突拍子もない神懸かり

 ……これはいったい何なんだ。


 どういうことなのかは分からない。でも、これもあれも納得できない。僕が残された人々の悲しみを後にして一人だけ笑って死んでしまったのがまず呆れる。その上、このような状況になったこと自体も意味不明であり、姉君がまるでシド公子の失策であるかのように言ったのも理解できない。でも何よりも、いったいどうしてこんなわけもわからない夢を見ているのか分からない。


 動け。


 じっと見てばかりいて終わらせるわけにはいかないだろう。


 そう自ら誓って体に力を入れた。少しだけど動いた気がしたと思った瞬間、一瞬で体の感覚が戻ってきた。その直後、僕の手が悲しむ人々に向かって伸びていった。


 僕は死んでない。


 この状況の意味はわからないけど、あんなに死ぬつもりはない。


 僕はここにいるんだ。


 そんな思いを込めて、姉君に力いっぱい手を伸ばした。


 その手が姉君の肩に向かい……。




【そこまで】




 暗闇よりも黒い手が僕の手首をつかんだ。


「うっ、誰だ!?」


 少し前まで動けなかったことが信じられないほど、自然に叫び声が流れ出た。でも僕の手を握った黒い手は微動だにしなかった。それに握られた僕の手も同じだったし……目の前に広がる光景も同様だった。


 まるで時間が止まってしまったようにすべてが停止した世界。しかしその中で、僕の手首を握った存在だけがゆっくりと動いた。


 真っ黒な存在……としか表現できない。ただ人間型の輪郭だけが見えるだけの漆黒のシルエット。顔さえも滑らかな黒だけの存在だったけど、なぜか僕を見る視線だけははっきりと感じられた。


【貴方バカ? これが現実じゃないってことくらいは気づいたでしょ。どうして意味のないことで時間を無駄にする?】


 雑音の激しい声が僕を非難した。その非難よりも、目の前の存在そのものが僕の神経に障った。


「あんたか? このくだらない夢を見せてくれたのが?」


【気が利くね】


「こんなものを見せるなんて、いったい何のつもりだ!?」


【考えはちょっと足りないね】


 軽い話し方がもっと僕を怒らせた。でも僕の手首をつかんだ手は依然として微動だにしなかった。いや、むしろ握力に押された手首が痛い。


 あいつが僕の手首から手を引いた。でも凍りついたように止まってしまった世界はそのままだった。これが本当にあいつが見せてくれた夢なら、止まってしまうのも勝手だということか。


【まぁ、特に秘密じゃないけど。そもそも私の口で教えようとわざと現れたよ】


「どういう意味だ?」


【これは現実じゃない。貴方はベッドで平穏に寝ていただけで、邪毒獣もまだ現れていない。でも、この夢を見せる必要があった】


 邪毒獣が現れていない?


 そういえば、夢の光景でも姉君が邪毒獣に言及していた。しかも、その場に集まったメンバーのことを考えると……夢の光景は災いが実際に起きた時の光景、つまり未来のことだというのか。


「僕が死ぬということか?」


【確定じゃないよ。原因の一部はすでに除去されているから。でも、まだ可能性はあるよ】


 まさか僕に警告しようと夢を見せてくれたというのか?


 しかし、突然あんなことを言うのを簡単に信じることはできない。その上、未来を知ってそれを夢で見せるというのが現実的に可能なのかも疑問であり、たとえ可能だとしてもそうする理由が何なのか全然わからない。


 奴は僕の考えを読んだかのように鼻で笑った。


【疑わしいなら後で貴方の幼い師匠に聞いてみて。十分納得できるはずだから】


 幼い師匠? 彼女のことを言うのか?


 彼女とは、まただ。誰なのか思い浮かばないのに、まるで当たり前のように存在を前提にしている。


 彼女が師匠だなんて、とんでもないことだ。姉君を邪魔する憎しみ深い……。


 いや、何言ってるんだ。彼女ほど立派な人がどこにいると……。


「……うっ!」


 あっという間に氾濫した考えが入り混じった。頭が割れそうな頭痛が襲ってきた。頭をつかんだけど、そうすればするほどむしろ苦痛がさらにひどくなるばかりだった。


【しっかりして。あえて思い出そうとしなく無視しなさい。この夢の空間では貴方の幼い師匠を思い浮かべることができないから】


「これも……あんたの仕業なのか?」


【記憶を封印したのは私だけど、そうでなければ今頃貴方は相反する記憶の衝突のせいで脳が破裂して死んだはずよ。頭痛で終わったのも私のおかげだと思い知るのがいいよ】


「目的は……何なんだ?」


【さぁね。言っても聞けないはずよ】


 そんなこと言う時間あるならさっさと言え。


 そう言いたかった。でも頭痛がひどくて口を開けることさえ大変だった。必死に考えを空けながら頭を落ち着かせると頭痛が一層弱くなった。


 一方、奴はしばらくじっとしていた後、また何か言った。


【――――――】


 ……あれを言葉と言えるかは分からない。


 ノイズだけの何かに近い音だった。当然内容を聞き取ることもできない。言葉だと判断したのも、その中に声のような何かが混ざっている感じがしたためだった。


 奴が舌打ちをした。


【やっぱりダメかな。……私が教えたくてもこれは仕方ないよ。私じゃなくて世界が抑えちゃうんだから】


 いったい何をしに来たんだ、こいつ。わけも分からないことで僕を混乱させに来たのか?


 奴はしばらく考えた後に口を開いた。


【今から私の言うことをよく覚えておいて。そして目が覚めたら貴方の幼い師匠に伝えて】


「その幼い師匠っていったい……」


【今は覚えてないから無理しないで。どうせ目が覚めたらすぐ自分で分かるから】


「……さっきこれ夢って言わなかった?」


【心配しないで。まばたき一つまで忘れなくなるから。私がそんなバカげた間違いをしそう?】


 話はうまいね。誰かも知らないのに。


【とにかく、貴方の幼い師匠にこの夢で見たことを話して。そして今回は私が……『隠された島の主人』が助けてあげられないと伝えて。だから今回は頑張らないといけないって】


「『隠された島の主人』? まさかあんた邪毒……」


【さあ、魔法の夢の時間は終わり。もう帰る時間だよ】


 邪毒神の名前をつけたのが信じられないほど軽い話し方だった。直後、僕はまるで追い出されるように夢から覚めた。


 ……僕の夢なのに僕が追い出されるなんて、本当にバカげたね。


―――――


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