結論のない推測
去年の視察以来、私は本格的にジェフィスに剣術を教えていた。
厳密に言えば要領や訓練法などを一部伝授して監督する程度。だから〝本格的に〟という表現には少し語弊があるけれど、思ったより教えるのが本格的だという感じはあった。今は定期的に練習場や呪われた森の訓練場を利用して技術を教えたりもするし。
今日もそんな日だけど……普段は意欲的だったジェフィスが今日に限って憂鬱そうに見えた。
「ジェフィス? どうしたの?」
気分がダウンすること自体は珍しくないけど、今日は悩みが多そうだね。
「……あ、夢見が悪かったんだ」
「悪夢でも見た?」
「いっそ平凡な悪夢なら心が楽だっただろ」
何だろう。気になることでもあったのかしら。
……まさか?
不意に疑いが頭をもたげた。私はすぐにジェフィスの肩をつかんで彼をじっと見つめた。
「し、師匠!?」
ジェフィスは当惑して顔を赤らめた。
初々しい反応は可愛いけど、今はそんなことを鑑賞する場合じゃない。
ジェフィスの体を魔力的な意味であちこち見た私は……すぐにその痕跡を発見した。
「ちょっと失礼するわ」
すぐジェフィスの体に魔力を浸透させた。その魔力で今発見したものを彼の体から引き出した。私の魔力に包まれて引き出されたそれは……とても小さくてかすかな漆黒の魔力だった。
「これは……邪毒?」
ジェフィスの言葉に私は頷いた。
「そうよ。ただこれくらいの量と濃度、そして体内に残っていたやり方……これは啓示夢の痕跡である確率が高いわ。ジェフィス、夢見が悪かったって言ったのがもし……?」
「啓示夢……そうだったのか」
やっぱり心当たりがあるみたいわね。
ジェフィスは何かを決心したかのように固い顔で私を見た。
「師匠。『隠された島の主人』のことは知ってるよね?」
……またその名だね。
忘れるはずがない。去年アルカを刺激しただけでなく、安息領の王都襲撃の際、片鱗が直接降臨して私に話しかけた邪毒神。それ以降は信奉者たちの活動が静まり存在感が薄くなったけど……むしろそれがもっと怪しいので、信奉者たちの動向はずっと見守っていた。
ただ、アルカに啓示夢を出した時はまだ自分の名前をつけてはいなかったんだけど。何か変わったのかしら。
「実は今日夢で見たのが……」
ジェフィスの説明を最後まで聞いて、私は唇をかんだ。
ジェフィスの死とジェリアの対処。ゲームの回想シーンの内容だ。その上、邪毒で構成されたような存在が現れて自分を『隠された島の主人』と主張したという。
確信することはできないけれど、おそらくあいつはあの邪毒神であるのは事実だろう。そういえば、あいつはアルカにもゲームの内容を見せてくれた。やっぱり『隠された島の主人』は『バルセイ』のことを……いや、正確には
ただし、ゲームそのものと何か関係があるかどうかはわからない。あの邪毒神が見せてくれたのは生々しい現実映像のようだけど、『バルセイ』は平凡にモニターの中で繰り広げられたゲームに過ぎなかったから。もちろん内容さえ分かればそれを再構成することくらいは難しくないだろうけど……何か気まずい。
とにかく、今はそんな曖昧な悩みをしている場合じゃない。
直接現れてジェフィスに触って声までかけたなんて。啓示夢であんなことが可能だという話は聞いたことがない。ゲームの設定としても、そしてこの世界での現実事例としても。
アルカの内面世界に浸透して彼女の力まで操作したというだけでも十分規格外の存在だけど……これはまたあいつに対することを見直すしかないだろう。
「そしてあの邪毒神が師匠、君に残した伝言があるんだよ」
「え? 私に?」
「そう。あいつは〝幼い師匠〟と呼んだけど、僕にそんな人は君だけだから」
……あの野郎、まったくあからさまに私と関連がありますよアピールしてるわね。
去年のアルカの件や片鱗降臨もそうだし、今回のジェフィスの件もそうだし。あいつの目的はおそらくアルカとジェフィスじゃなかった。
奴の目的は……多分、私。
「伝言は何だったの?」
「今度は自分が手伝えないって言ってた。だから頑張らないといけないって」
「はあ!?」
何よ、あいつ? 私が毎回助けてもらったように言わないでよ!
……と言いたいけれど、去年の事件の時は私が大きな間違いを犯したことは否めない。もしあの時あいつが私を助けてくれなかったら大きな惨事が起きただろう。
あいつの目的が私と関連していることはほとんど確かだ。ただ、それが良い方向なのか分からないのでもどかしい。私に執着する姿自体が他の目的のための演技かもしれないし。
【でも今まで見せてくれたものだけ見れば少なくとも悪い方じゃないんじゃない? この前は実際に貴方を助けてくれたし、今回も警告してくれたんじゃないの】
え、以外だね。イシリンがあいつの肩を持つなんて。
[肩を持つの? 去年はあまり仲が良くないように振舞っていたのに]
【良いのも悪いのもないし何の関係でもないわ。あの時初めて会った仲だったから。前はあいつが勝手に判断することを言ってかっとしただけよ】
[じゃあ、今度はどんな心境の変化が生じたの?]
【私もよく分からないわ。ただ……】
イシリンは少しためらって、何か釈然としないような口調で話し続けた。
【何だか……親しみを感じたわよ。まるで古い友達に会ったような感じがするの】
[初対面だったって言う言ったでしょ?]
【そうよ。だから私もおかしいわよ。なんでそんな感じがするのか全然わからないわ】
……いったい正体は何なの、あいつ。
いや、考えてみれば最初から黒だらけに過ぎなかった。それが素顔じゃないとしたら、ひょっとしたら……。
[あいつの素顔が実は貴方が知っている存在かも?]
【そういう可能性もあるわね】
正体不明の奴の干渉ほどぞっとするものはないけど、今のところどうしようもない。
イシリンも同意する気配が感じられた。
【とにかく気をつけて。あいつが警告したのはどうせ貴方も備えていたから、やるべきことは変わらないわよ】
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