた。


 ――極拳流奥義〈極点粉砕〉


 拳が魔物の腹部を殴った。着弾の瞬間、そこを起点に魔力が爆発した。魔物は粉々に爆発して散り、衝撃波で周辺の魔物まで破壊された。一撃だった。


 前方の魔物たちを睨みながら、言葉だけはぼうっとした人々に発する。


「メインは僕が担当します。反論は受け付けません」


―――――


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