ピエリの観点

「おい、ピエリ」


 私の名前を呼ぶ声に振り返った。ボロスの奴だった。


 せっかく自宅でのんびり休んでいたのに、こんな日もこいつの顔を見るとは。あっという間に気分が悪くなった。そしてこいつ、いつこの部屋に入ってきたんだ。


 ボロスは私の向かいの椅子に座り、何かを探しているかのように私の顔をのぞき込んだ。


「どォいうつもりかよ? こんなにのんびりしててもいいのか?」


「何が?」


「三十年前から準備したものがあったんじゃねぇか? それ結構楽しみにしてたんだぜ」


「貴様がなぜ?」


 一応聞いてはみたが、予想はできる。見るまでもなく私が何か大きいなことを爆発させてくれると思ったのだろう。


「三十年前に貴様が言ったじゃねぇか? これはってさ。元大英雄である貴様がそれだけの時間かけて野心的に準備したことだから、すげぇことは明らかだぜ」


 やはり。


 ボロスは戦闘狂であるくせに、あらゆる種類の大騒ぎが好きだ。だから私が何か大きなことを準備すると言ったら、目を輝かせながら飛びつく奴だ。こんな性格を利用して何度もこいつを利用してきた。


 今度のことはこいつを利用する余地があまりないけど。


「この私が大業を控えてただ遊んでばかりいるわけがないじゃないか」


「おお、やはり何かやってるのかよ? 正直、去年の作戦が失敗したのはオレもなッかなか焦ったぜ。今回は本当に期待してもいいかよ?」


「貴様は去年十分楽しんだはずだけど?」


「ハハハ、それはそうだがさ。でも貴様が見せてくれる楽しさに比べれば遠かったぜ」


 そんなに期待しても困るんだよ。


 そもそもこいつは私の計画を知らない。ただ自分が楽しむために、私の行動に便乗する方を選んだだけ。私としてもそれがこいつを利用しやすかったので放置してきたが……いつかこいつとの関係はきちんと整理した方がいいようだね。


 もちろん、そのいつかは今ではない。


「それでは準備でもしておいて、アカデミーを見ていろ。もうすぐそちらで面白いことが起こるからね」


「おお、いよいよか? いつかよ?」


「知らない」


「……はあ?」


 ……呆れた顔はなかなか見ごたえがあるんだね。覚えておいて、後で憂鬱な時に笑うために使ってみよう。


 あえて説明してあげる義理はないが、口をつぐんだらこいつは面倒くさくするだろう。だから少しはサービスしてあげようか。


「もうすぐアカデミーで封印装置の補修作業があるのは知ってるよね?」


「正確な時期はオレも知らねぇぞ」


「知らないのが当然だよ。それは外部には極秘だから。私がアカデミーにまだいたら分かったはずだけど、今はその地位を失ったから私も分からない」


「そりゃそォだろ。で、それがどォした?」


 ここまで言っても気づかないのか。まったくもどかしい奴め。


「私の計画は補修作業と関係があるから。そちらが始まらなければ私の計画も始動しない。だから私もいつなのか分からないんだよ」


「む? ……あ、そォいうことか。それで三十年かかったかよ? 補修作業は三十年周期だからな」


「貴様にも最低限のセンスというのがあってよかったね」


 私がアカデミーにいたら、もう少し正確に経過を観測できただろう。だけど、その機会は私自ら捨てた。どうせ経過をあえて直接観測する必要もないし、その方が


 それを知らないボロスとしては相変らず疑問があるだろう。


「ならなおさらこォしていてはいけねぇだろ。やっつけるタイミングを見ねぇと」


「あの少女も貴様と似たような考えをしているんだろうね」


「は?」


 私は誰にも計画をバレない自信があった。


 しかし、そのうぬぼれはある少女の登場であっけなく壊れてしまった。テリア・マイティ・オステノヴァ。情報と謀略の大家であるオステノヴァ公爵家の末裔。オステノヴァとしての洞察力で自ら結論を出したのか、あるいは公爵が裏から介入したのかは分からない。でもどちらにしても、オステノヴァ公爵家が本格的に介入すればそれだけで破綻することもある。


 それで五年前あの少女が現れて以来、私はアカデミーでの目標を変えた。徹底的に息を殺して、あの少女を観察することで。そうしてこそ、あの少女の弱点を突き止めることができた。


 それは、あの少女が情報の機密性と自発的な解決にかなり執着しているということ。そして私は確信した。オステノヴァ公爵の介入はなく、介入する余地もまだないということを。


 理由は分からない。しかし、いくつかの推論は立てた。たとえば、あの少女が私の何かを気づいたのは独自のことであり……おそらく明確な物証などはないだろうということを。


 オステノヴァ公爵が本格的に介入すれば、計画続行は不可能だ。私自身は逃げればいいんだが、少なくとも三十年前の準備は水の泡になっているだろう。しかし、あの少女はその道を選ばなかった。私の計画の危険性を軽視したというよりは、おそらく過去の名声がある私を疑うだけの証拠を確保できなかったからだろう。


 時間をかけて推論に確信を得て去年、わざと王都テロを起こした。私がアカデミーを離れるしかない状況を


「すべての準備はもう終わったよ。残ったのは事が起こることだけ。それで休んでるんだよ。


「……また何を考えてんのかは分からねぇが、構わねぇ。貴様がそォしているのなら、きっと何かが起こるだろからな」


「フフ、どうかな」


 もちろん不安な点はある。あの少女がついに計画の本質に気づく可能性。いわば、これはあの少女が正しい結論を下すのが先なのか、それとも……補修作業が先に始まるかどうかのチキンレース。


 むしろ補修作業がもっと早く始まればいいのに。むしろそっちの方が。しかし、これは私が介入できない問題だから仕方ない。


 まぁ、たとえ計画が成功しても、あの少女が力で揉み消す可能性はあるが……五行陣にも至らなかった幼い騎士の力で邪毒獣を倒すのは難しいだろう。


 それでも念のため、その場合のためのものを別に準備してみないと。


―――――


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