禁じられた力

 一度だけ周辺の気配を探索したが、ピエリの気配はなかった。注意を引くための罠だったのか、それとも結界だけを壊して逃げたのかは分からない。そもそも結界が何の攻撃を受けて壊れたのかも分からない。


 とりあえず回廊方面に合流しなければならない。


 ――狂竜剣流〈竜王撃・飛竜〉


 巨大な渦をまとって突進した。そのまま〈冬の回廊〉の壁を壊して中に突入した。壊れた氷壁の破片と〈竜王撃〉の渦が魔物を粉砕した。


 すぐに氷壁を修復した後、魔物を無慈悲に吹き飛ばしながら守備隊の方へ向かった。そして不透明に加工した氷の衣服を形成して体を巻いた。


 脳筋でも一応公爵令嬢だからな。服がめちゃくちゃになって肌が露出した姿を人前で見せることはできないぞ。


 ……ちょっと待って。ピエリの奴はまさかボクの体を覗いたのか……?


 いや、余計なことを考えている場合ではない。


「皆無事か!」


 守備陣営に飛び込んだ。怪我人はいても死者はいなかった。負傷者も簡単な治療の後再び戦線に復帰できるほどだった。


「ジェリア様! ここは……だ、大丈夫ですか!?」


 テニーはボクを見て何か驚いた様子だった。視線がボクの服に向けられていた。急に氷の服みたいなものを着ていたから、服を失うほどの怪我を心配したのかもしれない。


 そのような負傷を負ったのは事実だが、今は戦闘続行が可能な状態だから不要な心配であるだけだ。


「戦闘に集中しろ。〈冬結界〉が破壊されたぞ」


「ただでさえそのせいでジェリア様のことを心配していました。無事でよかったです。ところで結界がどうして……?」


「悪いがボクも知らない。強い攻撃を受けたということしか把握できなかったぞ。結界の外側に強力な魔物でもあったようだ」


 率直に話す必要はないだろう。この状況にピエリが現れたということを公開すれば動揺が広がる可能性もある。


 だがそんな重要な情報を完全に秘密にすることはできない。テニーだけには話しておく必要がある。


[実はピエリの声が聞こえたぞ。奴がすでにアカデミーに入っているかもしれない]


 テニーは一瞬驚愕した様子だったが、すぐに表情を収拾した。ボクがあえて思念通信で自分にだけ耳打ちした理由を把握したのだろう。やはり信じられる奴だ。


[そうだったんですね。他の方にも話をする必要があるでしょう?]


[もちろんだ。ただ各陣営の指揮だけ知って秘密を守るように伝えろ]


[もちろん知っています]


 片付けが終わるやいなや、押し寄せる魔物に向かって突進した。突撃隊の先頭で奴らを迎えて戦った。


 魔物の勢いがさっきとははっきり違う。〈冬結界〉の鈍化効果がないだけに、こちらが本来の脅威というべきだろう。ボクにはまだ落ち葉のように殲滅できる雑卒に過ぎないが、突撃隊員の中で負傷者が続出していた。


「突撃隊全員、後方に後退せよ! 次の突撃前まで負傷者を落ち着かせ!」


 一人で前に進み、力をさらに開放した。〈竜王撃〉の渦をさらに巨大化させ、まるで台風のように敵を襲った。


「ジェリア様! 魔力砲の充電が完了しました!」


「このまま撃て!」


「はい!? ですが……」


「早く!!」


 迷うテニーを叱咤した。彼は歯を食いしばって発射命令を下した。他の隊員たちも慌てた様子だったが、もう一度「ボクのことを信じろ!」と怒鳴りつけると結局発射シーケンスに入った。


 発射の瞬間、〈竜王撃〉の力を高めて上空へ跳躍した。ボクの下の空間を魔力砲が燃やした。だが魔力砲に耐えながら突撃する魔物が思ったより多かった。すぐに後方支援部隊の目の前まで魔物が押し寄せてきた。


「チッ、すでに……!」


 後方支援部隊の前に着地して魔物たちを吹き飛ばした。魔力砲のおかげで数が減り、怪我もして一段と楽だったが、すでに次のウェーブが押し寄せていた。ボクは再び突撃して剣を振り回して考え込んだ。


 これではすぐに圧倒される。ボクは生き残れるが隊員たちが問題だな。そもそもボクと〈冬結界〉の活用を前提に人員を組んだため、今ここは他の所より兵力が不足している。


 だが〈冬結界〉を再び展開する余裕がない。一度くらいは奴らを完璧に殲滅すればいいと思うが、さっきの戦いでボクもかなり力を消耗した。余力が足りなくなれば危ない。


 もっと強い力があれば……。


 その時ふと、胸の中の物を思い出した。


 去年、ピエリの王都テロ当時に拾った物。おそらく安息領のものである黒騎士の魔道具。それを使えばこの場を何とかすることは可能だろう。しかし安息領の物をむやみに使うのはリスクが大きすぎる。


 しかし、ためらっている間も状況は時々刻々悪くなっていった。


「わっ!」


 隊員一人が肩を貫かれた。その横では太ももを切られ、また誰かは殴られて後ろに飛ばされてしまった。魔力で強化された肉体にはまだ致命傷ではないが、だんだん被害が累積すれば結果は明らかだ。


 全力を尽くせば皆を守って戦うことは可能だが、結果はボクの消耗が激しくなるだけ。ボクの力が枯渇する瞬間、皆一度に蹂躙されるだけだ。それでは意味がない。


 迷う暇はないな……!


「全員後退しろ! 第二線に退け!」


 命令を出しながらも、ボクだけは前方に残る。


 黒騎士の魔道具を使ったことはないが、使い方は知っている。中心部に適正量の魔力を流し込むだけで……。


 魔道具からごく微量の特殊加工された邪毒と魔力がボクの体に流れ込んできた。


「……うっ!?」


 甘い感覚。快感。そうしか形容できない感覚が、一瞬ボクを虜にした。


 その正体は陶酔だった。ほんの一瞬の使用だけでも、今までのボクを上回る力が感じられた。手軽に得た強大な力が、強烈な満足感と高揚感をボクに与えた。


 この力は危ない――本能的にそんな予感がした。だが今必要な力であることは確かだった。


「はあああああ!」


 力強い気合いと共に、ボクは湧き出る力をそのまま解放した。


―――――


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